第24話 魔法剣とは……

「ふうっ……行くよ爺ちゃん!!」

「何!?まさか、これは……魔法剣!?」



レノは上段に木刀を構えると、付与魔術を発動させて風の魔力を纏わせる。その光景を目にしたロイは驚いた声を上げ、そんな彼に対してレノは木刀を振り下す。


木刀に付与された魔力が解放され、ロイの元に目掛けて三日月状の風の斬撃が放たれる。それを確認したロイは咄嗟に防ごうとしたが、レノの狙いはロイ本人ではなく、彼の足元の地面であった。



「ぬあっ!?」

「やああっ!!」



足元の地面に風の斬撃が衝突すると、派手に土煙が舞い上がってロイの視界を奪う。その隙を逃さずにレノは駆け出すと、ロイに向けて木刀を突き出す。しかし、ロイは煙で見えない状態でありながらもレノが突き出した木刀を身体を逸らして回避する。



「ぬんっ!!」

「がはっ……!?」



木刀を回避したロイは接近したレノの身体に木刀を振り払い、腹部に的中する。あまりの威力にレノは木刀を手放し、その場にへたり込む。それを見たロイは手加減するのを忘れていた事に気づき、慌ててレノの様子を伺う。



「だ、大丈夫かレノ!?すまん、咄嗟の事だってので力加減を誤ったか……!!」

「げほっ、げほっ……だ、大丈夫」

「本当にすまん……しかし、今のは魔法剣か?レノ、お主いつの間に魔法剣を覚えておったのだ?」

「ま、魔法剣……何それ?」

「まさか、知らずに使っていたのか!?」



ロイ曰く、レノが使用した付与魔術を利用した剣技は世間一般では「魔法剣」と呼ばれる剣技と酷似しているらしく、彼はレノの治療を行いながらも説明してくれた。




――魔法使いの素質を持ち合わせながらも剣士として生きる人間の事を世間では「魔法剣士」と呼ぶらしく、彼等は魔法と剣を組み合わせた「魔法剣」という名前の剣技が扱える。


ロイも過去に何人か魔法剣士と相対した事があり、彼等は普通の魔導士(魔法を使える人間の総称)と違って杖等を使わず、剣などの武器を媒介して魔法を生み出すという。


通常、森人族のように魔法の力に優れた種族は杖を使わずとも魔法を扱える。基本的に普通の魔導士は杖などを使用して魔法を発動させるのだが、魔法剣士の場合は杖ではなく、剣を利用して魔法を扱う。


魔導士が魔法を使うのと、魔法剣士が魔法を扱うのは同じ原理らしく、違いがあるとすれば杖を扱う魔導士は遠距離攻撃を得意とするのに対して、魔法剣士は接近戦で魔法を扱う事を得意とする。また、魔法の威力は魔導士の方が優れているといわれるが、魔法剣士の場合は魔法剣を瞬時に発動させる事が出来るらしい。



「レノ、お主は魔導士として落ちこぼれだと言っていたが、それは大きな間違いじゃ。お主は魔法剣士としての才能がある」

「才能……でも、俺は魔法が使えないよ?」

「何を言っておる、確かにお主は魔導士としては落ちこぼれかもしれん。しかし、魔法剣士としてはお主は優秀じゃ。何しろ儂の知っている魔法剣士たちはお主のように武器に魔力を長時間付与させる事など出来んかったからな」



ロイの治療を受けた後、レノは付与魔術の事を話して自分は昔から物体に風の魔力を宿す事が出来る事を話す。また、ロイが知っている魔法剣士たちは魔法剣を扱う時に確かに剣に魔力を込める事は出来るが、少なくとも彼等は魔力を武器に付与させた状態で戦う真似は出来なかった。





――レノが扱う「魔法剣」は従来の魔法剣士とは性質が少々異なり、通常の魔法剣士が扱う魔法剣は発動させた直後に武器に付与させた魔力を魔法の要領で発揮する。しかし、レノの場合は魔力を物体に維持させた状態で戦う事も出来た。


