第72話 魔法の系統と相性
「駄目か、この程度の魔石ではこれが精いっぱいだ……」
「えっ……今のって、魔法だよね!?アルトは魔導士だったの?」
「魔導士?いや、僕は魔導士なんかじゃないよ。今のは初級魔法だからね、魔石さえ扱えれば誰でも使用する事は出来るよ」
「初級魔法……?」
「……魔導士ではない人間、一般人でも扱えるのが初級魔法。攻撃威力も低くて普通なら戦闘には扱えない。最後にボールという名前が付くのが初級魔法」
「今のは火属性の初級魔法だから「ファイアボール」だったけど、仮に僕が水属性に適性があれば「アクアボール」という水の塊を生み出す魔法を作れるんだ」
レノは二人の話を聞いて魔法にも様々な種類が存在し、エルフの里で暮らしていた時にはレノは見たことはなかったが、初級魔法と呼ばれる一般人でも魔石があれば扱える魔法があるという。
アルトの場合は火属性の初級魔法である「ファイアボール」しか扱えず、この魔法は本来は攻撃用などではなく、ちょっとした火が欲しい時に使用する魔法である。戦闘の際には殆ど役には立たず、しかも貴重な魔石の魔力を消費するので扱う人間は滅多にいない。
「僕の適性は火属性てね、そういう意味では人間なのに風属性が扱える君が羨ましいよ」
「えっ……適性?」
「おいおい、何を言ってるんだ。君も魔法剣士なんだろう?それなら魔法の適性ぐらいは知っているだろう?」
魔法の適性という言葉にレノは呆気に取られるが、すぐに子供の頃に母親から教わった魔法の基礎知識を思い出す。大分昔の事なので忘れていたが、そもそも魔法には属性の他に「相性」が存在する事を今の今までレノは忘れていた。
――魔法の系統は「風」「火」「水」「雷」「地」「闇」「聖」の7つに分かれており、それぞれの系統には各々異なる特徴が存在する。
風属性は主にエルフが得意とする属性であり、風の力を自由自在に操作する力を持つ。全ての系統の中でも最も扱いやすく、多種多様な使い方が出来る。
火属性は人間やダークエルフが得意とする属性で操作は非常に難しく、その分に圧倒的な火力を発揮し、攻撃能力が非常に高い。
水属性は人魚族などの特殊な存在しか扱えず、滅多に他の種族で使い手はいない。攻撃力は低いが聖属性との相性が良いが、反面に雷属性とは相性が悪い。
雷属性は極めて使い手が少なく、歴史上でも滅多に扱える人間はいない。しかし、その破壊力は各属性の中でも随一を誇る。
地属性はドワーフや巨人族が扱える属性ではあるが、使い手は滅多にいない。地属性の場合は「重力」を操作する力らしく、苦手とする属性は存在しないが、逆に他の属性とは組み合わせる事が出来ない。
聖属性は他者を癒す回復魔法や、死霊系の魔物を浄化させる力を持つ。闇属性に対しては非常に相性が良いが、攻撃能力はない。
闇属性は死霊を使役したり、あるいは自分の影などを実体化させる力を持つ。最悪の相性は聖属性ではあるが、地属性を除くと風、火、水、雷とは相性が良いという長所を持つ。
基本的にはどんな魔導士でも極められる属性は1つだけだと言われ、それ以上の属性を極める事は不可能とされている。魔導士は自分に適した属性を伸ばし、最大限に生かせとレノは母親から教わった。
「レノ君は風属性以外に適性はないのかい?」
「俺は……どだろう、風属性以外に使った事はないかな」
「なら、試しにこの指輪を使ってみたらどうだい。もしも火属性にも適性があるなら魔法が発現するはずだよ」
「なるほど……じゃあ、試してみるよ」
レノは指輪を受け取り、先ほどのアルトのように「ファイアボール」と唱える。人間の血を継いでいる自分ならば火属性も扱えるのではないかと考えたが、結果からいえば魔石がから出てきたのは種火のように小さな火球だった。しかも発動してからすぐに消えてしまい、何ともいえない雰囲気が漂う。
「う、う~ん……これは実戦では使い物にならなそうだね」
「……小っちゃくて可愛いかった」
「気を使わなくてもいいよネココ……」
マッチの火と同程度の火球しか作り出せず、しかもすぐに消えてしまった事にレノは若干落ち込む。風属性の魔法を失敗した時と同じく、どうにもレノは魔力を操る事が出来てもそれを形して放出する「魔法」が不得手だった。
それでも魔法の発言には成功したため、一応はレノも火属性の適性がある事が判明した。適性がない人間は魔石を装備しようと初級魔法さえも発動できないため、ほんの僅かでも魔法を生み出せれば適性があるという証明になる。
レノは指輪を返すと魚を焼くための焚火が弱まってきている事に気付く。予備の枯れ枝を放り込み、軽く息を吹きかけると火の勢いが強まる。
「ふうっ……ふうっ……よし、そろそろ焼けそうだよ」
「……もう少し火を強くした方がいい?」
「そうだね、何だったら僕の火球で焼いてみるかい?」
「いや、別にそこまでしなくても……?」
焚火を見てレノは考え込み、何かが引っかかった。弱まった焚火を強くするためにレノは自分が何をしたのかを考え、すぐに思い出す。
(そうだ……風の力で火を強める事は出来るんだ)
どんなに弱い火でも、風を吹きかける事で火力を強化する事は出来る。無論、風が強すぎると火の威力は弱まってしまうが、上手く調整すれば火はどんどんと強くなり、やがては「大火」と化す。
レノはもう一度魔法の相性の事を思い出し、そして自分の剣とアルトが所持している指輪に視線を向けた。今までに一度も試した事はないが、もしも上手く行けばトレントとの戦闘で大いに役立つ可能性があった。
「アルト、今から俺の言う事を聞いて最後まで聞いて欲しい。学者のアルトなら俺の考えが上手く行くかどうか、考えて欲しい」
「ん?急にどうしたんだい?」
「……何か作戦が思いついたの?」
「作戦という程でもないけど……上手く行けばあの化物みたいな木を焼き尽くす事が出来るかもしれない」
アルトとネココはレノの言葉に驚き、そんな方法があるのかとレノに尋ねると、彼は自分が思いついた事を話す。その話を聞き終えたアルトは難しい表情を浮かべ、ネココはそんな事が本当に出来るのかと不安を抱くが、もう一刻の猶予もない。
「……よし、夜を迎えるまで時間はある。レノ君が言った事が本当に出来るかどうか、試してみよう」
「……私も出来る限りは協力する」
「ありがとう、二人とも……よし、やろう!!」
夜を迎えるまでにレノは二人に協力してもらい、新しい技の練習を行う。もしもこの技が本当に完成した場合、レノはトレントに対抗するための大きな力を手にするのは間違いなかった――
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