第306話 ゴブリンキングを倒せば……

「ゴブリンキングはゴブリンを従えさせる能力があると聞くが、あの魔物の軍勢の中にはファングやボア、それに赤毛熊も見かけた。彼等の場合はどうしてゴブリンでもないのにゴブリンキングに従っているのか……それは力に恐れているからに過ぎない」

「力……?」

「ゴブリンキングはあの圧倒的な戦闘力を生かし、無理やりにゴブリン以外の魔物も従うように躾けたんだ。だからこそ知性が低い魔獣種はゴブリンキングの存在に恐れて仕方なく従っているだけだ。そこが狙い所だと僕は思うよ」

「どういう意味ですの?」

「つまり、ゴブリン以外の魔獣がゴブリンキングに従っているのは単純にゴブリンキングの存在を恐れているだけに過ぎない。つまりそこには忠誠心なんてない、力で無理やり従えさせているだけに過ぎない……なら、もしもゴブリンキングがいなくなればどうなると思う?」



アルトの言葉に全員が考え込み、ここでレノが真っ先に気付く。ゴブリンキングの圧倒的な力によって支配されていた魔獣達はゴブリンキングが死ねばもう恐れる必要はなくなり、他のゴブリンに従う必要はない。



「ゴブリンキングが死ねば魔獣達はもう怖がる必要はない……つまり、もう命令を利く必要がなくなる」

「その通りだ。魔獣が恐れているのはあくまでもゴブリンキングだ、ならゴブリンキングがいなくなれば他のゴブリンに従順に従う必要などなくなる。つまり、ゴブリンキングさえ倒せば今まで黙って従っていた魔獣たちもゴブリンに襲い掛かる可能性が高い」

『おおっ!!』



確信を抱いたようなアルトの口ぶりに会議に参加していた者達は希望を見出すが、ここで慌ててドリスが口を挟む。アルトの推論が合っていたとしても、それを確かめるためにはゴブリンキングを倒さなければならない。



「お待ちください!!その推論はゴブリンキングを倒す事が前提ですわ!!でも、あの怪物を倒す方法があるのですか?」

「勿論、それも考えているさ。そうでもなければこんな話はしないからね」

「では、アルト殿はゴブリンキングを倒す方法が思いついたのですか!?まさか、ゴブリンキングの弱点を知っているとか!?」

「いや、ゴブリンキングの情報は伝承ぐらいしか残っていないので流石の僕も弱点までは知りません。ですけど、魔物の軍勢を相手に戦うよりも、ゴブリンキングを倒すだけなら方法はいくつかあります」

「……アルト、何か思いついた?」



アルトの言葉にネココは彼がゴブリンキングを倒す方法を考えたのかを問うと、彼は真剣な表情を浮かべ、両手を伸ばすとレノとドリスの肩を掴む。



「ゴブリンキングを倒す方法、それは君達の魔法剣に掛かっているんだ」

「「……えっ?」」



レノとドリスはアルトの言葉に戸惑い、そんな二人にアルトは自分が考えた作戦を伝えた――






――作戦会議を終えた後、即座にタスク侯爵はゴブリンキングの討伐のために街中の兵士や冒険者の中から選りすぐりの精鋭を呼び集める。高階級の冒険者、腕利きの傭兵を片っ端から集めると、彼はアルトの考えた作戦を実行に移すためにゴブリンキングの討伐隊を編成する事を告げた。



「この街を守るため、諸君等にも協力してもらいたい!!今から討伐隊を編成し、この街を攻めて滅ぼそうとするあの怪物を倒すのだ!!」

「と、討伐隊!?」

「俺達にあのゴブリンキングを倒せというのか!?」

「いくらなんでもそれは……」



ゴブリンキングの討伐と聞いて集められた人員は不安な表情を浮かべ、先ほどに嫌という程ゴブリンキングの力を見せつけられたばかりである。しかもゴブリンキングの傍には魔物の軍勢も待ち構えており、普通に考えれば討伐隊を組んだ所で勝ち目などない。


しかし、アルトの作戦を実行するにはゴブリンキングが眠りこけている今こそが最大の好機であり、眠っている間にゴブリンキングを仕留める事が出来れば魔物の軍勢は解散する。そうなればもう恐れる存在はいない。



「君達の不安はよく分かる、だがゴブリンキングを倒さない限りはこの街に平和は訪れない!!安心しろ、君達の役目はゴブリンキングの傍までこの二人を連れて行くだけでいいんだ!!」

「だ、誰だよそいつら……」

「あれ、もしかして……城壁で矢を撃った男の子じゃない?」



アルトはレナとドリスを指差すと、集められた者達は二人に視線を向ける。そんな彼等に対してドリスは緊張しながらもそれを表面には出さず、堂々と言い放つ。

「私の名はドリス、王国騎士のドリスですわ!!」

「お、王国騎士だって!?」

「ドリス……聞いた事があるぞ、あの砂漠の街を救ったという騎士か!?」



ドリスの名前はどうやら広く知れ渡っていたらしく、彼女が王国騎士である事を名乗ると集められた人間達は期待に満ちた表情を浮かべる。そんな彼等を見てドリスは不安を抱きながらもアルトの指示通りに堂々とした態度で言い放つ。

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