第132話 巻き込まれ体質

「このハンカチ、王都の貴族の間で人気の代物でね……多分、銀貨数枚ぐらいはするね」

「えっ……」

「正確には金貨1枚ですわ。私のために特別に職人さんが仕立ててくれた物ですもの」

「……流石は公爵家令嬢」



ドリスの言葉に男性の顔色は変わり、一方でドリスの方はお気に入りのハンカチを汚された事に怒りを抱き、男性を睨みつけた。その瞳に睨みつけられた男性は震え上がり、乾いた笑いを浮かべる。



「そ、そうか……わ、悪い事をしたな。じゃあ、俺の弁償代はもう払わなくていいよ。うん、今度はお互いに歩く時は気を付けような……は、はは、ははははっ!!」



男性は笑ってごまかして逃げ出そうとしたが、その先にネココが待ち構える。男は慌てて別の方向へと逃げようとするが、そこにはレノが立っていた。いつの間にか男は囲まれており、ドリスはアルトからハンカチを受け取ると、冷たい瞳で男の顔を覗き込む。



「先ほど、弁償代は銀貨3枚といってましたわね。ではそれを差し引いて……銀貨7枚支払ってくれますか?」

「……く、くそっ!!」

「あ、逃げた……」



ドリスの言葉に男は逃げ出してしまい、その様子を彼女は疲れた表情を浮かべてハンカチに視線を向け、汚れた部分を振り払う。



「まあ……別に洗えば使えますから弁償する必要もありませんわね」

「……意外とたくましい」

「ほっ……それよりもアルト、どうしてここにいるの?」

「いや、さっきのは助かったよ。僕もちょっとこの街に用事があってね……」



アルトは助けてくれた事に礼を言うと、この街に訪れた理由を話す。シノの街で別れた後、彼はゴノに向かう商団の馬車に乗せてもらい、先に辿り着いていたらしい。レノ達は途中でドリスが馬を失い、徒歩で移動する事になったの思っていたよりも時間が掛かってしまい、いつの間にか追い越されていたらしい。


この街に訪れた用件はアルトは闘技場に出場する魔物の噂を聞き、なんでも最近では闘技場で外国から取り寄せた魔物が選手と戦わされていると聞いてやってきたらしい。国内の魔物に関しては調べつくしたアルトだが、外国に生息していたという魔物は滅多に見れず、研究も兼ねてゴノへ来たと言う。



「ここで君たちと出会えたのは運が良かったよ。良かったら、一緒の宿屋に泊まらないかい?」

「宿屋?」

「ああ、実は僕の知り合いが経営している宿屋がこの近くにあるんだ。宿屋を立てる時に僕も出資したから宿に訪れる時はいつも無料にしてくれるんだ。僕が頼み込めばきっと君達も格安で泊めてくれると思うよ」

「……そういう事なら問題ない」

「そうですわ、それなら案内して下さいますか?」

「そうこなくっちゃ!!それじゃあ、僕について来てくれ」



助けてくれた恩返しとばかりにアルトは知人が経営している宿屋へとレノ達を案内する。そんな彼等の後ろ姿を路地裏からこっそりと見つめる男が存在した――






――アルトの知人が経営している宿屋に辿り着くと、彼は約束通りに女主人と話をつけてくれた。但し、現在は個室が埋まっていて二人部屋しか用意できず、レノとアルト、ネココとドリスに分かれて泊めてもらう。



「ふうっ、こうして君達と出会えてよかったよ。この街は物騒でね、さっきみたいな輩が多いんだよ」

「へえ……やっぱり、闘技場のせいかな?」

「まあ、そうだろうね。腕自慢の傭兵は冒険者は闘技場でひと稼ぎしようとここへやってくるんだ。そういうレノ君はどうなんだい、君なら闘技場に出場したら稼げるんじゃないかい?」

「興味はないかな……今まで稼いだお金もあるし、別に戦う事が好きというわけでもないし」

「そうか、君ならそういうと思ったよ」



レノはアルトと同じ部屋で彼と語り合い、この時にレノは荷物の整理を行うと、ここでドリスの話を思い出す。普通の魔法剣士は鞘などの武器を収める物に魔石を装着させるのが普通らしく、レノは自分の荒正の鞘を確認する。


荒正の鞘は革製であるため、魔法腕輪と同様で魔法金属製の鞘でなければ魔石を嵌め込んでも刃に魔力を上手く伝えられない。だが、魔法金属は普通の金属よりも希少で高価のため、かなりの金額が必要になると思われた。


今までの道中でレノの手元には金貨10枚近くの金がある。これを利用すれば荒正の新しい魔法金属の鞘を作り出せるかもしれない。問題があるとすれば装着する魔石の購入であり、鞘製作の代金と魔石の購入となると金貨10枚だけでは心もとない。



(ドリスの爆炎剣みたいに俺も剣を抜く時に魔法剣をすぐに発動できたら便利だと思うけど、お金が心配だな……まあ、とりあえずは鞘を制作してもらおうかな)



魔石の購入するかはともかく、この街の鍛冶師に頼んでレノは荒正の鞘の製作を依頼する事にした。傭兵や冒険者が多く訪れるこの街ならば腕のいい鍛冶師もいるかもしれず、早速自分よりもこの街に詳しい者に尋ねる事にした。

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