第304話 ゴブリンキング討伐会議

――ゴブリンキングが眠り始めた後、一旦レノ達は城壁内部に存在する兵士の休憩所に集まり、この街の冒険者ギルドの代表であるギルドマスターと、街に滞在している傭兵団の団長達を呼び集める。


彼等を集めた理由は当然だがゴブリンキングの対策会議であり、今のところはゴブリンキングは眠ったまま目を覚ます様子がない。既に時刻は夜を迎えているが、魔物達に大きな動きはなかった。



「では、改めて皆様に紹介しましょう。この御方が王国騎士のドリス様です」

「……どうも、初めまして」

「おおっ……あんたが噂の「爆炎の騎士」か」

「あの土鯨を倒したという噂の……」

「まさか王国騎士がこの街にいたとは……心強いな」



領主であるタスク侯爵がドリスの紹介を行うと、暗い顔を浮かべていた冒険者ギルドのギルドマスターや傭兵団の団長達は驚いた表情を浮かべる。


王国騎士は国内でも有名な存在であり、特にドリスは最近では噂の話題になっている人物である。彼女は長年の間、ムツノの民を苦しめていた土鯨の討伐に貢献した存在だと人々の話題になっていた。最も本人はこの噂に関しては良い気分ではいられなかった。



「一つだけ訂正しておきますわ。私だけが土鯨を討伐したわけではありません、仲間や魔狩りの方々と共に力を合わせたからこそ土鯨を倒したのです。そこは勘違いしないでほしいですわ」

「ほう、なんと謙虚な……」

「そんなに謙遜なされずとも……」



ドリスとしてはまるで自分が土鯨を討伐したかのような噂に関しては認めるわけにはいかず、実際に土鯨の討伐を果たせたのはドリスの力だけでは不可能だった。土鯨を倒せたのはレノ達や魔狩りの船乗りたちと力を合わせた結果であり、決してドリスだけでは土鯨の討伐は果たせなかった。


しかし、会議に居合わせた者達はドリスが自分の武功を謙遜していると勝手に判断し、冷静に考えれば王国騎士である彼女以外の存在が土鯨を討伐したとは考えにくい。それに経緯はどうであれドリスが土鯨の討伐の際に功績を上げた事は事実である。



「王国騎士殿が偶然にもこの街に居合わせたのは運が良かった。だが、ドリス殿は騎士団を率いておられないのか?」

「申し訳ありませんが、私はまだ騎士団を結成してはいませんわ。今回の旅も人材を探すための旅でしたし……」

「そうか……いや、王国騎士殿がここにいるだけでも有難い」



基本的に王国騎士の称号を与えられた人間は騎士団を結成する事は認められているが、王国騎士の中で特に目立った功績がなかったドリスは長い間自分だけの騎士団を作り上げる事はなかった。


現在は黒狼の盗賊団を捕縛(実際に討伐したのはレノ達だが)の功績で騎士団を結成する事は許可されたが、生憎とドリスはまだ騎士団の人材を集めていない。本人としてはレノ達に騎士団に入れたい所だが、現時点ではドリスに従う人間はいない。



「王都からの援軍の到着はどれくらいかかるのですか?」

「早くても1週間……遅い場合でも10日程で辿り着くでしょう。しかし、それまでに持ち堪えることが出来るか……」

「くそっ……あんな化物さえ現れなければ!!」



魔物の軍勢だけならばシチノの城壁ならば持ち堪えられると考えられたが、遂に現れたゴブリンキングの驚異的な力を見せつけられ、明日まで凌げるかも分からなかった。



「あの化物の強さは異常だ……その気になれば奴だけでも城壁を破壊し、街中に侵入する事も出来るだろう」

「奴をどうにかしなければこの街は終わりか……くそ、いい方法はないのか!?」

「ドリス殿、何か良い案はありませぬか?」

「そ、そういわれましても……」



ゴブリンキングの強さを見せつけられた者達は縋るような思いでドリスに視線を向けるが、いくら王国騎士と言ってもドリスではそんなに簡単に名案は思い付かない。だが、ここでアルトが口を挟む。



「少しいいですか?」

「おお、アルト殿。何か良いお考えが浮かびましたか?」

「いや……その前に現在の状況を詳しく把握する必要があると思います。よろしければ僕が纏めましょうか?現在、この街には魔物の軍勢が攻め寄せています。今のところは街の南側に魔物達は集まっているので包囲されているわけではない、つまり逃げる事も出来なくはない」

「逃げるなど有り得ん!!この街にどれだけの住民がいると思っている?」

「まあまあ、落ち着いて下され。あくまでも現状把握ですぞ」



冒険者ギルドのギルドマスターはアルトの言葉を聞いて憤慨し、この街を見捨てて逃げるなど有り得ないと断じる。他の者が宥めるが、この街で暮らしてきた者からすれば街を捨てて逃げる事はあり得ない選択肢だった。


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