二人旅編

第78話 火炎剣

――サンノから出発してから2日の時が流れ、ネココを連れてレノは次の目的地である「シノ」へ向かっていた。サンノからシノまでは馬車で移動すると5日は掛かる距離が存在するが、白狼種であるウルならば3日目には辿り着けるはずだった。


シノへ向かう途中でレノ達は森を抜ける必要があり、この場所では最近に盗賊が住み着いてシノへ向かおうと森を潜り抜けようとする旅人が被害に遭っているという。森を迂回する場合はかなり遠回りとなり、馬車の場合だと一週間以上はかかってしまう。


普通の旅人ならば迂回する所だろうが、レノとネココは迷わずに森の中を突き進み案の定というべきか待ち構えていた盗賊の襲撃を受けた。しかし、二人とウルは圧倒的な強さで盗賊達を一掃する。



「ひいいっ!?な、何だこいつら!?」

「化物か!!」

「……スライムと白狼種は化物に含まれるの?」

「人によるんじゃない?」



レノとネココは自分達を襲い掛かってきた盗賊を返り討ちにした後、更には彼等から盗賊の隠れ家の居場所を吐かせ、二人だけで乗り込む。盗賊の総人数は30名ほどだが、既に半数近くは地面に倒れていた。



「く、くそっ!?何なんだお前等、ただのガキじゃないな!!」

「……こんな大きな狼とスライムを連れて旅をしている時点で、普通の子供じゃない事ぐらい分からないの?」

「確かに……」

「グルルルッ……!!」

「ぷるるるっ」



ウルとスラミンが威嚇(片方は身体を震わせているだけ)を行うと、盗賊達は魔獣を従えるレノ達に対して恐怖の表情を浮かべ、盗賊の頭が情けない声を上げる。



「せ、先生!!お願いします、こいつらをやっちまってください!!」

「……ちっ、仕方ねえな。ガキを相手に何を手こずってるんだ」

「先生?」

「……用心棒?」



盗賊の頭が大声を出すと、盗賊達が住み着いている洞穴から男が現れる。その男はどうやら獣人族らしく、頭に犬耳を生やしていた。片目には大きな傷があり、両手に鉤爪を装着した状態で姿を現す。


今まで倒した盗賊とは雰囲気が異なり、ネココは男の顔に見覚えがあった。彼女は何処からか手配書を取り出し、すぐに男が賞金首だと気付く。



「この男、賞金首……それも二つ名持ちの大物、名前は隻眼のロウ」

「賞金首?」

「はっ、手配書を持ち歩いている所……お前等も傭兵か?なるほど、ただのガキじゃないのは間違いないな」

「ウォンッ!!」



ロウという名前の男は鉤爪を構えると、ウルが吠えて男に迫ろうとする。ただの盗賊ならば怯えて逃げるだろうが、ロウという男は跳躍を行うと突っ込んできたウルの背中を足場に利用してレノ達の元へ向かう。



「おらよっ!!」

「離れてっ!!」

「うわっ!?」

「ぷるんっ!?」



レノはネココに突き飛ばされると、二人が先ほどまで立っていた場所にロウが両手に装着した鉤爪を振りかざすと、地面が抉れる。その光景を見てレノは只者ではないと悟り、剣を構える。



「ちっ、この程度で死ぬような奴じゃないか……おい、お前等は邪魔だ!!下がっていろ!!」

「へ、へへっ……後はお願いしますぜ、先生!!」

「そいつらを殺して獲物を山分けしましょう!!」



ロウが動き出した事で盗賊達は余裕を取り戻したように距離を置き、その様子を見てレノは盗賊達がロウという人物の腕を買っている事を知る。確かに先ほどの身軽さと地面を抉り込むほどの攻撃は並の人間では真似できない。


ネココと同じく獣人族であるロウは純粋な身体能力はレノよりも上だと思われ、まともに戦っても勝ち目は薄いだろう。そこでレノは魔法剣を発動させると、ロウは鼻を引くつかせて異変に気付く。



「魔力の臭いがする。てめえ、魔法剣士だな?」

「えっ……!?」

「……流石は二つ名の賞金首、只者じゃない」



レノが魔法剣を発動させると、瞬時にロウは異変に気付き、警戒したように身構える。その様子を見てネココは一筋縄でいく相手じゃないと悟る。その一方でロウと向かい合ったレノは緊張した表情を浮かべながらも自分の右手に嵌めた指輪に視線を向けた。



(……試してみるか)



正面から向かい合ったロウから視線を外さず、ゆっくりとレノは間合いを詰める。自ら近づいてきたレノに対してロウは意外な表情を浮かべるが、すぐに獰猛な笑みを浮かべた。



「はっ、正面から挑むつもりか?ガキが調子に乗るなよ」

「…………」

「グルルルッ!!」

「おっと、動くな!!てめえ等の相手も後でちゃんとしてやるよ!!」



自分の背後に回ろうとしたネココとウルに対してロウは牽制し、気配だけでネココ達の様子を把握していた。流石に二つ名を持つ賞金首となると先日にレノが倒した盗賊の頭とは格が違い、一瞬の隙でも見せたら命はない。



(落ち着け、大丈夫だ……この技を使えばあいつも驚いて隙を生むはずだ。そこを一基に畳みかける!!)



精神を集中させながらレノはロウへと近づき、お互いの武器の間合いが接近する。長剣を扱うレノの方が間合いは広いように思われるが、ロウの場合は獣人族ならではの身体能力を生かし、一瞬で間合いを詰める程度の事は出来る。


お互いに攻撃を仕掛ける瞬間を見計らい、緊迫した雰囲気の中、レノはアルトから受け取った指輪に嵌めていた火属性の魔石から魔力を引き出す。その瞬間、刀身に纏っていた風の魔力に更に火の魔力が加わり、刀身に炎が走った。



「火炎剣!!」

「何ぃっ!?」



ロウの目の前でレノが所持していた剣の刀身に炎が宿ると、彼は驚愕の表情を浮かべた。レノが魔法剣の使い手だとは見抜いたが、彼が臭いで感じたのは風の魔力だけだったので刀身に炎が宿るなど思いもしなかった。



「うおおおっ!!」

「くぅっ!?」



動揺したロウに対してレノは踏み込み、火炎を纏った剣を上段から振り下ろす。迫りくるレノに対してロウは獣人族の優れた反射神経と身体能力を生かし、後ろへ跳躍する事で攻撃を回避する。


しかし、後ろに跳んだロウを見てレノは攻撃を回避する事を予測していた様に視線を向けると、振り下ろした刃を今度は下から繰り出し、刃に纏った火炎を放つ。



「火炎刃!!」

「ぐぁああああっ!?」

「せ、先生ぇえええっ!?」

「……おおっ、凄い炎」



火炎の刃によってロウの身体は炎に包まれ、そのまま後方へと吹き飛び、地面へと倒れ込む。その光景を見て盗賊の頭は悲鳴を上げ、ネココは感心した声を上げる。





※こちらの「力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?」はアルファポリスにて先行版を出しています。カクヨム版の方も投稿速度を速めたいと考えています。

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