第161話 傭兵団「蝙蝠」

「久しぶりだね……というほど分かれてもいないか。二日か三日ぶりぐらいかね」

「ネズミ婆さん、さっきはありがとう。でも、どうして俺達が追われている事を知っていたの?」

「この街に帰ってきたときにあんた等が何をしているのか気になってね。ネズミ達にさがさせていたらこいつが見つけてきてくれたんだよ」

「チュウッ」



席に座るとネズミ婆さんはリボンの頭を軽くつつき、どうやらリボンがレノ達を発見したらしく、それと同時に彼等を狙う存在に気付いたという。それを知ったネズミ婆さんはレノ達が逃げる手伝いを行ったという。


ネズミ婆さんに危険を知らせてくれたリボンの頭をレノは撫でると、リボンはくすぐったそうな表情を浮かべる。レノはどうしてネズミ婆さんがこの街に来たのかを尋ねようとすると、彼女が「帰ってきた」という言葉を使った事に疑問を抱く。



「帰ってきたって……ネズミ婆さんはシノの街の情報屋じゃないの?」

「いや、元々私が育ったのはこの街さ。生まれ故郷は違うんだけどね、ここは言わば古巣だよ。シノの街へ移住したのも数年前の話だからね」

「それならどうして急にこの街に?」

「そんなもん、闘技祭が目当てに決まっているだろう?闘技祭の観戦するためにここへ来たんだよ。こいつらを連れてくるのに色々と準備に手間取っちまったけどね」

「チュウッ?」



闘技祭が開催される時期の間だけ、ネズミ婆さんはシノの街からゴノの街へ拠点を移すらしい。街を移動する際に自分の配下のネズミも運び出すのに時間は掛かったそうだが、今日無事に辿り着いたという。



「それよりもあんたら、さっきは厄介な奴等に追われていたね」

「そうだ、さっきの奴等……どうして俺達を襲ったのか知ってるんですか?」

「本当なら情報料を貰う所なんだけどね……まあ、今回は無料にしてやるよ。あいつらの正体はね、この街では「蝙蝠団」と呼ばれる傭兵団さ」

「蝙蝠団……?」



基本的には傭兵団が名前を付ける際、自分達の力を伝えるために強そうな動物などの名前を付ける事が多い。牙狼団も狼の名前を使っており、大抵の傭兵団は何らかの動物や魔物の名前を加えている事が多い。



「奴等はただの傭兵団じゃないよ。暗殺に特化した暗殺者集団さ、暗闇の中に潜む蝙蝠のように姿を捉えられず、相手に怪しまれぬうちに敵を暗殺するのを信条としているのさ」

「え、でも暗殺稼業は傭兵でも許されていないんじゃ……!?」



前にレノはかつては国中に名前をとどろかせた傭兵団の黒狼が裏で暗殺稼業を行っていた事が発覚し、それが問題で国の騎士団に壊滅されたと聞いていた。


暗殺稼業を生業とする傭兵団が存在する事に驚くが、ネズミ婆さんによると蝙蝠はただの傭兵団ではなく、その背後にはゴノを管理する存在が関わっている事を説明する。



「勿論、奴等のやっている事は違法さ。だけどね、奴等の背後にはゴノ伯爵が存在する。だから表向きは傭兵団として活動している一方、裏では暗殺稼業を行っているのさ」

「何だって!?それが事実なら、とんでもない事じゃないか……貴族が暗殺者集団を支援しているなんて大問題だ!!」



サンノの街を管理する貴族の息子であるアルトとしてはネズミ婆さんの言葉を聞いて怒りを抱き、街を管理をする身でありながら裏では暗殺者集団と関わり持つ事自体が許される事ではない。



「落ち着きな、あたしに怒鳴っても仕方ないだろ。それに過去に何人かゴノ伯爵の不正の証拠を掴んで国へ伝えようとした人間もいたらしいけど、どうやら奴は自分よりも位の高い貴族に協力して不正の証拠を握り潰してもらったようだね」

「そんなっ……」

「外道め……貴族の恥さらしだね」



だが、ゴノ伯爵は闘技場の運営を行う事で収入を増やした事により、賄賂を送り込む事で自分が暗殺者集団を抱えている事を国に伝わらないようにしているらしい。


しかも不正の証拠を掴んだ人間も尽く暗殺されているらしく、それだけにこの街でゴノ伯爵に逆らえる存在はいないという。



「あんたらは想像以上に厄介な相手に命を狙われてるんだよ。全く、黒狼の次は今度は蝙蝠にまで狙われるなんて……あんた等は本当に厄介事に巻き込まれやすい体質だね」

「そんな事を言われても……俺達は何もしていないのにどうしてこんな事に」

「いや、もしかしたらだが……牙狼団の件で僕達が真犯人の正体の手がかりを掴んだ事が原因かもしれない」



レノとしては命を狙われる理由など思いつかなかったが、アルトの推測では自分達が牙狼団と関わったせいで蝙蝠と呼ばれる集団に命を狙われるようになったのではないかと推察する。



「僕達が牙狼団の元副団長のキバを殺した犯人の事を突き止めようとしたから命を狙われたとしたら、その真犯人が僕達の事を目障りに思って蝙蝠を利用して命を狙ってきたのかもしれない」

「そんな……」

「その可能性はあり得るね」



話を聞いていたネズミ婆さんもアルトの言葉に賛同し、彼女は牙狼団とレノ達の間に起きた出来事も知っている様子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る