第274話 国王の悩み
――レノ達が砂漠を離れて王都へ向かう決意をした頃、王都の方でも騒動が起きていた。それは未だに戻ってこないドリスを誰か連れ戻しに向かうかである。
ドリスは土鯨の討伐と盗賊王ヤクラの捕縛の一件もあり、王都へ引き返すように連絡が届けられていた。しかし、本人は王都へ引き返さず、自分の騎士団に相応しい人材を探すという名目で王都への帰還を先送りにした。
だが、国王からすればドリスの功績を大々的に広めるために彼女を王都まで呼び寄せる必要があった。国王から直接に功績を認められれば彼女が王国騎士としての務めを立派に果たした事を他の人間にも伝えられる。
王国騎士の位に就いてからドリスはこれまでに大きな功績を残せなかった。そのために彼女は王国騎士に相応しい存在なのかと疑う者も多く、その中にはセツナも含まれていた。しかし、誰もが成し遂げられなかった土鯨の討伐に彼女が貢献したとなればこれまではドリスを認めなかった者も彼女を認めざるを得ない。
王国騎士として騎士団を結成のために人材集めを行うのも重要な事ではあるが、王国騎士としての体面を保つため、彼女を早急に呼び寄せるように国王は命令を下す。
最初にドリスを迎えに行く者として名前が挙がったのは白狼騎士団のセツナであった。だが、彼女は王都の守護の任もあり、それに本人がドリスを毛嫌いしているためにこれを拒否する。
先日の一件でセツナは自分が与えられた盗賊ヤクラの捕縛の任務を邪魔され、手柄を横取りされた事に腹を立てていた(自分はゴノの街でゴノ伯爵を捕縛した手柄を独り占めしたにも関わらず)。だからこそ彼女の迎えに行くのは別の人間に決まり、ドリスの実家のフレア家の人間が出向くのが一番だと考えられた。
だが、フレア家はドリスの意思を尊重し、本人が王都へ帰還する前に人員を集める事に専念するのであれば連れ戻す事は出来ないと拒否する。公爵家であるフレア家からすればドリスが王国騎士として立派な務めを果たした事を誇りに思い、それを世間にも広めること自体は悪い事ではない。だが、フレア家の当主はドリスの行為を聞いて彼女にも考えがあると判断し、迎えに行くことを拒否する。
国王の立場からすれば早急にドリスの手柄を大々的に広め、他国にも王国騎士がどれほど優れた存在なのかを知らしめる絶好の好機でもある。それほどまでにムツノを支配していた土鯨は恐ろしい存在として他国にも知らされ、その討伐を果たしたのが齢16才の王国騎士だと知れば他の国々も注目する。しかし、このままドリスが戻ってこなければ噂もやがて囁かれなくなり、大々的に発表する事が出来ない。
「むう、どうすればよいのだ……」
王都に存在する王城の自室にて国王は真剣に悩み、ドリスを連れ戻す方法を考える。国王はドリスが幼いころからの付き合いであり、彼女の実家のフレア家の当主とは数十年来の付き合いである。
国王からすればドリスは実の娘達のように大切な存在であり、彼女が功績を上げたと聞いたときは素直に喜んだ。ドリスが王国騎士の重圧に悩まされていると知った時は何か力になれないかと困っていたが、遂にドリスが先代の王国騎士でも成し遂げられなかった土鯨の討伐に貢献したと話を聞いたときは心底驚いた。
「あのドリスがこうも立派に成長するとは……やはり、血は争えんか」
ドリスの前に王国騎士の座に就いたのは彼女の叔母であり、その前はドリスの祖母が勤めている。フレア家では代々女性の方が魔力が強く、これまでにフレア家出身の王国騎士は殆どが女性だった。
フレア家出身の王国騎士はどの世代も王国騎士として相応しい実力を持ち合わせ、先々代の王国騎士、つまりはドリスの祖母に至ってはなんと竜種を討ち倒す事に成功した。
災害の象徴とまで呼ばれ、魔物の生態系の頂点に立つ存在、それが「竜種」である。その「竜種」に属する「牙竜」と呼ばれる魔物をドリスの祖母は討伐を果たす。但し、この牙竜との戦闘でドリスの祖母は深手を負い、娘に後を継がせて引退してしまう。
「どうにかドリスを呼び戻し、あの子の果たした偉業を知らしめねば……しかし、いったい誰を向かわせるべきか」
ドリスは昔から頑固な性格であり、国王からの命令であろうと自分が納得しなければ従わない可能性もある。フレア家の女性は代々頑固な性格な者が多く、そのせいで国王は色々と悩まされる事も多かった。
先々代の王国騎士に至っては他国から訪れた難民を受け入れ、その事で難民を連れ戻そうとした国と争った事もある。そのせいで他国との関係が悪化しそうになったために当時の国王(先代)は難民を国へ送り返すように指示を出したが、先々代の王国騎士は助けを求める者は見捨てられないという理由で拒否した。
普通ならば王命に逆らう事は厳罰だが、王国騎士は特別な地位であり、仮に国王であろうと王国騎士の地位に就いた人間は軽々しく除名は出来ない。結局は話し合いの末に難民は無事にジン国に受け入れられたが、下手をしたら戦争になりかねない事態に陥っていた。
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