第216話 砂嵐
「ギュロロロッ!!」
「……水刃!!」
自分達を飲み込もうと大口を開いて近付いてきたサンドワームに対し、ウルの背中に乗ったレノは刀身に纏わせた水の刃を放つ。結果から言えば放たれた水刃はサンドワームの顔面を切り裂き、血が迸る。
「ギュエエエエエッ!?」
「やった……!?」
顔面を切り裂かれたサンドワームは悲鳴を上げ、大量の血液を放出しながら倒れ込む。その様子を見てレノは助かったのかと思ったが、地上にウルは着地すると念のために何かに気づいたようにウルは鳴き声を上げた。
「ウォンッ!?」
「どうした、ウル……何だあれ!?」
レノはウルの声を聞いて振り返ると、そこには大量の砂を巻き上げた竜巻が接近している事に気付き、初めて「砂嵐」を目撃したレノは何が起きているのか分からずに戸惑う。
大量の砂が舞い上がる光景に危険を察したレノはウルに逃げるように促す。しかし、砂漠を移動する際は平地と比べて距離が上手く出せず、どんどんとレノ達と砂嵐の距離が縮まっていく。
「くそっ、まずい……頑張れウル!!」
「ウォオンッ……!?」
吹き飛ばされないようにレノは必死にウルにしがみつくが、ウルの方も頑張って砂漠を移動する。しかし、砂嵐が巻き上げる大量の砂のせいで視界も悪く、自分達が何処を移動しているのかも分からなくなった。やがては二人の身体は砂嵐に飲み込まれてしまう――
――次にレノは意識を冷ますと、自分が砂漠の中ではなく、木造製の板の上にいる事に気付く。身体には毛布が被せられ、傍には皮袋も置かれていた。レノは身体を起き上げると、自分がいつの間にか大きな船の甲板で横たわっている事に気付く。
「こ、ここは……何処だ?」
レノは自分が先ほど砂漠で気を失ったにも関わらず、船の上に倒れている事に驚き、何が起きたのかと戸惑いながらも周囲を見渡すと、傍に置かれている皮袋の存在に気付く。中身を確認すると、どうやら水である事が判明し、無我夢中に飲み込む。
「ぷはぁっ……生き返った」
皮袋の中身は冷たい水が入っており、水分補給を終えてレノは安心すると、自分の装備が剝がされている事に気付く。服の方もよくよく確認すると退魔のローブではなく、見た事もない皮製の服に変わっていた。
どうやら何者かに助けられたようだが、装備品の類は剥ぎ取られたらしく、ウルの姿も見えない。無事である事を祈りながらもレノは立ち上がろうとした時、後方から声を掛けられた。
「おっ?兄ちゃん、やっと起きたのか?」
「えっ……うわっ!?」
「おいおい、人の顔を見ていきなり悲鳴を上げることはないだろ」
声を掛けられたレノは振り返ると、そこには巨人族と思われる男性が立っていた。頭には三角帽子を身に付け、片目は眼帯で覆い込んだ色黒の肌の大男だった。男の手元には大きな骨付き肉が握りしめられ、レノに手渡す。
「まずはこれを食いな、話はそれからだ」
「えっ……」
「兄ちゃんはな、もう何時間も気絶してたんだぞ。ほら、見ろ。夜明けだ」
大男の言葉にレノは戸惑いながらも振り返ると、確かに彼の言う通りに寄るが開けようとしていた。だが、レノが気になったのは太陽ではなく、船の周囲の光景である。
「これって……砂漠!?」
「何だ?海の上にいるとでも思ったのか?ああ、分かったぞ。お前さん、砂船を見るのは初めてか?」
「砂船……?」
驚くべき事にレノ達が乗り込んでいる船は海上ではなく、砂漠を移動していた。いったいどのような原理なのかは不明だが、水に浮かぶ船のように砂の上を移動する光景にレノは唖然とした。
大男の話によるとこの船は「砂船」と呼ばれる砂漠を移動する上で作り出された船らしく、風属性の魔石を使用した魔道具で移動を行うという。船の帆の部分には風属性の魔石が取り付けられ、任意で行きたい方向に風を発生させて船を動かす事が出来るらしい。
「こいつは俺が作り上げた船だ。名前はヤマト、この砂海を駆け巡るために作り出した俺の船だ」
「砂海……」
「お前さん達、本当に運が良かったな。この砂漠では砂船に乗らずに移動するのは自殺行為だ。何しろ、ここには危険な魔物がわんさかいるからな。おっと、自己紹介がまだだったな……俺の名前はエイハブだ。といっても、船の上にいる時は船長と呼んでくれ。それがこの船の決まりだ」
「船、長?」
自分の事をエイハブと名乗った大男だが、船の上にいる時は船長と呼ぶように注意すると、彼はレノを連れて船内へ移動する。巨人族の彼が乗り込む事を考えて作られたらしく、天井は高くて階段の方も巨人族用に作り出されていた。
階段を降りる時は少し苦労したが、どうにか彼の後に続いて船長室という部屋へと辿り着く。船長室に入るとエイハブはレノと向かい合い、まずはどうして彼が砂漠で行き倒れになっていたのかを尋ねた。
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