第305話 会議難航

「しかし、仮に魔物が攻め寄せてきた場合も考えて逃走経路を確保しておくことは悪い事ではないはずです。もしも魔物の軍勢が街中まで攻め寄せた場合、真っ先に戦う力のない一般人が犠牲になりますよ」

「それはそうかもしれんが……」

「街にまで魔物が入り込んだ場合に備え、街の住民を逃がす準備を行っておくのも悪くはないのでは?」



アルトの言葉に他の者達も考え込み、これまではシチノの防衛力ならば魔物の軍勢であろうと籠城戦で持ち堪える事が出来ると信じられていた。しかし、ゴブリンキングの登場と規格外の力を見せつけられては籠城戦も難しい。


ゴブリンキングは数百メートルも離れた場所から樹木を投げ飛ばす腕力を誇り、仮にゴブリンキングが自ら攻め寄せてきた場合は凌ぎきれるか分からない。それほどまでにゴブリンキングという存在は街の人間に警戒心を抱かせる。



「援軍の到着は早くても1週間、それに対して敵の軍勢が攻め寄せてきた場合、明日にでも城壁を突破されて魔物の軍勢が中に入り込む危険性もあります。それを考慮すれば街の住民だけでも外に逃げる準備をしておくのは悪い事ではないのではないでしょうか?」

「だが、この街を離れたとしてもその後はどうする?この付近に安全な場所など存在しない、そもそも周辺地域の村の人間もこの街に避難しておるのだぞ。街を離れても安全だと何故言い切れる?」

「それも一理あるな……」



仮に街から逃げ出したとしても魔物の軍勢が押し寄せない安全な場所など簡単には見つからず、そもそもシチノには周辺地域に暮らす村人も避難させている状態だった。


安全を求めて街に避難してきたにも関わらず、また別の場所へ移動させる事になると何のために村人は街へ避難したのか分からなくなってしまう。そもそも避難するにしても人間の数が多すぎるため、全員が逃げ延びる事は出来ない。



「逃げるにしても子供や老人の足では逃げ切れん、乗り物を用意するにしても限界がある。ここはやはり、籠城戦で援軍が到着するまで持ち堪えるしかないのではないか?」

「だが、そもそも援軍が到着するという保証はどこにある?未だに王都から連絡も届いていないではないか」

「来るかも分からない援軍に頼るよりも我々の手で何とか出来ないのか?」

「そんな方法があるのか?私には到底思いつかん……」



会議は難航し、戦うにしても逃げるにしても大きな被害は免れない。こうして話している間にもゴブリンキングが目を覚まし、魔物の軍勢が街に攻め寄せる可能性もある事を考えると落ち着いて話し合いなど出来ない状況だった。



(……このままだと会議が終わらなそう)

(仕方ないよ、皆もどうすればいいのか分からないんだ)

(だからといってこのまま時間を無駄に過ごせばいいわけじゃない)



ネココはレノに小声で話しかけ、こんな無意味な話し合いに参加する必要があるのかを問う。ネココの気持ちは分からないでもないが、だからといって会議の他にする事があるわけでもない。



「皆さん、まずは落ち着いて下さい!!」

「ドリス殿……」

「そうは言いますが、王国騎士殿は何か考えはないのですか?」



ドリスが全員を落ち着かせようと声をかけると、ここで彼女に視線が集中して良案がないのかを尋ねる。ドリスとしても色々と考えてはいるが、良案など簡単には思いつかず、黙り込んでしまう。


何も話さないドリスに他の者達もため息を吐き出し、王国騎士のドリスならば何か良い案があるのではないかと期待していただけに落胆は大きい。だが、ここでアルトが提案を行う。



「一つだけ策があります……成功すればゴブリンキングを倒せるかもしれません」

「何!?」

「それは本当か!?」

「あの怪物を倒す方法を知っているのか!?」



アルトの言葉に他の者達は過敏に反応し、驚異的な力を誇るゴブリンキングを倒す方法を思いついたというアルトに全員が視線を向けた。彼は腕を組み、難しい表情を浮かべながらその内容を告げる。



「僕達が見た限り、あの魔物の軍勢を統率しているのはゴブリンキングで間違いありません。だからこそ魔物達を統率する存在がいなくなった場合、つまりはゴブリンキングさえいなくなれば魔物達は解散する可能性が高いでしょう」

「解散?それはどういう意味ですの?」

「言葉通りの意味だよ。あのゴブリンキングは圧倒的な力で部下を支配していた。さっきの出来事を見れば分かるだろう?」



レノ達はアルトの言葉にゴブリンキングが街に攻め寄せようとしたスカーを折檻した事を思い出し、あの時は圧倒的な力でゴブリンキングはスカーを痛めつけた事を思い出す。


あの光景を見てアルトはゴブリンキングがどのような手段で魔物達を率いているのかを見抜き、ゴブリンキングは自らの力のみで無理やりに魔物を従えさせている事を見抜く。自分に歯向かう存在は容赦せず、自分の命令に従わない者は腕力で黙らせる。そんな風に彼は見えた。

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