第195話 王国騎士セツナの来訪

――使用人の言葉を聞いたゴノ伯爵は急いで来訪者を待たせている部屋へと向かい、扉の前で身なりを整えると動揺を悟られないように落ち着くために深呼吸を行う。意を決して彼は扉を開くと、そこには「白銀」の髪の毛と制服を着こんだ少女が存在した。



「こ、これはこれは……よくぞお越しくださいました。白銀の騎士、セツナ様」

「ああ、伯爵か。随分と遅かったじゃないか」

「も、申し訳ありません!!」

「セツナ様、からかうのはお辞め下さい。我々もここへ来たばかりではないですか」



セツナはゴノ伯爵を前にして不遜の態度を貫き、まるで自分が屋敷の主であるかのように振舞う。自分の年齢の半分も生きていない小娘に指図される事にゴノは内心では怒りを抱くが、相手は公爵家の令嬢にして国王からの信頼が厚い王国騎士である。


ゴノはセツナと向かい合うように座ると、彼女の傍に控えるリンがセツナの代わりに頭を下げ、本日訪れた用件を伝えた。



「唐突な来訪でゴノ伯爵にご迷惑を掛けた事を団長に代わり、お詫び申し上げます」

「い、いえいえ……まさか、セツナ様がここへ訪れるとは思いませんでしたが、本日はどのような用事で……」

「国王陛下の命を受け、闘技祭が開催される前に闘技場の視察を行うために訪れた」



机の上にセツナは羊皮紙を置くと、その羊皮紙の内容を確認してゴノは目を見開き、王家の紋章が刻まれていた。この紋章を刻む事が許されるのは王家の人間の物だけであり、国王が直筆した羊皮紙である事を示す。



「ま、まさかこれは……!?」

「陛下はこの街で行われている闘技場に強く興味を抱き、政務で忙しい陛下に代わって私が視察へ訪れた。この視察の結果によっては闘技祭の開催日、陛下が直々に参られる事になるかもしれない」

「へ、陛下がこの街に!?」



国王がゴノで行われる闘技祭の観戦のために訪れるという話にゴノ伯爵は驚愕を隠せず、震える手で羊皮紙を受け取る。その内容を確認して彼は内心では狂喜乱舞し、もしも国王が本当に訪れるのであればゴノ闘技場の知名度は一気に広まる。


ゴノ闘技場が闘技祭を開催してからは国王は一度たりとも訪れた事はなく、仮に国王がこの地に訪れるとなればそれは王家が注目するほどの催し物である事を意味する。もしも本当に国王が訪れた時には闘技場の名は国内どころか世界各国に知れ渡り、闘技場を築き上げた伯爵の評価は上がるのは間違いない。



(来た!!遂に来たぞ……ここまで王都の貴族に根回しした甲斐があった!!遂に陛下が我が闘技場に興味を抱かれた!!この調子で陛下が訪れれば、私の地位は安泰だ!!いや、それどころか爵位が上がるかもしれん!!)



羊皮紙で顔を隠しながらもゴノ伯爵は笑みを止めれず、セツナとリンがいなければ小躍りして喜びたい気分であった。だが、そんな彼にセツナは淡々と答えた。



「今回の視察の内容によっては陛下がこの街に訪れるかどうかが決まる。その意味を理解しているな?」

「は、はい!!勿論ですとも……!!」

「言っておくが、私に媚を売るような真似だけはするなよ。私は自分の目で見て判断し、この街に陛下が訪れても問題ないのかを確かめる義務がある」

「はいっ!!おっしゃる通りです!!」



セツナの言葉を聞いてゴノ伯爵は彼女の機嫌を損ねればこの街に国王が来ない可能性もある事を理解し、その場で頭を下げる。見栄や外聞など気にする暇はなく、ゴノ伯爵は何としても国王をこの街に招き入れるために必死に頭を巡らせる。



「今から三日間、私はこの街に滞在する。その間、闘技場以外にも街の治安の確認を行う。問題はないな?」

「も、勿論ですとも!!そうだ、セツナ様は本日は何処でお泊りになられますか!?もしも良かったら滞在期間中は我が屋敷でお過ごしになられるのはどうでしょうか!?」

「いや、私は宿に……」

「セツナ様、それが調べたところによるとこの街の宿の殆どは満員状態のようです。ここは伯爵の提案を受け入れるべきでは……」

「むっ……そうなのか?」



闘技祭が開催される時期のため、この時期のゴノの街には多数の観光客が立ち寄り、宿屋は殆どが満員状態だった。隈なく探せば空いている宿も見つかるかもしれないが、流石に王国騎士であるセツナが一般庶民が宿泊するような宿には泊まるのは世間体もあるのでまずい。


セツナはゴノ伯爵の言葉に甘え、滞在期間中は屋敷の客室を借りる事にした。リンは彼女と同じ部屋に宿泊し、同行していた騎士達はゴノ伯爵の私兵の宿舎を借りることになった。



「伯爵、しばらくは世話になるぞ」

「ええ、どうぞゆっくりとおくつろぎください!!」

「それと……一つ気になっていたが街の様子が騒がしいが、何かあったのか?」

「えっ……!?」



ゴノはセツナの思わぬ問いかけに呆気に取られるが、そんな彼に対してリンがこの街に訪れた時の状況を話す。

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