第102話 紋章

「私の爆炎剣は威力には自信がありますけど、普通の剣では発動に時間が掛かり過ぎるという欠点があります。しかし、それを補うのがこの烈火と鞘ですわ。この二つを使えば私の爆炎剣の発動時間を短縮出来ますわ」

「なるほど……なら、俺がその剣を使ったらもっと凄い魔法剣が出来るのかな?」

「生憎とそれは無理だと思いますわ。この魔剣の場合は最も相性が良いのは火属性のみ、他の属性の魔力に関しては普通の魔法金属と比べれば吸収率は高いでしょうが、それでも火属性程の力は引き出せないと思いますわ」

「なるほど、加工の時に火属性の魔力だけを吸収しやすいように「炎の紋章」が刻まれているな……」

「紋章?」



ゴイルはドリスの持つ剣の刀身に刻まれた「紋章」を指差し、彼によるとこの紋章が刻まれた武器は火属性の魔力を取り込みやすい細工が施されている事を意味するという。



「そうそう、お前の剣にも紋章を刻んでやったぜ。確認してみろ」

「え?あっ……本当だ。なんか、渦巻みたいな紋章が刻まれてる」

「そいつは「嵐の紋章」だ。こいつを刻めば風の魔力をより取り込みやすくなるだろう。試しに使ってみたらどうだ?」

「はい、わかりました」



レノは新たに紋章が刻まれた荒正を握りしめ、皆の前で剣を構える。いつも通りに付与魔術を発動させて風の魔力を送り込もうとすると、確かに魔力を伝わる速度が格段に上昇し、一瞬にして刀身に風の魔力が纏う。



「お、おおっ……凄い、魔法腕輪も無しにこんなすぐに魔力を宿せるなんて……」

「どうだ?気に入ったか?」

「はい、凄く気に入りました!!ありがとうございます!!」

「……私の持っている蛇剣にも紋章を刻んで欲しい。猫の顔がいい」

「誰がそんなもん刻むか!!」



ネココの言葉にゴイルは断るが、レノは風の紋章が刻まれてより強化された荒正を鞘に戻す。無料でここまでしてくれたゴイルには感謝の言葉を伝えると、これからの行動をネココとドリスで話し合う。



「とりあえず、俺達はどうすればいいのかな?また隠れてネズミ婆さんの連絡を待つ?」

「……その方がいいと思う」

「いいえ、ここは私達で動くべきだと思いますわ。命を狙われて不安になる気持ちは分かりますが、御二人は私が守って見せます。なので今度はこちらから出向きましょう!!」

「……でも、どうするの?他の黒狼の面子の居場所なんて知らない以上、私達には探す方法がない」



ドリスは身を隠す事に反対し、自分達も黒狼の残党を探す事を提案するが、ネズミ婆さんが捜索しているのに自分達が危険を犯してまで探す必要はないとネココは提案する。


しかし、このまま隠れ続けてネズミ婆さんの連絡を待つより、ドリスは敢えて自分達も行動して黒狼の残党を誘き寄せる方法を考えた。



「私に作戦がありますわ!!今のところ、黒狼が最優先に狙っているのは私ですわね?」

「うん、それは間違いないと思うけど……」

「ならばこういう作戦はどうでしょう?私はこれから街を出歩きます、すると黒狼の残党が私の命を狙って現れるかもしれません。それを返り討ちにするのです」

「……いくら何でも危険すぎる」

「いいえ、話は最後まで聞いて下さい。御二人は私と共に行動せず、私の後を離れた場所から追ってください。そうすれば黒狼の残党が現れた時、敵が私に気を取られている間に御二人が奇襲を仕掛けてください。仮に相手が大人数の時や手練れが揃っていた時は私を置いて逃げても構いませんわ」



事前にドリスは自分がどのような道順で街を移動するかをレノとネココに伝え、二人は一定の距離を保ちながら彼女の後を追う。そしてのこのこと黒狼の残党がドリスを狙いに現れた時、ドリスとレノ達で挟み撃ちで仕掛けようという作戦だった。



「……なるほど、囮作戦。考えは悪くないと思う」

「でもそれだとドリスが危険じゃ……」

「大丈夫ですわ、こう見えても私は王国騎士……簡単には遅れは取りませんわ」

「ドリス……」



ドリスの言葉にレノは彼女が自分が王国騎士という言葉に気負い過ぎているように感じた。不安はあるが、それでもドリスの決意は固く、引き下がる様子はない。


レノは説得は難しいと判断し、彼女の作戦に乗る事にした。距離が離れていたとしても魔弓術が扱えるレノならば視界に入る距離ならば即座にドリスに襲い掛かる敵には対処できる自信はあった。一抹の不安を感じながらもレノ達は作戦の決行のために動き出す――






――作戦はすぐに行われ、ドリスは街道を堂々と歩き、その後をレノとネココは離れた場所で見守る。ドリスの格好は非常に目立つため、道行く人々は彼女に視線を向ける。ドリスは何時何処で敵が襲い掛かってくるのかも分からない状況の中、緊張した様子もなく歩いていた。



「……今のところ、特に怪しい奴はいない」

「結構離れたけど、見失わないように気を付けないと……」

「でも近付き過ぎると私達の存在も敵に気づかれる。ここは慎重に動くべき……」



レノとネココはドリスの後を見失わないように気を配り、一定の距離を保ちながらドリスの後を追う。彼女はこれから一通りの少ない場所に移動するため、常に注意しなければならない。

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