第260話 嵐の斬撃

「そうだ、難しく考える必要はないんだ……今の俺が出来る事を全部してみよう」

「ウォンッ……?」



レノの様子を見ていたウルはこの時に彼の雰囲気が変化した事を悟り、ここでレノが握りしめている荒正の刀身に変化が訪れる。刀身の先に風の魔力が集中し、やがて竜巻へと変化した。


刀身の全体にではなく、先端部に魔力を集中させた後、風の魔力を渦巻状に変化させる。嵐突きを放つ要領でレノは竜巻に変化させた魔力を刃の先端に集中させた状態で剣を振り払う。



(竜巻の力を……斬り裂く力に変えろ!!)



剣を振り払う瞬間、レノは刀身に纏わせた竜巻の魔力を利用し、刃を振り払う瞬間に風の魔力を一気に放出させる。その結果、竜巻を構成していた風の魔力が一気に解放され、やがて渦巻いていた魔力は一筋の風の刃と化し、前方へと放たれる。


それは通常の「嵐刃」とは比べ物にならない程の威力を誇り、遥か前方に存在した巨大な砂丘を切り裂く。あまりの強烈な風圧によって一瞬だけ砂丘が上下に切り裂かれたように見え、やがて大量の砂煙が舞い上がる。



「……嘘、だろ」



自分の放った技で100メートル近くは離れていた砂丘が吹き飛んだ光景にレノは唖然とするが、何度見直しても砂丘が消え去った事実は変わらない。その場でレノは膝を着き、一度に大量の魔力を失ったせいで意識を失ってしまう――






――その後、騒ぎを聞きつけた他の人間が何事かと調査に赴くと、ウルに背負われた状態で拠点に戻ってきたレノの姿を確認し、慌てて彼の治療を行う。結局はレノが目を覚ましたのは翌日の朝だった。


魔力を消耗し過ぎて意識を失い、完全に回復するまで1日近くも眠り続けた事を知ったレノは驚いたが、心配を掛けられた者達に叱りつけられる。



「全く、一人で夜中に抜け出して特訓だなんて………水臭いですわ!!どうして私達を誘ってくれなかったんですの!?」

「うっ……ごめん」

「ウル君がいなければ君は危うく魔物の餌食か、あるいは砂に埋もれて死んでいた所だよ。全く……」

「そうだったのか……ありがとう、ウル」

「ガブッ(←心配かけるなとばかりに頭に甘噛みする)」

「あいたっ!?」

「……それで、何か凄い技を思いついたの?」



ベッドに横たわるレノの元に仲間達が群がり、レノがどのような技を生み出したのかを尋ねた。ウルがレノを運んできた際、仲間達は彼が特訓していた場所も確認しており、そこには異様な光景が広がっていた。


レノが訓練に利用していた砂漠の地帯は砂丘が存在しない平坦場所と化しており、いったいどんな魔法剣を編み出したのかをレノに尋ねる。しかし、レノの方も意識を失う程の攻撃だったため、はっきりとは覚えていなかった。



「何か、凄い技を思いついたのは確かだけど……よく分からない。でも、竜巻の力を斬撃に変えたような気がする」

「竜巻?斬撃?ど、どういういみですの?」

「う〜ん……とりあえず、見てもらった方が早いかな。魔石を使えば多分だけど、大丈夫だと思うし……」

「おいおい、大丈夫なのかい?気絶するほどに凄く危険な技なんだろう?」

「大丈夫、だと思う……正直、コツを忘れないうちに覚えておきたい」



目を覚まして早々にレノは自分が覚えた技を試すため、今度は荒正と魔法鞘を身に付けた状態で「新技」の実践を行う事にした。だが、拠点の中で下手に行うと他の人間を巻き込む恐れがあり、場所を移動する――






――レノ達は拠点から離れた場所へと辿り着き、砂漠に存在する大きな岩を発見した。全長は10メートルを越えており、硬さも頑丈で下手に剣を叩きつければ折れてしまいそうな程に硬かった。



「うん、この岩でいいかな。それじゃあ、試し切りを行うから皆は下がってて」

「ほ、本当に大丈夫ですの?」

「……無理をしない方がいい」

「大丈夫、平気だって……見ててね」

「やれやれ、こっちが緊張してきたよ……」



真剣な表情を浮かべたレノは魔法鞘に納めた状態の荒正を手にすると、今回は抜き身の状態ではなく、鞘の中に収めた状態で身構える。その構えは奇しくも師匠であるロイの「抜刀」と同じ体勢であった。


昨夜の出来事の事を思い出しながらレノは柄に手を伸ばすと、鞘に取り付けた風の魔石から魔力を引き出す。この際にレノは魔法鞘の中で風の魔力を封じ込め、準備を行う。



(昨日は竜巻が発生するぐらいに魔力を込めたけど、この鞘と魔石を使えばわざわざ竜巻を作り出す必要はない……)



昨日のレノは竜巻が発生するほどの魔力を刃に宿し、それを一気に解放させた。しかし、この魔法金属であるミスリルで構成された鞘と、魔石の力を借りれば必要以上に自分の魔力を消耗せず、魔力を刃に留める事が出来るはずだった。

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