第32話 魔石
「他にも水属性の魔石を使って水を生み出したり、雷属性の魔石を鉄格子に取り付けて外部から侵入しようとしてくる魔物を電流で追い払ったりなども出来ます。しかし、魔石の本当の使い方は魔法の補助のための道具なのです」
「そうだったんだ……俺は使った事がありませんけど、どういう風に使うんですか?」
「ふむ、私は魔導士ではないので使った事はありませんが、だいたいの者は杖などに魔石を取りつけ、魔法を発動させるときに利用していますな」
レノはネカが用意してくれた魔石に視線を向け、外見は綺麗な宝石にしか見えない。ネカ曰く、美術品としての価値もあるため、魔導士ではない人間も装飾品として身に付ける事もあるという。
普通の魔導士はこの魔石を利用して魔法の強化や補助を行い、より強力な魔法を生み出すという。しかし、レノの場合はその魔法を扱う事が出来ない。だが、もしかした武器に取り付けたら今以上に付与魔術の出力が上昇する可能性は十分あった。
「この魔石はいくらなんですか?」
「そうですな、魔導士が扱う風属性の魔石となると結構な値段が尽きます。まあ、最低でも金貨1枚ぐらいかと……」
「金貨1枚!?」
「それと魔石は使い続ければ色を失い、やがて完全に魔力が失われた時は砕けてしまいます。砕けた魔石はただの水晶へと変わり果て、もう使い道はないと思ってください。また、魔石が強い衝撃を受けて壊れた場合、内部に蓄積されている魔力が暴発を引き起こす危険性もあります」
「暴発、ですか?」
「例えば風属性の魔石が壊れた場合は衝撃波が、火属性の魔石の場合は爆炎が発生します。なので魔石の取り扱いは非常に気を付けて下さい。最も、そう簡単に壊れる事など有り得ませんが……」
ネカの説明を受けてレノは魔石に視線を向け、どうするべきかを考える。ちなみにレノは生まれてから風属性以外の魔力を扱った事はない。風属性だけしか適性がないのかは不明だが、現時点でレノが扱えるのは風属性だけである。
(お金は結構あるし、この人は爺ちゃんに恩があるみたいだから安く売ってくれるかもしれないけど……どうしようか、魔石は少し気になるな)
魔石など見た事がないレノはどれほどの性能があるのかを確かめるため、試しにネカから受け取った小袋に視線を向け、これを渡すだけならばレノは元々持っているお金は減る事はない。
「あの、じゃあこのお金で買える魔石を貰っていいですか?」
「いえいえ、それは貴方様が私達を救ってくれたお礼です。それに命の恩人のお孫様ならば代金など受け取れません、どんな魔石も無料で提供しましょう」
「そういうわけには……あ、そうだ。なら魔石を二つ分ください。それと、この弓に取り付ける事なんかできますか?」
「え、その弓と剣に……?」
レノの申し出にネカは呆気に取られ、普通の魔導士ならば弓などに魔石を取り付けるなど有り得ない。基本的には杖、あるいは身体に身に付けられる装飾品の類に魔石を取り付けるのが一般的である。
しかし、レノは杖などは持ち合わせておらず、そもそも魔法が使えないレノが杖を持ち歩く事がない。それならば試しに武器に装着すればよいと考え、別に魔石が効果を発揮しなくとも弓の装飾品として扱うならば問題はない。
(義父さんから貰った大切な弓だけど、もしかしたら今以上に強い矢を撃てるかもしれないし……やってみる価値はあるか)
弓に魔石を装着する事をネカに頼み込むと、彼はレノの言葉を承諾し、早速ではあるが準備に取り掛かる――
――ネカの商団には「細工師」と呼ばれる職業の人物が一人存在し、馬車を止めてネカはレノに自分の所で働いている細工師の紹介を行う。
「レノ殿、こちらがうちで働いている細工師のムメイ殿です」
「……俺に用があるというのはお前か?」
「は、初めまして……レノと申します」
レノの前に現れたのは身長が120センチ程度しか存在しない少女のような出で立ちの女性であり、ネカによると彼女はドワーフの女性だという。年齢はこれでも30才を越えているらしいが、外見は少女を通り越して幼女に見える。
ドワーフの女性は滅多におらず、実年齢よりも若く見られることが多い。ドワーフの寿命は130~140才程度なので実際に普通の人間よりも二倍近く長生きするため、ネカが紹介したムメイというドワーフは人間基準ならば大人だが、ドワーフの中では若手らしい。
最も若いとそれなりに有名な商人であるネカと専属契約を結んでいる辺り、腕は確からしい。外見は茶髪に茶色の瞳、小柄ではあるがそれなりに胸は膨らみ、人間よりも少しだけ耳が大きい。その手には彫刻刀が握りしめられ、この道具で彼女は細工師の仕事を行っているという。
――細工師とは魔石などの特別な鉱石を扱い、魔石を武器や道具に取り付けるだけではなく、魔石その物に紋様を刻み、効果を強化する技術を持つ。
レノには原理は理解できないが、魔石はただ取り付けるだけでは効果を発揮できず、細工師に相談して紋様を刻んでもらわなければ効果を発揮しないという。細工師の仕事は魔石の効能を強化し、その魔石を魔導士や普通の人間にも扱えるように改造を施すのが仕事である。
「ムメイ殿、この御方は儂の命の恩人のお孫さんでしてな。どうか彼の頼みを……」
「相手が誰であろうと関係ないよ。こっちは仕事に見合う報酬を用意してくれるのなら文句は言わない。それで、あたしは何をしたらいいんだい?」
「えっと……この弓に魔石を取り付けて欲しいんですけど」
仮にも雇用主であるネカに大してムメイと呼ばれた女性は高慢な態度を取り、そんな彼女に対してネカは苦笑いを浮かべるだけで注意はしない。どうやら職人気質の相手らしく、雇用主でも頭が上がらない存在らしい。
初めて見るドワーフの女性にレノは緊張しながらも弓を差し出すと、彼女はその弓を確認し、何かに気付いたように目を開く。
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