第193話 屋敷への侵入方法

「俺の妹は血は繋がっていなくてな、小さいころに俺の親父が捨て子の赤ん坊を拾ってきたんだ。妹は俺と違って要領が良くて綺麗な子に育った」

「そ、そうですの……」

「……妹自慢?」

「まあ、話は最後まで聞け……俺が傭兵になるために家を離れた後、この街に訪れてからは妹とは手紙のやり取りしかしていなかった。だが、2年前に親父が亡くなり、妹はこの街に引っ越した。そして妹は伯爵の屋敷で住み込みで働く事が決まった」

「どうして貴方を頼らなかったんですの?」

「俺は傭兵だ、いつ死ぬかも分からん。俺に敵対する奴等も多い、だから妹とは手紙でのやり取りしかしていなかった。それに妹は俺が傭兵を続ける事を反対していたからな……」



妹が伯爵の屋敷で働くことになったという話はロウガも1年前に初めて知ったらしく、それまでは彼は妹がこの街に訪れていた事も知らなかったという。



「1年前の夜、俺の元に妹が突然やってきた。しかも身ぐるみ一つの状態でな……妹はゴノ伯爵に襲われそうになり、それに反抗した所、首を言い渡されたらしい。その話を聞いた俺はゴノを殺そうかと思ったが、その時には既に俺は牙狼団を結成していた……俺が伯爵に手を出せば部下も無事では済まない」

「それで妹さんはどうなったんですか?」

「伯爵の手が及ばないように別の街に逃がした。今は結婚して子供も出来て幸せに暮らしているらしい……だが、俺はゴノ伯爵を許せん。そして妹から奴の屋敷の秘密を聞き出した」

「では、本当に屋敷に抜け道があるんですの?」

「それは必ずある、以前に妹は書斎を掃除している時、奴が抜け道から現れるのを見ていた。妹は本棚が勝手に動いて姿を現したゴノを見て咄嗟に机の下に隠れたと言っていた。奴は気づく事もなく、そのまま部屋を出たそうだがな」

「抜け道が存在する……という事は、その抜け道を利用すれば屋敷に入り込める」

「でも、抜け道があると分かっても何処に繋がっているのか分からなければ……」

「この1年、俺も屋敷の抜け道に繋がる場所を探した。だが、結局は分からずじまいだった……情報屋を頼ろうにもこの街の情報屋の殆どはゴノと繋がっている」



ロウガはため息を吐き出し、彼も屋敷の抜け道がある事を知って妹を汚そうとしたゴノに復讐するために今日まで抜け道に通じる場所を探してきた。しかし、それらしき場所は見当たらず、この街の情報屋も当てにはならない。



「その抜け道さえ見つけることが出来れば屋敷に侵入し、奴の不正の証拠を掴む事が出来るだろう。俺も奴に妹を襲おうとした報いを受けさせる事が出来る……抜け道を見つけることが出来ればな」

「……さっき、この街の情報屋は当てにならないといった?」

「ん?ああ、この街に暮らす情報屋はゴノと繋がっている。だから当てにはならない」

「それなら、俺達に一人だけ心当たりがあります」

「ネズミ婆さんの力を借りるのですね!!」

「ネズミ……婆さん?」



レノ達は元この街の情報屋であり、そして大量のネズミを従えるネズミ婆さんならば屋敷の抜け道の居場所を調べられるのではないかと考え、どうにかネズミ婆さんと連絡を取る手段を考えた――






――ネズミ婆さんの隠れ家の居場所は流石にロウガや牙狼団に知らせる事は出来ず、連絡役は体力も回復したネココに任せる事にした。彼女は傭兵ではあるが並の暗殺者よりも隠密能力に優れ、すぐに隠れ家へと戻るとネズミ婆さんと合流し、話を通す。


隠れ家には既にアルトも帰っていたらしく、彼も無事だった事が判明する。だが、再会を喜ぶ暇はなく、すぐにネズミ婆さんは仕事に取り掛かってくれた。



「なるほどね、伯爵の屋敷の抜け道を見つけ出せばいいんだね?そういう事なら任せな、あの伯爵には私も個人的に恨みがあるからね。今回ばかりは無料で協力してあげるよ」

「……お願い、ネズミ婆さんだけが頼り」

「僕も手伝うよ。こうなったら一蓮托生だ、僕に手伝える事は何でも言ってくれ」



ネズミ婆さんの協力を得られ、アルトも力を貸す事を約束るとネココは牙狼団へと引き返す。それからネズミ婆さんのネズミ達が動き出し、街中にネズミを放つ。



この日に大量のネズミ達が街中を駆け巡るという事件が発生し、警備兵たちは住民達から鼠を何とかするように抗議される。彼等はゴノ伯爵の命令を受けて指名手配犯を探していただけなのだが、結局は夜が明けるまで一晩中ネズミを追い掛け回す事態に陥ったという――

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