第92話 本当の狙いの相手は……

『二人とも、そのまま俺から離れないで』

『レノ?』

『何か思いついたのかい!?』



煙が迫る中、レノは二人の前に出ると両手を伸ばし、体内の風の魔力を放つ。その結果、押し寄せていた煙を吹き飛ばす事に成功する。



『よし、やっぱり風を使えばこの煙を吹き飛ばす事ができる!!』

『おおっ!!それじゃあ、逃げられるんだね!?』

『待って、迂闊に外に出ても狙われる可能性がある。それぐらいなら……』

『ああ、俺も同じことを考えていた。毒を受けたふりをして敵がのこのこと現れるのを待つ……でしょ?』

『……流石は相棒』



レノの言葉にネココは頷き、その後にレノは二人と共に壁際へと移動を行い、付与魔術を発動させて自分と二人の周囲に「風の膜」のような物を作り上げる。風の力を利用すれば煙の影響を受けず、敵が現れるのを待ち構える事が出来た。


ロンは自分が毒を受けないようにゴーグルも取り付けていた事が幸いし、煙の影響でゴーグルの視界は悪く、接近するまでレノ達の周囲に煙が不自然に押し寄せていない事に気付く事が出来なかった。そして自分達を始末するために現れたロンに対してレノ達は反撃に出る――



「――嵐拳!!」



拳に風の魔力を纏った状態でレノは拳を空振りすると、周囲に強烈な風圧が発生し、煙が吹き飛ばされる。これでしばらくの間は大丈夫だと判断したレノはロンに視線を向けると、その首根っこを掴んで起き上げた。



「答えろ!!どうして俺達がここにいると知っていた!?ずっと尾行していたのか!?」

「……怪しい気配は感じなかった。前に酒場を降りた時もどうして私達を見つけられたの?」

「さあ、答えな!!でないとここから突き落とすよ!!」

「ま、待て!!待ってくれ!!」



ロンは身に付けていた耳栓、ゴーグル、マスクを引き剥がされ、その状態に二階の手すりに追い込まれてまだ煙が蔓延している一階へ突き落されそうになる。下に倒れている人間達の様子を見てロンは顔を青ざめると、必死に命乞いを行う。



「た、頼む!!許してくれ、何でも話すから許してくれ!!」

「……こいつ、ロウとヤンに比べて口が軽そう」

「私達にとっては都合がいいじゃないかい」

「なら、話せ!!どうやって今まで俺達の居場所を突き止めた!?」

「ち、違う!!俺がお前等を見つけたのはただの偶然だ……俺の狙いはお前等じゃない!!ヤンの奴もそうだったはずだ!!」



一階から再び迫りくる煙を目にしてロンは悲鳴を上げ、このままでは自分が作った毒の餌食になる。それだけは避けたかったロンは自分が与えられた使命を話す。



「お、俺は命令されただけだ……この酒場に訪れる王国騎士の命を狙えとな!!ヤンの奴も同じ命令を受けていたはずだ……!!」

「何だって!?」

「……じゃあ、昨日の酒場に現れたヤンの狙いは私達じゃなくて……」

「そうか、私の所に来た王国騎士を始末するために派遣されてたのか……!!」



今までレノ達の行く先々に現れた黒狼の刺客の本当の狙いの相手は王国騎士だと判明した。そしてレノとネココが襲われたのはあくまでも偶然でしかなく、彼等が狙っているのはネズミ婆さんが会う約束をしている王国騎士だと発覚する。


ロンの話を思い返せばこれまでの疑問が明かされ、確かに酒場の時はネズミ婆さんはヤンが訪れる前に王国騎士と遭遇し、そして今回は王国騎士と待ち合わせの場所に刺客が送り込まれた。毒薬師の本当の狙いは王国騎士であったが、偶然にも彼はネズミ婆さんの傍に別の標的が存在する事に気付き、動いたという。



「なら、どうして王国騎士が現れる前に毒を仕掛けた!?毒を仕込むにしても王国騎士が訪れてからやればよかっただろう!?」

「ば、馬鹿を言うな……王国騎士を舐めるな、俺程度がどうにかなる相手じゃない」

「何だって!?なら、どうしてあんたが送り込まれたんだい?」

「お、脅して捕まえるつもりだったんだ!!ここの酒場の連中を毒で倒れさせたあと、そいつらを人質にして王国騎士と取引を持ちかけるつもりだったんだ!!」

「取引だって?いったいなんの取引をする気だったんだい?」

「へ、へへっ……俺の指名手配を破棄させるように頼むつもりだった。王国騎士の権力ならそれぐらいは出来るはずだからな」

「こいつ……!!」



あまりにも身勝手な理由を吐露するロンに対し、今すぐにレノは突き落としたい気持ちに陥る。しかし、彼にはまだ聞かなければならない事が存在し、どうして黒狼からの指示に逆らって王国騎士を交渉をしようとしたのかを問う。



「あんた、他の奴等に指示されて王国騎士の命を狙いにきたんだろう?それなのに交渉なんてしたら、他の奴等に裏切るつもりだったのかい?」

「そ、そうだ!!そもそも俺はこんなバカげた作戦には乗り気じゃなかったんだ!!こんな真似をして無事でいられるはずがない、あいつらは復讐だか何だか知らないが、俺にはどうでもいいんだよ!!」

「作戦?復讐?いったいどういう意味だ?」

「そ、その前にいい加減に放してくれ!!全部話す、嘘じゃない!!それにこれ以上に俺に構っていたら下の奴等は二度と身体が動かなくなるぞ!?この煙は吸い過ぎると身体が二度と動かなくなるんだ!!」

「なっ!?」

「そういう事は早く言え、この馬鹿がっ!!」

「あぐぅっ!?」



ロンの言葉を聞いてネズミ婆さんは彼の身体を引き上げると、強烈な張り手を食らわせて壁に叩き込む。この際にロンは気絶したのか白目を剥いて倒れ込み、一方でレノは毒の発生源を探すために一階へと降りたつ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る