第25話 剣技《地裂》

――月日は流れ、遂にレノは14歳の誕生日を迎えた。季節は春を迎え、未だにロイはレノたちと共に暮らしていた。3人は昔からの家族の様に仲が良くなり、楽しい日々を過ごす。


だが、レノは未だにロイから教わった「地裂」という剣技を身に付ける事が出来ずにいた。毎日のように地面に突き刺さった刃を掴み、剣で大地を切り裂く修行を行う。



「ふんっ!!このっ……うわぁっ!?」



人気のない山奥にてレノは地面に突き刺した剣に手を添え、全力が振り抜こうとした。しかし、結局は力が違う方向に入ってしまい、剣を引き抜いてしまう。引き抜かれた剣をまた地面に埋め直さなければならず、レノはため息を吐き出す。



「やっぱり、爺ちゃんと義父さんみたいには出来ないか」



この数か月の間にレノなりに腕力は鍛えたが、ロイやダリルのような怪力でもない限り、純粋な筋力だけでは地面を切り裂きながら剣を引き抜く事など出来ない。ロイは種族的には人間ではあるが、実は彼は父親がドワーフである事が判明し、彼の怪力も父親譲りらしい。


普通に考えればいくら若いころは鍛えてたとはいえ、70才を越えて片腕しかない老人にしてはロイの腕力はあまりにも異常過ぎた。ロイ曰く、単純にレノが身体を鍛え続けても自分には及ばないらしく、だからこそ彼はレノに自分のように筋力だけに頼るだけでは地裂が覚えられないと助言した。



『いいか、レノ。お前の力は儂等の半分もない。魔導士としては魔法が使えないお前は半人前かもしれん、ならばどうすればいいと思う?』

『どうすればいいと言われても……』

『その答えばかりはお前自身が考えないといけないんだよ、頑張れ!!』



酒に酔っ払ったロイとダリルの言葉を思い出し、他人事だからといって好き勝手言ってくれる二人にレノは呆れてしまうが、確かに二人の言葉は一理あった。



「腕力も駄目、魔法も駄目、ならどうする?答えは足りない物同士を合わせてやるしかないか」



レノは剣を手にすると、付与魔術を発動させて「魔法剣」を発動させる。今までは風の魔力を刃に集中させ、一気に魔力を解放して攻撃するという手段しか用いた事はなかった。だが、最近の練習でレノは魔法剣の新しい使い方を生み出す。



「よし、こんなもんか……せぇのっ!!」



刀身に纏わせた魔力を「竜巻」のように変化させると、レノは地面に向けて突き刺す。その結果、まるで削岩機の如く地面の中に刀身が沈み、根本近くまで刃が埋まった。


この魔法剣の使い方はレノが独自に編み出した技術であり、最初の頃は風の力が強すぎて土砂をまき散らして大変な事になったが、今現在では竜巻の出力を調整して上手く刀身に地面に突き刺せるようになった。後は飛び散った土砂をかき集めて地面を固めると、レノは気合を入れる。



(この状態で魔力を解放させれば大地を切り裂く事は出来る)



地面に刃が埋まった状態で風の魔力を解放させ、風の斬撃を生み出せば地面を切り裂く事は出来るだろう。実際に何度かレノはこの方法を実践しており、結果から言えば土砂に埋まった状態でも風の斬撃を発生させる事は問題ない。



(でも、それだと剣に魔力を纏わせて攻撃するだけだから意味はないんだよな)



剣を動かす事と風の斬撃を放つという行為は同時には出来ず、そもそも剣が全く動かない状態から風の斬撃だけを繰り出しても大した意味はない。風の斬撃を放つだけなら地面に埋める意味などない。


レノがロイから聞いた話では彼が地裂を考えたのは子供が行う「デコピン」を見て考え付いたという。最初は冗談かと思ったが、彼は剣を指に見立てて地面に突き刺し、その状態から力をある程度溜めた後に一気に解放する。それが地裂の完成秘話だという。



(爺ちゃんの場合は腕力だけでも十分だけど、俺の場合はどう考えても腕力だけじゃ無理だ。それに爺ちゃんだって本当に腕の力だけで振り抜いたわけじゃない)



これまでにレノは何度かロイが「地裂」を繰り出す場面を見ており、彼は腕だけの力ではなく、足腰などの他の筋肉も利用して剣を繰り出していた事はレノも理解している。だからこそレノも腕力だけではなく、脚力や握力なども鍛えてきた。


ロイの話が本当ならば「地裂」の発動に必要なのは一気にため込んだ力を解放する事、そしてロイの場合は全身の筋力を利用してその力を生み出していた。しかし、レノでは残念ながらロイのやり方では一生身体を鍛え上げた所でロイの真似は出来ない。



(考えろ、考えろ、考えろ……俺にしか出来ない方法で「地裂」を会得するんだ)



レノはここでロイの言葉を思い出し、自分の力はロイの半分にも及ばず、魔法も上手く発動できない時点で魔導士としては半人前、ならば足りない力同士で組み合わせればどうなるか。



(魔法剣しかない、俺がやるべき事は魔法剣を極める事なんだ)



力も魔法も半人前、ならばその二つを合わせれば良いという考えを抱き、この数日の間はレノは魔法剣の修行に没頭していた。あと少しで何かを掴めそうなのだが、どうしても上手くいかない。


地面に突き刺した柄に手を伸ばし、この状態で単純に刃に纏わせた魔力を生み出すだけでは意味はない。ならばどうするべきか、レノは色々と考えていると、ここで森の中に強い風が吹く。



「うわっととっ……ふう、今日は風が強いな」



背中越しに追い風を受けたレノは危うく体勢を崩しそうになり、この時にレノは地面に突き刺していた剣を握りしめる。その瞬間、レノは目を見開いて背後を振り返る。そこには何も存在しなかったが、背中に感じた風の感触にレノはある方法を思いつく。



「そうだ……もしかしたら、出来るかもしれない」



レノは地面に埋まっている刀身に視線を向け、付与魔術を発動させる。風の魔力を地面に埋まっている刀身へと流し込むと、レノはある方法を刀身の先端に魔力を集中させる。




――今までレノは魔法剣を発動させるさい、刀身に魔力を付与させた状態で戦うか、あるいは刃から魔力を解放させて風の斬撃を繰り出していた。しかし、今回は刀身の先端部分に魔力を一点集中し、一気に解放を行う。但し、刃が魔力を放つ方向は前方ではなく、後方へ向けて魔力を放出させながら振り抜く。




「いっけぇええええっ!!」




地面の中に埋もれた刀身から風の魔力が放たれ、まるでジェット噴射の勢いの如く刀身は地中に埋もれた状態で動き出すと、大量の土砂を巻き上げながらも遂にレノは地面をながら刃を抜く事に成功した。この際にレノはしっかりと剣を手放さず、地面に埋もれた刃を天に向けて振り払う。



「や、やった……出来たぞぉっ!!」



ロイとはやり方は大きく異なるが、遂にレノは地面を切り裂く事に成功し、剣を天高く掲げる。こうしてレノはロイが生涯を費やして生み出した「地裂」を会得する事に成功した――

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