常に武器に魔力を付与させた状態で戦え、更に自分の意思で好きな時に魔法のように魔力を解放させて攻撃できる魔法剣士などロイは出会った事がない。更に言えばレノの場合は剣に拘る必要はなく、他の武器にも魔力を込める事が出来るとしってロイは非常に驚く。




(この子は魔法が使えないからといって自分の事を魔導士としては落ちこぼれだと思い込んでいたのか……だが、自分なりに創意工夫を行い、自力で魔法剣を会得した。これは素晴らしい事じゃ)



レノの話を聞き終えたロイは彼が自力で誰からも教わらずに魔法剣の境地へと辿り着いた事を感心し、更に彼の力を知ってロイは自分の剣技を受け継げるのではないかと考えた。



(この子ならば出来るかもしれん。儂の剣技をこの子なら受け継ぐ事が出来るかもしれん)



ロイはレノの付与魔術と魔法剣の事を知り、彼ならば数十年の時を費やして完成させた自分の剣技を受け継げるかもしれないと考えた。普通に考えれば子供のレノにロイが長年の時を費やして完成させた剣技を扱えるはずがない。


だが、ロイはレノの話を聞いて彼がこれまでどのような訓練を経て付与魔術を作り上げのたのかを知り、彼の筋力と魔法の力があれば自分の剣技を受け継ぐ事が出来るとロイは確信を抱く。



「レノ……儂の剣技を教えてやろう」

「えっ!?それって前に見せてくれた技の事?」

「ああ、そうじゃ……儂が編み出した剣技「地裂」をお主に授けよう」



レノはロイが来たばかりの頃、彼が見せてくれた下から振り抜く剣技の事を思い出し、あの凄い技を自分に教えてくれるというロイに期待に目を輝かせる。しかし、そんあレノに対してロイは険しい表情を浮かべた。



「だが、これから先の修行はより一層に厳しくなるぞ。下手をしたら大怪我では済まん……それでもやる覚悟はあるか?」

「ロイ爺ちゃん……うん、爺ちゃんの技を俺は覚えたいよ!!」

「よかろう、では儂の剣技を教えてやる」



ロイは自分が持っていた剣を手にすると、彼はレノの目の前で剣を掴み、勢いよく地面に突き刺す。刃の根本の部分まで地面に埋まるのを確認すると、レノは驚いた表情で地面に突き刺さった剣を確認した。


片腕でしかも今年で70才を迎える老人が行える芸当ではなく、地面に完全に刃が埋もれた剣を見てレノは動揺する。こんな芸当は今のレノでは真似できるはずがなく、そんな彼に対してロイは更に驚くべき行動を見せつける。



「良いか、よく見ておれ……レノ、この地面に突き刺さった剣は引き抜くのではない、地面を切り裂きながら取り出すのだ」

「地面を……切り裂く?」

「その通りだ。よく見ておけ……見れば意味が分かる」



地面に埋もれた剣を片腕で掴んだロイは意識を集中させるように目を閉じると、彼が次に目を見開いた瞬間、筋肉が一瞬だけ盛り上がり、地面に突き刺さった状態の剣を地上へ向けて


刃を地面から引き抜くのではなく、突き刺さった状態の剣を動かして「半円」を描くかの如く大地を切り裂く。剣が地面を切り裂きながら出現した瞬間、あまりの速度と迫力にレノは圧倒され、そんな彼にロイは剣を渡す。



「これが儂が編み出した唯一の剣技……地裂じゃ」

「地裂……」

「地面に埋もれた刃を引き抜くのではなく、大地を切り裂きながら敵に放つ。これだけの芸当が出来なければ巨人どもに儂は勝てなかった」

「す、凄い……でも、俺に出来るのかな?」

「今のままでは無理だ。だが、お前は賢い子だ……自分でよく考え、この剣技を身に付けてみせろ。分かったな?」

「……分かったよ、爺ちゃん」



レノは冷や汗を流しながらも渡された剣に視線を向け、改めて本物の剣を手に持った事は初めてだと意識する。しかし、ロイの言葉を聞いてもレノは覚悟を決め、この日からレノはロイの剣技を受け継ぐための特訓を開始した――

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