第192話 ゴノ伯爵の秘密
――ロウガと思わぬ再会を果たした後、レノ達は牙狼団が拠点としている建物へと案内され、そこで身体を洗って新しい服と食事を用意してくれる。そして改めてレノ達はロウガと対面し、何があったのかを話す。
「そういう事だったのか……なるほど、つまりお前達もゴノ伯爵に狙われたのか」
「はい……あの、今はカジノはどうなっていますか?」
「大変な事になっているそうだな、なんでも貴族を狙った犯罪者が現れて騒動を引き起こしたという噂が広がっている。既に手配書も配られているぞ」
「何ですって!?」
「……動きが早過ぎる」
机の上にロウガは手配書を置くと、そこにはレノ達の似顔絵が記されていた。内容を確認した限り、どうやら先に逃げ出したアルトの似顔絵は描かれていなかったが、レノに関しては変装を止めてしまったので素顔が記されていた。
「今、街中では警備兵が出回っている。街中の傭兵達にもこの犯罪者を捕まえた者には高額の賞金を与える事が約束された。お前達を見つけたのは俺でよかったな」
「……どうして貴方は私達を助けてくれるの?」
「恩人を売るような真似はしない、お前達のお陰で俺の弟分を殺した犯人を突き止めることが出来た。それだけでお前達を助けるには十分な理由だろう」
「義理堅いですわね……そういう人は嫌いじゃありませんわ」
ロウガの言葉にドリスは騎士道精神に通じるものがあり、素直に感謝する。一方でレノの方は自分の似顔絵が街中に配布された事を知り、これでゴノ伯爵の不正を明かす事が出来なければ自分は犯罪者として指名手配される。
「くそっ、ここまでするなんて……いや、当たり前か」
「カジノはゴノ伯爵にとっては闘技場に次ぐ大きな収入源だ。カジノで騒動を起こせばこうなる事はこうなる事は予測できただろう?」
「でも、納得できませんわ!!悪いのは伯爵の方なのに……」
「……まあ、私達も不正の証拠を掴むためとはいえ、少しやり過ぎた」
レノ達も多少は無茶なやり方で調査を行ったのも事実のため、指名手配された事に関しては仕方がない面もある。だが、これで後には引けず、ゴノ伯爵の不正を正さなければレノはこれからお尋ね者として生きていく羽目になりかねない。
現在の街は警備兵や傭兵が出回り、外に出歩くのは危険過ぎた。この建物の中は牙狼団がいるので安全ではあるが、ネズミ婆さんの隠れ家である廃墟街へ向かうのは難しく、アルトたちとの合流は先になりそうだった。
「あ、そういえば……ここにネカという商人は来ませんでした?腕利きの傭兵を探しているようだから、ここを紹介したんですけど」
「ネカ?ああ、あの男か。話は聞いている、俺達に護衛をしてほしいそうだな。報酬も条件も悪くはないし、中々気前のいい男だった」
ネカは既に牙狼団との交渉を終えたらしく、現在はロウガが信頼する部下に護衛を任せているという。ネカが無事であった事に安堵する一方、レノ達はこれからどうするのか悩む。
「ドリス、私が持ち帰った羊皮紙……不正の証拠になりそう」
「う~ん……ネココさんの持ち帰った資料はカジノの帳簿の様ですわ。確認した限り、ゴノ伯爵は明らかに横領していますわね。ですけど……」
「何か気になるの?」
「ゴノ伯爵はカジノと闘技場で得た資金を利用して他の貴族にも賄賂を贈っているはずですわ。だから、私が訴えても他の貴族がゴノ伯爵を庇う可能性があります。そうなると、やはりゴノ伯爵と他の貴族が繋がっている証拠、賄賂を渡した証拠や手紙があればよかったのですけれど……」
ネココが持ちかえった証拠だけではゴノ伯爵の悪行を全て証明する証拠とはなり得ず、このままドリスが王国騎士として彼の不正を訴えても他の貴族がゴノ伯爵と結託すれば訴えは取り下げられる可能性が高かった。
苦労してカジノに忍び込んだにも関わらず、証拠不十分という結果にレノ達はため息を吐くが、ここで話を聞いていたロウガが口を挟む。
「それならば奴の屋敷に忍び込めばいいんじゃないか?」
「奴の屋敷……まさか、ゴノ伯爵の屋敷の事を言ってますの!?」
「そんな無茶な……」
「だが、奴の屋敷ならば確実に証拠になる物があるだろう」
「……確かに」
ロウガの言葉にネココは頷き、確かにゴノ伯爵の屋敷ならば彼が不正を行っている事を証明する証拠はあるのは確実だった。だが、ゴノ伯爵もそれを想定して屋敷の警備を高めているはずであり、簡単に忍び込めるはずがない。
「伯爵の屋敷に忍び込むにしても、何か方法がありますの?」
「ある、奴の屋敷で働いていた使用人から聞き出した情報によると、奴の屋敷には抜け道が存在するらしい」
「抜け道……どうしてそんな物を?」
「奴は敵が多いからな……万が一の場合を想定し、自分だけでも逃げ延びれるように脱出路を用意しているようだ」
ゴノ伯爵は自分が命を狙われた場合を想定し、屋敷に抜け道を作り出していると使用人の間で噂になったらしい。その噂を何処でロウガは聞きつけたかというと、実はその使用人とは彼の妹らしい。
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