魔法剣士編

第55話 技の復習

ニノの街を出発してから翌日の朝、レノは小川の近くで野営を行い、朝日が昇るとウルに顔を舐められて目を覚ます。



「クゥ~ンッ」

「うわぷっ……ちょ、止めて……分かった、もう起きるって」

「ウォンッ!!」



一人旅の時は夜は安心して寝付けなかったが、現在はウルが傍にいるのでレノは安心して眠れるようになった。白狼種であるウルは眠っていたとしても敵が近づけばすぐに臭いと気配を察知して目を覚ます。


但し、人間と違って魔獣であるウルは空腹を覚えると我慢は出来ず、外にいる間はお腹を空くとすぐにレノにねだってくる。ウルのお陰で旅は快適だが、その分に食費が多くかかった。宿屋に泊まる時も馬小屋がある場所を選ばなければならず、しかも宿屋によっては他の馬が怯えるという理由で拒否される事もあった。



「ほら、干し肉だよ」

「ウォンッ」

「全く、自分で餌ぐらい取れるんだから起こさなくてもいいのに……って、聞いてないな」

「ガツガツ……」



レノが荷物の中から干し肉を渡すとウルは嬉しそうに嚙り付き、その姿を見てレノは怒る気も失せた。実際にウルのお陰で寒い夜もウルの毛皮を毛布代わりにして温まる事も出来るため、テンからウルを譲り受けた事自体は後悔していない。



「さてと、もう目も覚めちゃったし……素振りでもしようかな。いや、今までに覚えた剣技の復習でもやっておくか」



ロイから旅の間も一日も欠かさずに剣の鍛錬を行うように言われていた事を思い出したレノは剣を抜くと、まずは彼から最初に教わった「地裂」を放つ。



「地裂!!」



この技の製作者のロイは剣を地面に突き刺し、その状態から力を蓄積させて一気に振りかざすのがロイの必殺剣だった。しかし、レノの場合は単純な腕力ではなく、風の付与魔術を利用して刀身の先端部に魔力を集中させ、一気に解放させる。


先端から突風を生み出す事で剣を加速させ、下から繰り出す。この時に地面の土砂を巻き込み、土煙を生み出して敵の視界を封じる、あるいは地面に落ちている物体を前方に繰り出す事も可能だった。



「次は……嵐斧、からの円斧!!」



横向きに向けてレノは剣を振り抜き、この際に地裂と同じように先端から風の魔力を放出させ、剣を加速させて繰り出す。更に遠心力を加えて二撃目を放つ派生技の「円斧」も生み出す。



「兜割り!!」



続けて薪割りの要領で上段から剣を振り下ろし、この三つの技がレノが現在扱える「剣技」と言える。下から繰り出す技が「地裂」横薙ぎに振り払うのが「嵐斧(円斧)」上段から繰り出す攻撃が「兜割り」これらの技は魔石無しの状態のレノでも繰り出せる。


タスクオークを倒した際に使用した「嵐突き」は魔力の消耗量が激しく、風の魔石を利用せずに繰り出すとレノは魔力を一気に消耗して倒れてしまう。実際にこの技を最初に試した時はレノは気絶してしまい、後にダリルが彼を発見して慌てて介抱したぐらいに危険な技だった。



(嵐突きは魔法腕輪を身に付けていない状態で使用するのは危険過ぎるな……出力が上手く抑えきれないし、人間相手に使える技じゃないな)



赤毛熊と同程度か、あるいはそれ以上の力を誇るタスクオークを一撃で葬れるほどの大技ではあるが、現時点のレノでは完全には使いこなせない。使用するとしても魔法腕輪を装着した状態か、自分が追いつめられたときのみに限定される。



「最後は……嵐刃!!」



レのが斧で大木を斬っていた時、一番最初に覚えた「魔法剣」は刀身に纏った風の魔力を刃全体から放出し、三日月状の風の刃を生み出す。この嵐刃は相手との距離が離れすぎていると威力が落ちるが、至近距離の場合だと更迭をも切り裂く威力を生み出す。


剣に付与魔術を施した状態ならばいつでも撃ち込める事が可能のため、場合によっては他の剣技と組み合わせる事も出来た。実際に山で樵の仕事をしていた時はレノはこの嵐刃を多用し、大木を斬り続けていた。



「ふうっ……だいたいこんなもんかな、ごめんね。ウル、放っておいて……あ、寝てる!?」

「グゥウッ……」



結構派手な音を出していたにも関わらず、餌を食べて満足したのかウルは鼻提灯を作りながら眠っていた。そんな相棒の姿を見てレノは苦笑いを浮かべ、小川に視線を向ける。




――ウルが寝ている間に今日の朝食を確保しようかとレノは刀を置いて弓を取り出す。水面に視線を向け、レノは矢を構えると付与魔術を発動して矢に風の魔力を纏わせる。こちらの「魔弓術」はレノが魔法剣を覚えるよりも先に無意識に編み出した技術だった。


風の魔力を纏わせた矢は弓から放たれるととレノが視界に捉えた「標的」の元に自動的に追尾する。標的が動かない存在だった場合、視界を外した状態でも撃てば勝手に移動して標的の元まで届く。


魔石無しでも鋼鉄の板を貫くほどの威力を誇り、この技術を上手く活用すれば森のように木々や林などの障害物が多い場所でも、視界に捉えさえすれば後は矢が軌道上に存在する障害物を回避して標的を射抜く事も出来る。




ダリルはレノの魔法の中でもこの魔弓術が恐ろしく、人間を暗殺するさいに最も優れた能力だと確信していた。子供の頃のレノはこの魔弓術がどれほど凄い技術なのかを自覚していなかったが、年齢を重ねるごとにその恐ろしさを理解し、あまり人前では見せないように心掛けていた。


但し、ネカの商団が襲われていた時は咄嗟に魔物から彼等を助けるために使用し、その事を怪しまれた時は咄嗟に自分の弓が特別製だと嘘を吐いて誤魔化した。しかし、もしもまた同じような状況に陥った時はもっと上手く誤魔化せる嘘を考えて置く必要があった。



「魚は……お、あっちの方で泳いでいるな。あれを狙うか」



レノは山暮らしで自然と磨かれた持ち前の視力で川の中を泳ぐ魚を捉え、魔力を調整して矢を放つ。あまりに魔力を込め過ぎると矢で射抜いた魚が吹き飛ぶ可能性もあるため、適当に威力を弱めて放つ。


弓から放たれた矢は水中を泳ぐ魚の後を追いかけるように軌道を変更し、水の中に潜り込む。そして水の中を移動する魚の胴体を貫くと水底に突き刺さる。泳いでいた魚はいきなり自分の身体が貫かれた事を理解できず、必死にもがくが矢は抜けない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る