力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

プロローグ

第1話 ハーフエルフの少年

「――酷いよ、何で僕がこんな目に……」



森の中、一人の少年が大樹の傍で膝を抱えて座っていた。その身体は傷だらけであり、痣も出来ていた。少年は黒色の髪の毛に黒の眼をしており、顔立ちの方はまるで女の子のように綺麗に整っていた。一見するだけでは人間の子供にも見えるが、普通の人間と違って少年の耳は細長く尖っていた。


彼は人間と森人族エルフと呼ばれる種族の血を継いだ子供だった。世間一般では「ハーフエルフ」と呼ばれる存在であり、人間と森人族の血を継いだ彼は人間特有の黒髪と森人族の証でもある細長い耳を生まれた時から身に付けていた。しかし、そのせいで彼は生まれ育った故郷の子供に酷い苛めを受ける。



「おい、あいつ何処に隠れやがった!!」

「あの半端者め、絶対に見つけ出してやる!!」

「気味が悪い黒髪をしやがって!!」



遠くの方から聞こえてきた子供の声にレノは縮み上がり、見つからないように大樹に身を隠す。茂みを掻き分けながら数名の金髪の髪の毛の子供達が大樹の近くに赴き、レノの姿を探す。彼等はレノが暮らしている「里」の住民でもあり、彼等は純粋な森人族であった。


純粋な森人族は金髪碧眼であるのに対し、生まれた時から黒髪黒眼であったレノの事を里の子供達は不気味に思い、いつも虐めていた。レノが暮らしている場所は森人族だけが暮らす森の中に存在する里であったため、いつも彼は子供達に虐められるときは森の中に逃げて身を隠す。



「くそ、あいつのせいでこんな森の奥までくる羽目になった!!」

「おい、まずくないか?あんまり里から離れると、魔物に見つかっちまうぞ?」

「だ、大丈夫だって!!俺達だって魔法が使えるんだぞ?それに出てくるといっても一角兎程度だろ?」



子供達の会話を耳にしたレノは「魔物」という言葉を聞いて震えた。この世界には普通の動物とは異なる進化を告げた生物が何百種類も存在し、その生物たちを魔物と呼ぶ。


魔物は多種多様で様々な姿形をしており、人に危害を加える恐ろしい生物だとレノは母親から教わっていた。流石にレノを追ってきた子供達も魔物と出くわすのは恐怖を抱いている様子だったが、ここで子供の一人が大樹からこっそりと自分達を伺うレノを見つけ出す。



「あ、おい!!あいつ、あそこにいたぞ!!」

「何だと!?」

「ひっ!?」



子供達に見つかったレノはすぐに逃げ出そうとしたが、それを見た子供の一人が掌を構えると、大樹の後ろに隠れようとしたレノに向けて大声を放つ。



「逃がすか、スラッシュ!!」

「うわっ!?」



少年の手から三日月上の風の刃が放たれ、レノの身を隠していた大樹の枝を切り裂き、頭上から落ちてきた大きな枝によってレノは身体を地面に押し付けられてしまう。その様子を見ていた森人族の子供は笑い声をあげ、枝を退かす事が出来ずに苦痛の表情を浮かべるレノの元へと訪れる。



「はっ!!ざまあみろ!!」

「いい気味だな!!」

「い、痛い……なんで、こんな事……」

「うるさい、お前が悪いんだ!!ヒカリ様に俺達が虐めた事をばらしたんだろっ!!」



枝を退かす事が出来ずに身動きが取れないレノに対して一番年齢が年上だと思われる森人族の子供が近づくと、怒りのあまりに顔を紅潮させ、レノの頭を踏みつける。彼の言葉を聞いてレノは「ヒカリ」と呼ばれる少女を思い出す。


里に暮らす森人族の中で母親以外に一人だけレノの味方が存在した。彼女の名前は「ヒカリ」と呼ばれ、この里を治める族長の孫娘でもある。ヒカリとは同年代でレノは彼女とよく遊ぶことがあり、仲が良い。しかし、それが里の子供達には気に入らなかった。



「ヒカリ様がな、俺達がお前を虐めるからもう遊びたくないと言い出したんだよ!!」

「くそ、お前みたいな半端ものがヒカリ様を独り占めなんて……絶対に許さない!!」

「ご、誤解だよ……ヒカリには何も喋ってないよ!?」

「ひ、ヒカリ様を呼び捨てにしただと!?こいつ、舐めた口を利きやがって!!」

「え、でもヒカリが呼び捨てでいいって……痛い!?」



子供達は動けないレノに対して何度も蹴りつけ、彼等はヒカリがレノを気に入っている事が気に喰わなかった。ヒカリは子供ながらに里の女の子の中でも一番に容姿が優れ、性格もいいので人気者だった。だからこそ、ヒカリに気に入られている相手がレノという事が子供達にとっては許せない事だった。


ヒカリ自身から呼び捨てにする事を認められているレノに彼等は不満を爆発させ、遂に彼等はレノを森の中に追い詰める。先ほど魔法を使った子供がレノに対して掌を構え、若干震えながらも魔法を発動させようとする。



「へ、へへっ……お前が悪いんだからな、お前が……」

「お、おい!!それはやばいって……」

「いくら何でも死んじまうぞ!?」

「うるさい!!お前等は黙ってろ!!」

「ひっ……!?」



流石に他の者も魔法を発動しようとする少年に対して慌てて引き留め、こんな至近距離で先ほどの魔法を発動すれば相手を殺しかねない。レノは危険を察知して必死に手を伸ばし、相手が魔法を発動する前に自分も魔法を使う事にした。



(お願いだ、成功して!!)



ハーフエルフであるレノもエルフが扱う「風魔法」は使用できる。ちなみに魔法の発動には高い集中力と想像力を必要とし、体内に存在する「魔力」と呼ばれる生命力の源といっても過言ではない力を利用し、その魔力によって構成された現象を世間一般では魔法と呼ぶ。


魔法の発動の際には基本的には言葉を口に出す事で想像イメージを固め、魔法を発動する事が出来る。しかし、レノの場合は半分は人間の血が混ざっているせいなのか今までに一度も魔法を成功させた事がない。彼は魔法の力を使おうとすると両手に風の魔力を生み出す事は出来るが、先ほどの森人族の少年のように上手く形を整えて放出する事が出来ない。その結果、集めた風の魔力は暴発してしまい、周囲に吹き飛んでしまう。



「うわぁっ!?」

「うぎゃあっ!?」

「いでぇっ!?」

「がはぁっ!?」



レノが両手に集めた魔力が暴発した結果、周囲に風圧をまき散らす形となり、レノを囲っていた子供達は吹き飛ばされてしまう。一方でレノの方も背中に乗っていた枝を吹き飛ばす事に成功したが、自分自身も一緒に吹き飛んでしまう。

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