第194話 抜け道の出所

――翌日の早朝、レノ達は牙狼団の酒場で一晩を明かすと、連絡役のネズミが訪れた。ネズミは手紙を抱えており、その内容は屋敷の抜け道が繋がる場所が記されていた。



「……手紙によると、屋敷の抜け道は闘技場の関係者だけが入れる倉庫に繋がっているみたい」

「闘技場か……また、厄介な場所に抜け道を作ったな」

「そうか、ゴノ伯爵は闘技場の管理者だから抜け道を闘技場に作る事が出来たのか」

「では、闘技場に忍び込む方法を考えなければなりませんわね!!」



ゴノ伯爵の屋敷には彼の知兵が厳重な警備を行い、街が誇る腕利きの傭兵達も警護していた。だからこそ屋敷に忍び込むより、抜け道が存在する闘技場に忍び込む方が成功率が高い。


ネズミ婆さんの情報によると、抜け道が繋がる倉庫は一階の受付の奥にあるらしく、倉庫といっても実際の所は保管されているのは売上金を収めた木箱だけらしく、金庫代わりに利用しているという。扉は侵入者対策のためか、決して壊れないように鋼鉄とミスリルの合金で構成されているらしく、仮に魔導士が存在しても破壊は難しいという。



「……倉庫の中に侵入するにはこの扉を開く以外に方法はない、ネズミ婆さんのネズミは売上金を運んできた男が扉を開いたときに忍び込む事が出来たみたい」

「という事は闘技場に忍び込んだ後に鍵を持った人から盗まないといけませんわね」

「あれ、鍵ぐらいならネココが開けられるんじゃないの?」

「待って……どうやら扉を封じているのは南京錠の魔道具みたい。魔道具製の南京錠だと私でも外す事は出来ない」



魔道具の中には施錠する形の物も存在し、それらの類はピッキングなどでは開く事は出来ず、専用の鍵を用意しなければ開く事は出来ない。だからこそ闘技場に忍び込む際は扉の鍵を調達する必要があり、屋敷に乗り込む前に準備が必要だった。



「……闘技場は夕方を迎えると閉鎖されるけど、夜の間も兵士が通路を巡回するみたい。特に倉庫の通路は一番見回りが多い。侵入者対策として兵士はベルを常備しているから、もしも緊急事態が起きた時はベルを鳴らして危険を知らせるみたい」

「ふむ、思っていたよりも警戒は厳重という事か。だが、ゴノ伯爵の屋敷に忍び込むよりはマシそうだな」



ゴノ伯爵の屋敷と比べれば闘技場は建物が大きい分、警備兵の目を盗んで隠れられる場所や忍び込む方法はいくらでもあった。ネズミ婆さんの情報を頼りにレノ達は準備を勧め、闘技場に忍び込む手段を話し合う。


牙狼団もゴノ伯爵の不正を明かす事に協力してくれるらしく、彼等の力も借りてレノ達は屋敷へ乗り込む準備を進めた。今回はレノ達だけではなく、牙狼団もいるので色々と策を講じられた。



「……闘技場の営業時間は人目が多い、だけど夜だと警備が強くなる……忍び込むとしたら警備兵が疲れて警戒心が薄くなる朝方が良い」

「待て、朝方と言ってもこの時期は闘技祭が近付いているせいで朝の時間帯も客が多いぞ」

「それならまたネズミ婆様に力を貸して貰ってはどうですの?ネズミを貸して貰い、また騒ぎを起こすとか……」

「いや、カジノと同じ方法で騒動を起こしたら怪しまれるかもしれない。もしもネズミの正体がネズミ婆さんのネズミだと気づかれたらネズミ婆さんが狙われるかも……」

「ネズミネズミと言いすぎて訳が分からないんだが……」



ロウガを含めてレノ達は話し合いを行い、どのような方法で闘技場へ忍び込むのかを考える。ゴノ伯爵の不正の証拠を掴まない限り、レノは犯罪者として指名手配されたままであるため、失敗は許されない。


ゴノ伯爵の不正の証拠を掴める場所は屋敷だけに限られ、今回の作戦が失敗すればもう後はない。伯爵には蝙蝠の傭兵団と彼と繋がっている街中の傭兵がいる以上、戦力的に考えれば牙狼団を味方に付けてもレノ達に勝ち目はなかった。



(人の命を勝手に狙って都合が悪ければ犯罪者に仕立て上げるなんて許せない……絶対に)



レノはゴノ伯爵の不正を必ず世間に知らしめることを心に決め、作戦会議に集中した――





――同時刻、伯爵の屋敷では自分のカジノで騒動を引き起こした犯人が捕まらない事にゴノ伯爵は不満を露にして部下たちに怒鳴り散らす。



「おのれ!!まだ見つからんのか、儂のカジノを無茶苦茶にした小悪党は!!」

「も、申し訳ありません!!現在も捜索中ですが、今のところは進展はなく……」

「ええい、カトレアの奴め……最近は勝手に姿を消すわ、儂のカジノに侵入者を許すとは……あの女も口ほどでもないな」



苛立ちを隠しきれずにゴノは机の上に置かれている葉巻を取り出し、火を灯す。その様子を見て部下の兵士達はまだ説教が続くのかと内心ではうんざりするが、この時に扉がノックも無しに開かれて慌てた様子の使用人が駆け込む。



「だ、旦那様!!大変でございます!!」

「何だ!?騒々しいぞ、勝手に扉を開けおって……」

「申し訳ございません!!ですが、とんでもない御方が来られたのです!!すぐに伯爵を呼び出すようにと……!!」



ゴノ伯爵は使用人を叱りつけようとしたが、あまりの気迫にただ事ではないと知り、いったい誰が訪れたのかを尋ねる。



「だ、誰が来たのだ?昨日のカジノに来ていた貴族の客か?」

「いいえ、違います!!お、王国騎士様がお越しになられました!!」

「何だとぉおおっ!?」



使用人の言葉に衝撃を受けたゴノは大絶叫し、この状況下で王国騎士が自分の元に訪れたという話に動揺を隠せなかった。

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