一人旅編

第27話 修行の成果

――山を下りてから一週間後、延々と広がる高原をレノは徒歩で移動していた。彼は地図を確認し、額の汗を拭いながらも水筒を口にして自分の現在位置を確認する。



「ふうっ、大分歩いてきたな……これなら今日中には次の街には付けそうだな」



地図を確認したレノはもう少しで次の目的地である「ニノ」と呼ばれる街へ辿り着ける事を確認すると、少し休憩を挟む事にした。運が良い事に小川を発見したレノは川原にある大きめの岩に座り込み、荷物の確認を行う。


旅だってからまだ一週間しか経過していないが、彼は自分が暮らしていた「レイノ」という村から大分離れた地域にまで移動していた。ちなみにレノが暮らしている国名は「ジン国」と呼ばれている。レイノはジン国の領地内でも辺境地方に存在し、とりあえずはレノはジン国の王都へ向けて旅立つ。




――どうして目的地を王都へと定めたかというと、出発する前にロイから王都へ向かうように助言されたからである。彼はジン国の王都は人口が多く、世界中から様々な種族が訪れるという。




王都へ辿り着ければレノも色々な職に付けるかもしれず、自分に見合った職業に就けれる可能性があるならばとロイはレノを王都へ向かうように指示する。


しかし、王都まではレイノの村からでは馬に乗っても一か月以上の月日が掛かり、しかも関所などで通行料を取られるために現在のレノの資金では心もとなく、節約も兼ねてレノは徒歩で移動していた。



「はあっ、今日は野宿せずに済みそうだな……こんな事ならケチらずに次の街では馬でも買おうかな」



レノはこの調子で王都へ辿り着くまでどれくらい掛かるのかと思いながらも、水筒を補給するために小川の水を汲み取ろうとした時、近くから動物の鳴き声が響く。



「グルルルッ……!!」

「狼!?いや……コボルトか!!」



狼のような呻き声を耳にしたレノは咄嗟に腰の剣に手を伸ばして周囲を振り返ると、何処に隠れていたのか全身が灰色の毛皮で覆われた二足歩行の生物に取り囲まれる。その生物は人間のように立っているが、顔面の方は狼と瓜二つだった。


二足歩行の狼のような生物を見たレノはすぐに正体を「コボルト」という名前の魔物だと気付き、剣を構える。数は3体存在し、人間のレノを見てコボルト達は涎を垂らすと、真っ先に1匹が飛び掛かる。



「ガアアッ!!」

「ふうっ……」



上空から飛び掛かってきたコボルトに対してレノは目つきを鋭くさせ、右拳を握りしめる。拳に風の魔力を纏わせると、上空から噛みつこうとするコボルトの顎に目掛けて拳を振りかざす。



「おらぁっ!!」

「ギャインッ!?」

「「ウォンッ!?」」



レノが繰り出した「嵐拳」の一撃によってコボルトの顎は砕け、口元の牙を撒き散らしながら最初に襲い掛かったコボルトは吹き飛ぶ。その光景を見ていた他の2匹は唖然とするが、レノは拳を開くと風の魔力を四散させ、剣を引き抜く。



「お前等はもう見飽きたよ、嵐刃!!」

「ギャウッ!?」

「ガアアッ!?」



残された2体のコボルトの片方に目掛けてレノは離れた距離から刃を振り抜くと、刀身に纏っていた風の魔力が放たれ、風の刃と化してコボルトの首元を切り裂く。距離が若干離れていたので完全な切断には至らなかったが、首筋を斬られたコボルトは大量の血液を放ちながら白目を剥いて地面に倒れ込む。


一瞬にして仲間達が敗れた最後のコボルトはレノを見て後退るが、そんなコボルトに対してレノは剣の先端を地面に突き刺し、待ち構える。武器を地面に差した事にコボルトは警戒するが、レノが動く様子がない事に疑問を抱く。



「グ、グゥウッ……!!」

「どうした、こいよ犬コロ」

「……ガウッ!!」



言葉は通じないはずだがレノに侮辱された事は理解したらしく、コボルトは怒りの咆哮を放ちながらレノの元へ向かう。そんなコボルトに対してレノはぎりぎりまで接近を許すと、刃の間合いに入った瞬間に彼は長剣に付与魔術を発動させる。


地面に突き刺した刀身の先端部に魔力を一点集中させると、派手に後方に土砂が飛び散って土煙が舞い上がり、刃の後部から風圧を発生させて加速した剣はコボルトの身体を切り裂く。



「地裂!!」

「アガァッ――!?」



コボルトの身体が股間から頭部に刃が走った瞬間、コボルトの肉体は真っ二つに割れて地面に倒れ込む。その様子を見下ろしたレノは刃にこびり付いた血液を振り払い、鞘に納めて安堵の息を吐く。



「ふうっ……よし、今日も勝てたな」



レノは山での修行のお陰で、草原に生息する今まで見た事がない魔物とも十分に戦える力を身に付けていいる事を実感する。最初の頃はコボルトと遭遇する度に焦ったが、冷静に対処すれば勝てない敵ではなかった。


赤毛熊のような強敵と比べればコボルトは力は弱いが、赤毛熊と違って仲間で群れて行動するため、油断できない相手でもある。山に暮らしていた時のレノが戦う魔物はボアか赤毛熊、もしくは一角兎のような基本的に単体で行動する魔物ばかりだったため、最初の頃は群れを成して戦闘を挑んでくるコボルトには苦戦してしまう。



(こいつらは仲間で戦う知恵はあるけど、血の気が多いから獲物を前にすると真っ先に襲い掛かるんだよな。同時に襲ってこなければ1匹ずつ対処すれば問題ない)



この数日の間にコボルトと戦い続けた事でレノはコボルトの習性を見抜き、その弱点を突いてレノはコボルト達を打ち倒してきた。仲間と共に行動する知恵がありながらも、全ての個体が獰猛過ぎて獲物を前にすれば我慢できずに襲い掛かるという弱点があり、仲間同士で一緒に襲うという発想がコボルトにはない。それを上手く利用してレノはコボルトを倒してきた。



(よし、こいつらの素材を回収しとくか。肉は食えたものじゃないけど、牙や爪とかはアクセサリーの素材に使うらしいし、毛皮の方も防寒具の素材になるという話だし……)



倒した3体のコボルトから素材を回収するためにレノは解体用の短剣を取り出そうとした時、ここで彼は嫌な予感を抱いて咄嗟に振り返る。すると、いつの間にか大きな岩の上に立つ全身が「黒色」の毛皮に覆われたコボルトが存在した。


通常のコボルトの毛皮が灰色に対し、岩の上に立つコボルトは黒色の毛皮でしかも体格も一回りほど大きい。更に首元には様々な動物の牙を利用して作り上げたと思われる首飾りのような物をぶら下げていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る