第159話 真犯人の正体

――その後、目撃者を語っていたヒデミツが気絶してしまったためにそれ以上の情報を得られず、ここでレノとアルトは引き返す事にした。ロウガは今回の件で二人の協力のお陰でキバを殺した真犯人の有力な情報を得られた事に感謝し、報酬の件に関しては後々に連絡を送るという。


依頼の内容はレノが犯人の調査のために傭兵団と行動を共にするという内容だったが、真犯人の事を知っている人物を捕まえた以上はその必要もなくなり、これで晴れてレノの無実は証明された。アルトの推理のお陰で無実を証明されたレノは感謝するが、それでも真犯人に関しては結局分からずじまいなのは気がかりだった。



「結局、キバを殺した犯人の目的は何だったんだろう」

「僕の推測では恐らくは牙狼団と敵対している組織の殺し屋の仕業の可能性が高いね。そうでもなければ牙狼団の団員を脅して情報を流そうとするはずがない。だが、それにしてはどうにもやり方がずさんな感じがするね」

「というと?」

「例えば今回の事件の事だけど、そもそも死体が川から引き上げられたときに傭兵団の誰かが警備兵の元に訪れて死体の様子を調べればヒデミツの発言がすぐに嘘だと分かったはずだ。実際、あの男の証言はあやふやで内容も話す度に違っていたんだろう?今回の件はあのロウガという男が仲間を殺されて冷静さを失っていなければこんな面倒な事態には訪れなかったんだ。つまり、真犯人はロウガの性格を見抜いて罠を仕掛けたとしたら……相手はロウガの事を知り尽くしている人物という事になる」

「そ、そうなんだ……」

「その可能性を踏まえても僕は真犯人の正体が牙狼団に敵対する組織だろうね。敵対している相手だからこそ、情報を調べつくして罠を張る。その可能性が高いと僕は思うよ」



アルトの読みでは十中八九は今回の事件の黒幕は牙狼団と敵対する組織の仕業だと判断し、少なくとも個人の犯行とは考えにくい。キバを殺した理由に関しては不明だが、恐らくはヒデミツを殺人の共犯者に仕立て上げる事で自分から逆らえないように仕立て上げた可能性が高い。


実際にヒデミツはキバの殺人に関与した事で自分を脅迫してきた男の事は誰にも話せず、挙句の果てにレノに濡れ衣を被せて自分だけは助かろうとした。レノからすればいい迷惑ではあるが、問題なのは真犯人がこれで諦めるかどうかだった。



「あの傭兵団、これからどうなるのかな?」

「さあね、僕達には関係ない話さ。さあ、今日はもう帰って休もう。久しぶりに探偵の真似事をしたせいで疲れたよ」

「お疲れ様、アルト……助けてくれてありがとう」

「な~に、レノ君には普段から色々と世話になっているからね。これぐらいの事はなんでもなっ……」



レノはアルトに感謝すると、彼は少し照れくさそうな表情を浮かべてレノの前を歩こうとした時、ここでレノは直感で危険を感じ取り、アルトの肩を掴んで引き留める。



「アルト!!」

「うわっ!?」



前を歩こうとしたアルトをレノが引き寄せると、次の瞬間に二人の前を歩いていた通行人が振り返ると、懐に隠していた短剣を取り出して突き刺してきた。



「死ねっ!!」

「うわっ!?」

「させるかっ!!」



事前にアルトを引き寄せていたレノは彼を庇うように前に立つと、短剣を向けてきた男に対して拳を握りしめ、風の魔力を瞬時に纏う。男はレノの胸元に目掛けて短剣を突き刺そうとするが、それに対してレノは右手に風の魔力を纏わせた状態で掌底を放つ。



「吹き飛べっ!!」

「ぶほぉっ!?」

「うわっ!?」

「な、何だ何だっ!?」



男は腹部に掌底を受けると、凄まじい風圧を受けて身体が吹き飛び、近くに流れていた川に墜落する。その様子を見て通行人は騒ぎ出すが、危険を察したレノはアルトの腕を掴むと、彼と共に駆け出す。



「すぐにここから離れるよ!!」

「わ、分かった!!だが、今の男は何だったんだ?」

「多分、さっきアルトが話していた牙狼団の敵対組織が俺達を狙ってるんだ!!」

「何だって!?」



レノは先ほどの男の動きを思い出し、あまりにも自然な感じで前を歩いてので怪しまなかったが、前を歩ている男の足音が異様に小さい事に気付いて直感で危険を感じ取り、アルトを守る事が出来た。


しかし、通行人に紛れて命を狙ってきた事を考えても敵は只者ではなく、一刻も早く安全な場所へ避難する必要があった。このまま宿屋には戻る事は出来ず、街中を巡回する警備兵に助けを求めようかとレノが考えた時、足元から聞き覚えのある鳴き声を耳にする。



「チュチュイッ!!」

「えっ!?お前は……」

「まさか、リボンちゃんかっ!?」



二人は足元に視線を向けると、そこにはネズミ婆さんが飼っている尻尾にリボンを巻きつけたネズミが存在した。以前にレノがリボンと名付けたネズミは自分に付いてこいとばかりにジェスチャーを行い、それを見たレノとアルトは一先ずは従う事にした――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る