閑話 〈幼馴染〉
――時は遡り、レノがエルフの里を追放される前日、彼の幼馴染であるヒカリはレノを連れて森の中で遊んでいた。里では二人が一緒にいる所を見られると他の子供達が邪魔をしてくるため、いつも二人は森の中で遊んでいた。
「レノ、こっちだよ!!こっちで蛍を見つけたんだ!!」
「ちょっと待ってよヒカリ……あうっ」
「あ~また転んだ、レノは本当に足が遅いなぁっ……」
「ひ、ヒカリが早すぎるんだよ……いててっ」
ヒカリは森の中を元気に駆け回るのに対してレノは後を付いていくのがやっとだった。ヒカリは同年代の子供の中でも一番足が速く、それでいながら身軽だった。実際にヒカリは子供とは思えぬ程の高い身体能力を誇り、彼女は岩を飛び越え、木々の枝に飛び移りながら森の中を進む。
エルフは基本的には人間よりも身体能力が高い方ではあるが、それでもヒカリは普通のエルフの子供と比べても腕力も脚力も凄かった。前に里の子供たちがレノを虐めている時を見た時は激怒したヒカリは全員を叩きのめした事もある。もしも族長の子供でなかったら大問題だったが、ヒカリは友達を傷つける相手には容赦しない。
「ほら、見て!!ここで蛍を見つけたんだ!!」
「こ、ここって洞穴?この中で見つけたの?」
「そうだよ!!ほら、中に入ろう!!」
ヒカリは森の中に存在する洞穴にまでレノを案内すると、彼の手を掴んで中に入る。ヒカリは全く怖気もせずに洞穴の中を突き進むが、レノは今にも熊などの野生動物が出てこないのか不安を抱く。
「ひ、ヒカリ……僕、怖いよ。帰ろうよ……」
「もう、レノは本当に怖がりだな……なら、僕一人で行くからレノは戻る?」
「ううっ……ヒカリを置いて帰れるわけないよ」
「えへへっ……レノのそういう優しい所は好きだよ」
怖がりながらも自分の手を握りしめて恐怖を押し殺しながらも付いてきてくれるレノにヒカリは微笑み、彼女はレノを安心させるようにしっかりと握りしめる。あまりに握りしめる力が強くてレノの表情が引きつってしまったが、暗闇の中なのでヒカリは気付くことはない。
二人は洞穴を進むと、やがて広い場所へと辿り着く。洞穴の奥は天井の一部が崩れており、陽光が差していた。そして陽光によって照らされた箇所には古ぼけた「長剣」が刺さっていた。
「あれ、これって……剣?どうしてこんな所にあるの?」
「さあ、僕がここを見つけた時からあったんだよ。この剣、抜こうとしても抜けないんだ」
「え?ヒカリでも抜けないの?」
「むっ、なら一緒に抜いてみる?」
ヒカリの力を知っているレノはヒカリの言葉に驚くが、彼女はレノを誘って剣を抜く事を提案する。レノとヒカリは二人がかりで剣を掴んで引っ張るが、びくともしなかった。
「う~んっ……駄目だ、全然抜けないや」
「ね?僕の言ったとおりでしょ?でも、この剣に付いている水晶玉ね、僕が触ると光るんだよ」
「えっ……光る?」
地面に埋もれる岩に突き刺さった剣にはヒカリの言う通りに「水晶玉」が取りつけら、その部分に彼女が触れると確かに光り輝く。その次の瞬間、剣の周りに光り輝く球体が出現した。
「ほら、見て!!蛍さんが現れたよ!!」
「えっ……わあっ、本当だ……でも、これ蛍なの?」
「ん?う~ん……どうなんだろう?触ろうとすると消えちゃうし、しばらくしても勝手にいなくなるんだよね」
「へえ、不思議だね……でも、ヒカリの方にだけ近づいてくるね」
水晶玉が光り輝いた瞬間に現れた光の球体の事を二人は「蛍」と認識したが、実際の所は本当に蛍が光っているわけではなく、球体の中心部には何も存在しない。
子供の二人が蛍だと思い込んている存在の正体はこの世界では「精霊」と呼ばれており、光の精霊はレノには全く近寄らず、ヒカリの周囲に集まっていく。
「ほら、綺麗でしょ?」
「うん、綺麗だよヒカリ」
「えっ……?」
「あ、ちがっ……ひ、ヒカリも綺麗だけど、蛍も綺麗だなって……あれ?」
「も、もう……恥ずかしいよ」
レノの言葉にヒカリは照れた表情を浮かべ、そんな彼女を見てレノも頬を赤く染める。ヒカリはレノの手をしっかりとつかみ、彼と約束した。
「レノ、何があろうとここの事は話したら駄目だよ?僕達だけの秘密だからね」
「うん、分かった。僕達だけの秘密だね」
「約束だからね!!」
ヒカリはレノに満面の笑みを浮かべ、レノも誰にも言わない事を誓う。この翌日、まさか大好きな幼馴染が里から追放される事態が訪れるなど、この時のヒカリは予想できるはずがなかった――
――時は流れ、数年の月日が流れてもヒカリはほぼ毎日のように洞窟に訪れていた。この場所の事はレノ以外の人物には未だに誰にもヒカリは話しておらず、今年で14才になったヒカリは剣の前に立つと、意味深な表情を浮かべる。
「……ふうっ」
ヒカリが剣に手をすると、周囲に大量の光の精霊が発生し、洞窟の中を照らす。そして岩に突き刺さった長剣が震え始め、その様子を見ていたヒカリはしばらくは待っていたが、やがて振動は収まってしまう。
「まだ、か……でも、もう少しで抜けそうな気がする」
この剣の正体はヒカリは知らないが、いずれ自分はこの剣を抜く日が訪れると彼女は何故か心の中で確信を抱いていた。ヒカリは子供の頃に自分の誕生日にレノが渡してくれた木彫りのペンダントを取り出すと、それを握りしめて陽光が降り注ぐ洞窟の天井を仰ぐ。
「レノ……会いたいよ」
ヒカリの呟きに反応するかのように長剣は一瞬だけ光り輝き、もう間もなくこの地に「光の勇者」と呼ばれる存在が誕生する――
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