第217話 砂船と船長エイハブ

「お前さん、何処から来たんだ?最初に来ていた服から察するに砂海の外から訪れた旅人か?」

「あ、はい……ムツノに向かう途中、砂嵐に襲われました。あの、俺と一緒にいた白狼種の狼は……」

「ああ、あのワンコロもこの船に乗せているぞ。お前に寄り添うように倒れていたからな。よく懐いているようだな」

「そうですか……良かった」



レノはウルも無事であったことに安堵する一方、自分達はこれからどうなるのかと不安を抱く。一応は命を助けてくれたようだが、装備品を剥ぎ取られているので安心は出来ず、まずは装備品に関して話を聞く。



「あの……助けてくれてありがとうございます。それと、俺の装備していた物は……」

「安心しろ、お前さんの装備はそこの箱の中にある。だが、服の方は砂まみれだったからな。今は選択して外で干しているよ。そいつは巨人族のガキ用の服なんだが、に合ってるぞ」

「ど、どうも……」



エイハブはあっさりとレノが身に付けている装備品が入った木箱を指差し、それを確認したレノは荒正も魔法腕輪も指輪もある事を確認して安堵する。あっさりと装備品を返してくれたのでレノはエイハブが優しい人なのかと思ったが、ここで彼は意地の悪い笑みを浮かべる。



「とはいっても俺達としてもお前さんを善意だけで助けたわけじゃねえ。命を助けたやった分、俺達のために役立ってもらおうか」

「えっ……どういう意味ですか?」

「あんなデカいワンコロを従えていたんだ。しかもその武器を見れば分かる、兄ちゃんは只の旅人じゃないな?」



レノが手にした荒正と魔法鞘を指差したエイハブは目つきを鋭くさせ、彼はレノが只者ではないと見抜く。その言葉にレノはどう返していいのか分からずに困っていると、ここで部屋の扉がノックされた。



「船長、入るぞ」

「おおっ、丁度良かった。坊主、こいつがお前さんを助けたんだ。礼を言いな」

「えっ?」



部屋の扉から現れたのは身長が3メートル近くの男性であり、外見がエイハブと似ている事から息子か孫だと思われる。身長的にはまだ巨人族の子供らしく、エイハブと違って目元は細目で頭にはバンダナを巻いていた。


エイハブによると彼が行き倒れになっているレノとウルを見つけて救助したらしく、レノは男性と向かい合うと、頭を下げて命を救ってくれた事に礼を言う。



「あ、あの……レノと言います。この度は助けていただき、ありがとうございました」

「無事だったか……礼を言う必要はない、これからしばらくの間は俺達と共に旅する仲間になるんだからな」

「えっ……どういう意味ですか?」

「何だ?親父、まだ話していなかったのか?」

「おう、今から話すところだ。ついでにお前の紹介もしてやる、レノと言ったな?こいつは俺のガキだ。名前はゴンゾウ、こう見えても15才だ」

「15才……」



レノはゴンゾウが自分1才違いである事を知るが、やはり年齢は近くても巨人族の子供だと身長が倍近くも差があり、ゴンゾウはレノを見下ろしながら手を伸ばす。



「ゴンゾウだ……よろしく」

「ど、どうも……」

「はっはっはっ!!まあ仲良くしてやってくれよ!!これからしばらくはお前達は一緒に行動してもらうからな!!」

「えっと……どういう意味ですか?」



話が付いていけずにレノは困っていると、ゴンゾウがエイハブの代わりに説明を行う。現在、彼等はレノの命を救った代わりにしばらくの間は船で働くように頼みたい事を告げる。



「俺達は魔狩りだ。俺達の仕事は砂海を泳ぐ魔物を討伐し、そいつらを街に持ち帰って売却して生計を立てている」

「魔狩り……冒険者の事ですか?」

「似たような物だ。だが、冒険者と違って俺達の場合は階級制度は存在しない。それに時には魔物を狩るだけではなく、砂賊を討伐する役目もある」

「砂賊?」

「要するに砂漠を荒しまわる賊の事だ。海で犯罪を犯す奴が海賊なら、この砂の海の秩序を乱す奴は砂賊と呼ばれるわけだ」



エイハブの説明にレノは納得し、彼等は冒険者とは違った「魔狩り」と呼ばれる存在だと知り、彼等は砂の海を移動しながら魔物を狩って砂賊を討伐する事で生計を立てているという。


この船はエイハブが作り出した者であり、彼の息子のゴンゾウと他に十数名の船員たちで動かしているという。全員が巨人族で構成されているわけではなく、獣人族や人間も含まれているらしい。



「この船は現在、ムツノに向けて移動している。だが、今のところは収穫は偶然にも発見したサンドワームの死骸だけだ」

「え、それって……」

「やっぱり心当たりがあったか。サンドワームの死骸の傍でお前さんが倒れているのをこのゴンゾウが見つけた。あの化物を倒したのはあんたなんだろう?」

「そうなのか?それが本当なら……凄い奴だな」

「えっと……まあ、一応は?」

「そんなの嘘に決まってんだろ!!騙されるな、二人とも!!」



会話の際中、唐突に扉が開かれて獣人族の少女が現れる。年齢は10才か11才ぐらいだと思われる犬型の獣人だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る