第57話 領主の息子

――小川にてアルトという謎の青年と遭遇した後、レノはウルを起こして朝食を終えると、サンノの街へと向かう。ウルの脚力はアルトたちが乗った馬車よりも早いので追いつくかと思ったが、意外と街は近い場所に存在したらしく、すぐに辿り着いてしまった。



「ここはサンノの街だ……ややこしいな、サンノという街だ」

「あ、はい」



サンノの街はニノの街よりも大きく、城門には兵士が待ち構えていた。ニノの街と同様に通行料を支払わなければ通れないらしく、通行料に関してはニノの街よりも若干高めだった。



「街の中に入るのならば通行料として銅貨3枚、通行証を買えば一定期間は自由に行き来出来るぞ。但し、通行料は銀貨3枚、期限は一週間だ」

「あの……このメダルを見せれば無料で通してくれると聞いたんですけど」



兵士の言葉にレノはアルトから受け取ったメダルを差し出す。捨てるのも悪いと思って一応は彼の言う通りにメダルを兵士に見せつけると、兵士は驚いた表情を浮かべてメダルを受け取る。



「こ、これは……この街の領主様の家紋!?し、失礼しました!!どうぞ、お通り下さい!!」

「家紋……?」

「このメダルを所持する者は丁重に扱えとの命令です!!さあ、どうぞ!!」



レノがアルトから受け取ったメダルはどうやらサンノの街を管理する領主の家紋がきざまれているらしく、このメダルを持つ者は領主の客人である事を示すらしい。レノはアルトがそんなメダルを渡してきた事に驚き、彼は領主の息子か何かかと思い込む。


門を通されたレノはウルから背中を下りて街の様子を伺うと、そこにはニノ以上に活気のある街だと判明した。それと同時に冒険者らしき格好をした人間が多く行き交い、その中には銀級のバッジを装着した者もいた。



(そういえばネカさんの話だと鉄級以上に昇格した冒険者は殆どが次の街に拠点を移すとか言ってたな。という事はこの街にはニノから訪れた冒険者も……)



ニノの街以上に冒険者が多いらしく、冒険者の殆どは立派な装備を整えていた。そんな彼等を見ながらとりあえずはレノは宿屋を探そうとした時、先ほどの兵士が駆けつけてきた。



「お~い、ちょっと待ってくれ!!」

「ん?さっきの……どうかしました?」

「ウォンッ?」



レノとウルは追いかけてきた兵士に対して不思議そうに振り返ると、まさか通行料をやっぱり支払えといい出すつもりかと思ったが、兵士は手紙を差し出す。



「今さっき、メダルを持った者が現れたこの手紙を渡すように命令が届いたんだ。君以外にメダルを持ってきた奴はいないし、きっと君当てだろう?」

「手紙?」



兵士に渡された手紙には差出人の名前にアルトと表記され、宛名の方にはレノという名前が記されていた。レノは兵士から手紙を受け取り、中身を確認すると自分の屋敷に招待したという旨が記されていた。


手紙にはこの街の簡単な地図と屋敷の位置も記されており、手紙を見たら必ず訪れるようにと書かれていた。まさか領主の息子に呼び出されるとは思わなかったレノは困り果てるが、もう既にメダルを使用して通行料は無料で通ってしまっている。



(どうしよう……もう惚けていく事は無理そうだし、仕方ない。一応は行くだけいってみるか)



既にメダルを見せてしまったので別人だと言い張る事も出来ず、顔も名前も知られているためここで逃げると怪しまれるため、仕方なくレノは手紙の指示通りに彼の屋敷に向かう事にした――





――アルトが暮らす屋敷は街の中央に存在するらしく、そこはレノが今までに見たどんな建物よりも豪勢だった。出入口には門番まで存在し、ウルを引き連れたレノが近づいてきただけで警戒したように門番の兵士は槍を構える。



「何者だ!?ここを何処だと思っている、領主様のお屋敷だぞ!!」

「あの、この手紙でここへ来るように言われたんですけど……」

「手紙?もしかして……さっき、連絡があった客人じゃないのか?」

「えっ……一応、手紙を拝見させてもらうぞ」



レノが手紙の事を話すと兵士達は驚いた表情を浮かべ、彼から手紙を受け取って中身を確認する。その内容を確認し、更にレノが受け取ったメダルを差し出すと、彼等は慌てて頭を下げた。



「こ、これは失礼しました!!まさか、こんな若い客人が来るとは思わず……」

「どうぞ、中の方へお入りください!!アルト様がお待ちかねです!!」

「あ、どうも……ウルはここで待っててくれる?すぐに戻ってくるから」

「クゥ~ンッ……」



屋敷の中に入る前にレノはウルを待たせると、ウルは寂しそうな表情を浮かべる。しかし、屋敷の中に彼を連れてもしも粗相でもすればレノの責任なる可能性もあるため、門番にウルを任せてレノは屋敷の中に通る。


屋敷の中に入った途端、すぐに鎧をこすり合わせながらやかましい音を鳴らす老人が駆けつけてきた。アルトに「爺」と呼ばれていた男性だと思い出し、彼はレノの前で息切れしながらも話しかけてきた。



「ぜえっ、ぜえっ……お、お待ちしておりましたぞ。アルト様のお客人」

「あの、大丈夫ですか?無理をしない方が……」

「な、なぁにっ……まだまだ若いものには負けませんぞ。さあ、こちらへどうぞ。しっかり儂の後に付いてきてくだされ」

「はあっ……あの、お爺さんの名前を聞いてもいいですか?」



レノは爺の後に続き、この際に彼の名前を尋ねる事にした。流石に他人に「爺」と呼ばれるのは嫌だろうと思って聞いてみると、爺は思い出したように自己紹介する。



「おおっ、これは失礼致した。儂の名前はロンと申す。アルト様からは爺と呼ばれているが、その呼び方はアルト様のみに許しております。なので儂の事はロンと及び下され」

「分かりました、ロンさん。それで、どうしてアルトさんは俺を呼んだんですか?」

「その辺の話は本人から聞いた方がよろしいかと……」



ロンはレノの質問には渋い表情を浮かべて答えず、そんなロンの態度にレノは疑問を抱くが、とりあえずは彼の後に続いて屋敷の中を移動する。思っていた以上に屋敷は広く、アルトの部屋に辿り着くまでに時間はかかった。


部屋の前に辿り着くとロンはノックした後、中から入ってくるように促す声が響く。ロンは扉を開くとレノを先に入れ、自分も入る。

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