第261話 風から嵐へと
十分な量の魔力を刃に宿す事に成功すると、レノは柄を引き抜き、岩から50メートル以上も離れた場所から放つ。通常の嵐刃であればこれほど離れていると頑丈な岩を切り裂く事も出来ないが、今回の場合は違った。
鞘から解き放たれた刃は完全に引き抜かれる瞬間、刃に宿っていた魔力が一気に解放され、前方へ目掛けて解き放たれる。その規模と移動速度は通常の嵐刃の比ではなく、10メートル以上の高さを誇る岩石を上下に別れて真っ二つに切り裂く。
50メートルも離れた場所から岩石を切断したレノの攻撃を見てドリス達は唖然とするが、一方でレノの方も見事に切り裂かれた岩石に視線を向け、冷や汗を流す。今までの嵐刃とは比較にならない程に威力が上昇しており、手にしていた荒正に視線を向ける。
(もしかして……これが「嵐」なのか?)
火属性を極めればドリスのように「炎」を、水属性を極めればセツナのように「氷」を、そして遂にレノは風属性を極めた事により、その力は最早「風」という表現は生ぬるしく、正に「嵐」と言っても過言ではなかった。
(この力、まだ完全には使いこなせいけど……きっと、練習を続ければ使いこなせるはずだ)
上下に切り裂かれた岩石を見てレノは自分が成長したという実感を得ると、初めて地裂を成功した時の事を思い返し、あの時も自分が強くなったという確信を得た。だが、今回は地裂を覚えた時以上に高揚感を抱き、その一方でまだまだ自分が強くなれると確信を抱く。
(もっと、強くなれる気がする……きっと、いや、絶対に!!)
まだまだ自分には成長の余地があるとレノは判断し、無意識に天空に向けて荒正を掲げる。その剣の先には光り輝く太陽が存在した――
――同時刻、王都の王城の方では大きな騒ぎが起きていた。王城に存在する兵士の訓練場にて二人の王国騎士が存在し、兵士が組手の訓練の際に利用する試合場に立っていた。片方は疲労困憊の状態で立ち尽くし、もう片方は困った表情で剣を構えていた。
「馬鹿、な……」
「えっと……まだ、続けます?」
向かい合っていたのは王国騎士の中では最古参であるライコウと、新しく王国騎士に加入したヒカリであった。彼女は光の剣を構えた状態で立ち尽くし、困った表情を浮かべる。
ライコウは手にしている槍を握りしめ、歯を食いしばりながら槍を構えた。彼はドリスやセツナと同じく魔法剣士ではあるが、そもそも魔法剣士といっても別に剣にしか魔法の力を宿せないわけではない。
レノも弓などを扱うように剣以外の武器に魔法の力を宿す事は出来る。ライコウが得意とするのは槍であり、彼は雷の魔力を槍に宿して攻撃を行う。
「これならばどうだ……稲妻突き!!」
『おおっ!!』
槍に電流を迸らせた状態でライコウはヒカリに対して突きを繰り出し、その攻撃速度は並の人間では目で追えず、仮に防いだとしても槍が放つ電流が流れ込む。ライコウが得意とする必殺技であったが、それに対してヒカリは身体を逸らして回避に成功する。
「おっと」
「ば、馬鹿な!?我が槍を躱すなど……!?」
「し、信じられない!!ライコウ様の槍を躱すなんて……」
「あ、有り得ない……なんて御方だ」
「これが、勇者の剣に選ばれた者か」
ヒカリはライコウの攻撃を難なく回避すると、ライコウは自分の槍が避けられた事に戸惑い、一方で観戦していた兵士も信じられない表情を浮かべる。これまでにライコウの槍を回避した人間など彼等は見た事がない。
一方でヒカリの方はライコウの槍を回避すると、彼女は隙を見せたライコウの元へ向かい、剣を振りかざす。その光景を見たライコウは咄嗟に槍を引き抜こうとしたが、あろう事かヒカリはライコウの槍を足場にして剣を繰り出す。
「てやぁっ!!」
「なっ……がはぁっ!?」
「ら、ライコウ様!?」
「そんな馬鹿な、槍の上に乗るなんて……人間技じゃない!!」
あろう事か、ヒカリはライコウが手にした槍の上に乗り込み、剣を彼の胸元に叩きつける。ヒカリの所有する光の剣は悪しき心を持たない人間の身体は切り裂けないという性質を持ち合わせ、剣で突かれたにも関わらずにライコウの身体からは血が出ない。
ライコウは槍を手放して剣が当たった箇所に手を触れると、苦し気な表情を浮かべる。彼は胸元に視線を向けて怪我は負っていないが、突き刺されたという感触だけは残っていた。
「ぐうっ……」
「あの、もう止めませんか?いくら傷つかないと言っても、何度も切れらたり刺されたら苦しくなりますよ?」
「ま、まだだ……!!」
「そこまでじゃ!!」
ヒカリの言葉を聞いてライコウは立ち上がろうとしたが、ここで二人の間に割って入る人物が訪れた。それは白髪に白髭を生やした男性であり、その男性が現れた瞬間にその場に存在した兵士や、ライコウは慌てて平伏を行う。
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