第144話 よくも騙したな
「どうしてアルトを攫った!!いったい何が目的だ!!」
「決まってんだろうが!!俺達の事を虚仮にしたてめえ等を許すと思ってんのか!?天下の牙狼団がお前等みたいなガキ共に舐められたままじゃ示しがつかないだろうがよ!!」
「何だよそれ……ふざけるな!!」
キバの言葉にレノは呆れた表情を浮かべると、そんな彼に対してキバは手にしていた酒瓶を投げつけ、それをレノは軽く首を動かして避ける。酒瓶は壁にまで衝突すると、中身が割れて床にこぼれる。
「ふざけるなだと……それはこっちの台詞だ!!傭兵団にとって面子ってのは何よりも大事なんだよ!!特に俺達のような名の通った傭兵団にはな!!お前等みたいなガキに舐められるような傭兵団なんてあってはならねえんだよ!!」
「……それで俺達に何をさせるつもりだ?」
「安心しろ、殺しはしねえ。とりあえずはあのガキの命を惜しければ試合で得た報酬と、有り金を全部寄越せ!!その剣と弓もだ!!後は腕輪と指輪もだな、高く売れそうだからな!!」
「まるで盗賊だな……」
「うるせえ、これはけじめだ!!俺達を舐めた責任を取って貰おうか!?」
傭兵達は武器を抜くとレノを取り囲み、下手な動きをしたらいつでも動けるように身構える。そんな彼等に対してレノはキバと名乗る男にアルトの居場所を尋ねた。
「アルトは何処だ?」
「だからさっきも言っただろうが!!安全な場所に閉じ込めて……」
「証拠は?」
「は?」
「アルトを捕まえた証拠を見せろと言ってるんだ」
レノはアルトを捕まえたという話を牙の配下から聞いてはいるが、実際にアルトが捕まっている場面を見たわけではない。一応は言われるがままに付いてきたが、一方的に要求を突きつけるだけで肝心のアルトの姿を見せない。
実はアルトを捕まえたというのはただの脅しで本当は牙狼団はアルトを捕まえていない場合、レノは遠慮する必要はない。荒正に手を伸ばしたレノを見てキバは危機感を抱き、配下に尋ねる。
「お、おい!!捕まえたガキの所に行ってこい!!」
「う、うすっ!!」
命令された男は慌てた様子で酒場の奥へと移動し、しばらく時間が経過すると慌てた様子で鞄を持って来た。それはアルトが所持している鞄と同じデザインだった。
「も、持ってきました!!あのガキが持っていた鞄です!!」
「ど、どうだ!?いった通りだろう、あのガキの命は俺達が預かっているとな!!」
「なるほど……だけど、その鞄がアルトの物か確かめさせてほしい」
「ちっ……仕方ねえな、渡せ!!」
配下の男はレノに向けて鞄を放り込むと、足元に転がってきた鞄を拾い上げたレノは中身を確認する。その結果、中身を見たレノはため息を吐き出すと鞄を地面へと放り捨てる。その態度にキバは疑問を抱くが、レノは淡々と告げた。
「こんな偽物で俺が騙されると思ったの?」
「な、何だと!?」
「よくも騙したな、お前等!!」
アルトが所有する鞄はただの鞄ではなく、魔道具である「収納鞄」と呼ばれる収納型の魔道具だった。外見はただの鞄にしか見えないが、鞄の中は異空間と繋がっており、その中には一定の制限重量はあるがどんな物も収納できる特殊な魔道具である。
しかし、盗賊達が用意した鞄は普通の鞄でデザインはよく似ているが、中身の方は異空間には繋がっていなかった。レノは自分を騙した傭兵達に怒りを抱き、荒正を引き抜く。それを見たキバは慌てて指示を出す。
「お前等、そのガキを捕まえろ!!」
「くたばれっ!!」
「死ねっ!!」
レノを取り囲んでいた男達はボーガンを取り出すと、容赦なくレノへ向けて矢を撃ち込もうとした。それに対してレノは彼等が矢を放つ前に足の裏に魔力を集中させ、キバが立っている方向へ向けて駆け出す。
一瞬にしてキバとの距離を縮めると、レノは相手が武器を抜く前に拳を振りかざし、躊躇なく全力の拳を叩き込む。瞬脚で加速した状態で振り抜かれた拳を受けて牙は吹き飛ぶ。
「ぶっ飛べっ!!」
「がふぅっ!?」
「あ、兄貴!?」
「兄貴がやられたぞ!?」
「嘘だろ、おい!?」
顔面を殴りつけられたキバは壁際まで吹き飛ばされ、頭から壁にぶつかって床へと倒れ込む。その様子を見ていた傭兵達は慌てふためき、それに対してレノは彼等にも視線を向けると、ボーガンを構えた者達は慌てて撃ち込む。
「こ、このっ!!」
「撃てっ!!」
「死ねっ!!」
3人の傭兵がボーガンから矢を撃ち込み、それを確認したレノは右の掌を構えると、風の魔力の渦巻を作り出す。すると放たれた矢は風圧によって方向を変化し、軌道が変わって天井や床や壁に突き刺さる。
怒りを抱きながらもレノは冷静さを保ち、どのように彼等を倒すのかを考える。傭兵の人数は10人存在し、その内の3名はボーガンを所持していた。風の魔力を利用すればボーガンは脅威とはなり得ず、他の者から先に仕留める事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます