第300話 ゴブリンの軍勢
「――これはいったいどういう事ですの!?」
「落ち着くんだドリス君……騒いだところで状況は変わらないよ」
ゴブリンの軍勢が攻め寄せようとしている報告を受けたドリスはタスク侯爵の屋敷で大きな声を上げ、それに対してアルトが落ち着かせる。家主であるタスクも報告を受けて難しい表情を浮かべ、これからどのように対処するべきかを考えた。
「現在、城壁の南側には多数のゴブリンが集まっており、その中には上位種のホブゴブリンも含まれています。他にもファング、ボア、赤毛熊と思われる魔獣種も……」
「何てことですの……まさか、ゴブリンが他の魔物を従えて街を攻め入ろうなんて……」
「魔物が大きな街に攻め入る事なんて滅多にない。ましてやシチノの歴史上でも初めての出来事じゃないのか?」
「ええ、その通りでございます……このシチノが誕生して以来、魔物が攻め寄せてきたなど一度もありませぬ」
タスクの記憶の限りではシチノの歴史において魔物が大群を率いて街に攻め寄せた事などなく、そもそも魔物は人間の街に近付く事すらない。特にシチノのように他の街と比べても城壁が高く、大勢の人間が暮らす場所に攻め入るなど初めての経験だった。
どうしてゴブリン達が急に街に攻め寄せようとしているのかは不明だが、問題なのはどのように対処するかであった。幸いにも南側に現れたゴブリン達は一定の距離を保ったまま動きはなく、他の城壁に向かう様子もない。
「ゴブリン共の狙いは分かりませんが、現在は南側の城壁の前に留まり、動きはありません。兵士は南門を中心に集まり、冒険者や傭兵も呼び集めている状況です」
「ふむ……ゴブリンだけならばともかく、ホブゴブリンや赤毛熊、それにボアまでも加わっているとなると外に出向いて戦うのは危険過ぎるか」
籠城戦ではなく、街の外に出向いて戦うという手段は得策ではない。理由としてはシチノは他の街よりも防衛力が高く、籠城戦の方が危険が少なく戦える。また、敵の中に含まれているファングやボアなどの魔物は街の城壁を登る術を持たない。
地上で挑むよりは相手が攻めてきたところ迎撃するほうが危険は少なく、確実に敵の戦力を削ぐことが出来る。街の戦力と敵の戦力を考えてもまだドリスやレノ達が存在するシチノの戦力が上回るほどである。
「ここは定石通り、籠城戦で凌ぐしかあるまい。王都からの援軍が到着するまでは耐え凌ぎましょう」
「ですが、兵糧は大丈夫ですの?この周辺地域の村から押し寄せた人間も加わり、街に存在する人間の数も増えたと聞いておりますが……」
「その点は大丈夫です、兵糧の方は一か月分はあります。援軍が到着するまでは十分に持つでしょう」
「ならいいんですけど……」
シチノは緊急時に備えて常に大量の兵糧を確保しており、街中に存在する人間全員が一か月は食べられる程の食料は確保していた。王都から援軍が派遣されれば形成は逆転し、援軍と街の戦力を加えれば十分に勝ち目はあった。
「このシチノは今までに敵に落とされた事はありません。しかも相手は敵国の軍隊ではなく、ただの魔物の群れです。恐れる事など何一つありません」
「そう、ですわね……」
「…………」
タスクはこの街が魔物如きに落とされることはないと自信を持っていたが、どうにもドリス達は不安を覆い隠せず、とりあえずは南側の様子を調べるために出向く事にした――
――その頃、南側の方では大勢の人間が集まっており、その中にはレノ達の姿も含まれた。街の外には大量のゴブリンの軍勢が他の魔獣を引き連れた状態で待ち構えており、緊迫の雰囲気が漂っていた。
「凄いな……これだけの数の魔物が集まっている所なんて初めて見た」
「……でも、このゴブリン達を従えているゴブリンキングの姿は見えない。まだどこかに隠れているのかもしれない」
「グルルルッ……!!」
「ぷるるるっ(←威嚇)」
城壁の上にてレノ達もゴブリンの軍勢の様子を観察し、今のところは襲い掛かってくる様子はない。ゴブリン達の中にはファングやボアに乗り込んだゴブリンも存在し、その中でひときわ異彩を放っていたのは赤毛熊に乗り込んだ隻眼のゴブリンだった。
隻眼のゴブリンは一番先頭に立っており、他のホブゴブリンと比べても威圧感を纏わせていた。この隻眼のホブゴブリンを確認した冒険者達は呆然と呟く。
「お、おい……あいつ、もしかして「スカー」じゃないのか?」
「スカーだと……まさか、あの高額討伐対象の魔物か!?」
「スカー?」
冒険者達の言葉にレノは気になって振り返ると、彼等は先ほどの戦闘でレノの活躍を見せつけられており、敬語で説明を行う。
「あの隻眼のホブゴブリン……実は冒険者ギルドでも有名な存在なんです」
「有名?」
「実はあいつ、この辺りに出没する魔物の中でも一番に冒険者に被害を与えているんです。そのせいで冒険者ギルド側から高額の討伐対象として指定されてるんですよ」
冒険者達の話によるとスカーは相当に有名な魔物らしく、その強さは並のホブゴブリンの比ではないという。
※申し訳ありませんが、今後は1日2話になります。物語が終わるまでもう少しです……(´;ω;`)
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