第160話 ネズミ婆さんとの再会
「チュチュイッ!!」
「うわっ!?」
「な、何だ!?ネズミか!?」
「どうしてこんな所に……」
リボンは街道を行きかう人々の潜り抜けて移動し、見失わないようにレノはアルトの腕を掴んで走る。山暮らしで身体が小さい獲物を追い掛け回していた事も有る優れた観察眼を生かし、リボンを見失わないように気を配りながら移動を行う。
「アルト、こっちだ!!」
「あ、ああ!!」
「待てっ!!」
「そっちに逃げたぞ、追えっ!!」
二人の後方から聞きなれぬ声が聞こえ、恐らくは先ほど吹き飛ばした男の他の仲間達が追いかけてきている事は間違いなかった。レノはリボンから目を離せないため振り返る事も出来ず、アルトの腕を掴んだ状態で後を追う。
やがてリボンは川沿いの方へ移動を行うと、それにレノとアルトも続く。やがてリボンは橋の上に移動すると、そこで立ち止まって様子を伺うように首を振る。
「チュウウッ……」
「リボン、どうしてここに……」
「はあっ、はっ……ま、まずい!!もう追いついてきたぞ!!」
アルトの言葉にレノは振り返ると、自分達に向けて近づく人間の集団を発見し、全員が一般人のような恰好をしていた。それを見てどうして自分達を狙うのかとレノは問い質そうとすると、ここで橋の下のほうから聞き覚えのある声が聞こえた。
「おい、ガキ共!!こっちだよ!!」
「その声は……ネズミ婆さん!?」
「どうしてここに!?」
橋の下に視線を向けると、そこには小舟に乗ったネズミ婆さんの姿が存在し、彼女は二人を早く自分の船にまで降りてくるように促す。
「ほら、そこから飛び降りな!!あんたら、追われてるんだろう!?」
「えっ……いや、でもこの高さは」
「行くよ、アルト!!」
「ちょっ!?せめて心の準備を……うわぁあああっ!!」
「チュチュウッ!!」
レノはリボンを肩に乗せ、アルトの身体を右肩に抱きかかえると、足の裏に風の魔力を集中させて落下の速度を抑えながらネズミ婆さんが乗っている船へと乗り込む。どうにか付与魔術で大きな衝撃を与えずに船に乗り込むと、レノは橋の上まで迫ってきた者達に視線を向ける。
「くそっ、船に逃げやがった!!」
「追いかけろっ!!」
「絶対に逃がすな!!」
「しつこいな……皆、しっかりと船に掴まってて!!」
「ちょっと、あんた!?何をする気だい!?」
「まさか……!?」
「チュチュウッ?」
ここまで案内してくれたリボンをネズミ婆さんが抱きかかえると、アルトは身体を伏せて船にしがみつく。二人がしっかりと乗り込んだのを確認すると、レノは船の後部へと移動して水中に手を伸ばす。
意識を集中させて右手に風の魔力を集中させると、竜巻を発生させてまるでスクリューの要領で船の移動速度を上昇させる。小舟は派手な水飛沫を舞い上げて直進し、凄まじい勢いで川を進む。
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
「な、何だっ……あのふざけた速さは!?」
「くそぉっ!!」
橋の上に存在した者達はレノが巻き上げた水飛沫を浴びて全身が水浸しになってしまい、凄い勢いで離れていく船を見送る事しか出来なかった。橋の上に立っていた年長者の男は手すりに拳を叩きつけ、すぐに他の者へと振り返る。
「……作戦は失敗だ、奴等が宿泊している宿屋にあの二人の仲間も泊まっているはずだ。そいつらを捕まえるぞ」
「ああ……俺達の邪魔をした報いを受けさせてやるぜ」
数名の男女はすぐに行動を開始し、今度はレノ達が宿泊している宿屋へ向かう――
――それからしばらく時間が経過すると、レノ達は小舟を降りて陸地へと上がる。追手はもう見えないが、念のために3人は身を隠せる場所を探して時間帯も夕方を迎えていたため、食事も兼ねて近くの酒場へと訪れる。
店員はレノ達が入ってくると、すぐにレノの背格好を見て未成年者だと判断し、女の店員が申し訳なさそうに答えた。
「お客様、この店では冒険者と傭兵の方以外の未成年者は入る事は禁じているのですが……」
「またかい!!前にも似たような事があったね……仕方ない、またあんたに頼ろうかい」
「いや、ここは僕に任せてくれ」
ネズミ婆さんは入店を拒否されそうになったため、以前にも似たような事があった時は彼女は飼育しているネズミを利用して騒ぎを起こし、その間に店の中に入った。今回も同じ手を使おうとすると、ここでアルトが割って入る。
「お嬢さん、少しいいかな?」
「は、はいっ!?」
「大丈夫、安心してくれ。少しあっちで話すだけだから」
「そ、そんな……困ります、私には結婚を約束した相手が……!!」
アルトは自然な感じで女店員を自分の元へ寄せ付けると、女性を連れて通路の奥へと向かう。しばらくすると、何事もなかったようにアルトは戻ってくると、若干火照った表情を浮かべた女性が酒場の中で最も奥で出入口から見えにくい場所に案内してくれた。
「先ほどは失礼しました……どうぞ、こちらへ」
「……アルト、何をしたの?」
「大丈夫、ちょっとお願いしただけさ。別に悪い事はしていないよ」
「あんた、若そうなのに女の扱い方に手慣れてるね……」
レノは女性の店員をどうやって説得したのかと驚くが、その様子を見ていたネズミ婆さんは呆れた表情を浮かべながらも席へと向かう。
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