第143話 試合の賞金

「さあ、これで終わりだ……兜割り!!」

「アガァッ!?」



身体が鉄格子に突き刺さって動けない白毛熊に対してレノは荒正を上段に構えると、刀身の先端から風の魔力を放出させて加速した刃を頭部に叩き込む。いくら風の魔力に対する攻撃に耐性を持っていようと、風の魔力で加速しただけの刃を防げるわけではなく、白毛熊の頭部が切り裂かれる。


白毛熊は頭を切り裂かれて動かなくなると、試合場は静寂に包まれ、やがてレノが剣を鞘に戻す。そして自分の勝利を示すように腕を上げると、歓声が上がった。



「うおおおおっ!!すげぇええええっ!!」

「マジかよ、あんなガキが試合を勝ち抜きやがった!!」

「最終戦まで勝ち残った奴を見たの初めてだぜ!!」

「信じられねえ……あの凶悪な赤毛熊の亜種を倒すなんて……」

「ふむ、殺してしまったのは惜しいが……あの白い毛皮、もしかしたら雪原地帯で生まれたのか?白い毛皮は景色に溶け込むために進化したのか……」



観客たちが騒ぎ出す中、アルトは研究家として冷静にレノが討ち取った白毛熊の分析を行い、その反面に兵士達は試合場の閉鎖を解除すると若干怯えた表情でレノを外へ出す。



「お、お疲れさまでした……待機室で荷物を回収した後、この番号札を受付に提出して下さい。そうすれば試合で倒した魔物の報酬が支払われますので……」

「あ、ありがとうございます」

「で、では我々は魔物の死骸の処理を行いますので……」



兵士達は試合場に倒れた魔物の回収を行い、その間にレノは観客席のアルトに腕を振り、受付へ先へ向かう事を促す。アルトはぶつぶつと呟いていてレノの声が聞こえているのか分からなかったが、とりあえずは先へ向かう。


そんなレノの様子を観客席に座っていた小汚い恰好をした男性が見送り、彼と話をしていたアルトに視線を向けて笑みを浮かべる――






――受付へ移動すると、最初にレノに応対した眼鏡を掛けた受付嬢が待っていた。彼女は番号札を手にしたレノを見て驚き、戸惑いながらも報酬を用意する。



「お、お疲れさまでした……こちらが試合の報酬となります。どうぞ、ご確認ください」

「えっ、こんなに!?いいんですか?」

「は、はい……どうぞ遠慮なく受け取ってください」



渡された小袋の中身を確認してレノは驚き、金貨が少なくとも10枚は入っていた。どうやら予選目に戦った「トロール」と最終戦で倒した「白毛熊」だけでも金貨10枚分の報酬があったらしく、更に銅貨と銀貨が何枚か入っていた。


赤毛熊の相場は金貨3枚ではあるが、特別な個体という事で値段も通常よりも多かったらしく、これで目標金額の倍近くの値段を稼いだレノは受付嬢に頭を下げてアルトの迎えに行こうとする。しかし、その途中でレノの前に男が立ちふさがる。



「……報酬を受け取ったようだな」

「えっ……誰ですか?」



レノは自分の前に現れた見知らぬ男に戸惑うと、男は笑みを浮かべて闘技場の外を指差す。その態度にレノは眉をしかめると、男は淡々と答えた。



「お前のお友達を預かっている……そいつを返してほしければ俺に黙って付いてこい」

「なっ……!?」

「おっと、俺を捕まえて居場所を吐かせようとしても無駄だ。既に仲間があの男を拉致している。俺に手を出せば仲間があの男を殺すぞ」

「くっ……!!」



アルトを人質に取ったという男にレノは睨みつけると、相手の男は笑みを浮かべて黙って歩き始める。自分に付いてこいと促している事にレノは気づき、不本意ではあるがレノは男の後に続いた――






――それからしばらく歩くと、闘技場を離れたレノは元は酒場だと思われる廃墟にまで連れていかれる。酒場には既に何人かの男達が待ち構えており、その中には街に入る時にレノに絡んできた男達も存在した。



「兄貴、連れてきましたぜ!!」

「おう、ご苦労だったな……よう、久しぶりだなクソガキが」

「あんたは……あの時の男か」

「キバの兄貴!!こいつ、どうしますか?」



街に入る時にレノ達に絡んできた4人組の男達、その中でも一番偉そうな男の名前は「牙」というらしく、彼は10人近くの男と共にレノを待ち構えていた。ここまで案内した男も彼の配下らしく、すぐにキバの元へ駆けつける。


この場にアルトが存在しない事に気付いたレノは彼が何処にいるのかと探すと、ここで酒場の出入口から小汚い恰好を下小男が現れ、扉に鍵を掛けた。退路を封じられる形になったレノは腰に差した荒正に手を伸ばすと、キバは怒鳴り声を上げた。



「動くんじゃねえ!!武器を抜けばてめえのお友達を殺すぞ!!」

「……アルトは何処だ!?」

「アルト?ああ、捕まえた奴の名前か……安心しろ、殺してはいねえ。安全な場所で大人しくしてもらってるよ」



酒瓶を手にしながらキバは余裕の態度を貫き、完全に自分達が優位に立っていると思い込んでいるキバにレノは睨みつける。

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