第299話 シチノに迫る脅威

「だああっ!!」

『うわぁっ!?』



レノが気合の雄叫びを上げながら剣を振り下ろすと、上空に発生していた大量の水を含んだ竜巻が拡散し、大量の水が大雨のように降り注ぐ。その結果、周囲が水浸しとなって火事になっていた建物が沈下する。


魔法で作り上げられた水は普通の水ではなく、時間が経過すれば自然と消えてしまう。だが、普通の水よりも冷気を帯びている影響か、自然の炎に対して通常の水よりも消火する力が強い。



「ふうっ、これで火事はどうにかなった」

「……そのせいでこっちは水浸しになった」

「「ブルルルッ!!」」



魔法剣のお陰で火災がこれ以上に広がるのは防げたが、お陰で地上の人間達は水に濡れてしまい、ウルとスラミンは身体にこびり付いた水分を弾くために身体を震わせる。



「あ、ごめん……でも、魔法の水だから時間が経過すればすぐに消えるから」

「……普通の水よりも冷たいから風邪を引いたらどうするの?」

「それは本当にごめん……その代わりに後の事は任せてよ」

「「グギィイイッ……!!」」



レノの行為によって水浸しになったネココは抗議するが、彼女と会話の間にもレノは残されたホブゴブリンの2頭に視線を向けた。


どちらも仲間がやられたにも関わらずに逃げる様子はなく、炎が消えて只の棍棒と化してしまった松明を握りしめながらもレノを睨みつけた。その様子を見てレノは手にしていた蒼月を構えると、ホブゴブリンに目掛けて走り出す。



「来いっ!!」

「なっ!?正面か挑むつもりか!?」

「止めろ、殺されるぞ!?」



何の策も無しにホブゴブリンに向けて駆け出したレアの姿を見て冒険者達は止めようとした。通常種のゴブリンならばともかく、上位種のホブゴブリンは侮れぬ相手であり、高い階級の冒険者でも苦戦する相手である。そんな相手に正面から突っ込んだレノを見て冒険者達は咄嗟に止めようとした。


しかし、移動の際中にレノは刀身に風の魔力を送り込み、剣の先端に魔力を集中させると、久方ぶりに樵の仕事で覚えた剣技を放つ。



「嵐舞!!」

「グギャアッ!?」

「グギィッ!?」



最初に横向きに刀を振り抜き、刀身の先端から風の魔力を放出させる事で加速した刃をホブゴブリンの首に放つ。加速した刃は瞬時に首を切り裂き、更に勢いはそれに留まらずに加速した状態でレノは身体を一回転させ、もう一体のホブゴブリンの首を切り裂く。



「円舞!!」

「グゲェエッ!?」

『おおっ!!』



瞬く間に2体のホブゴブリンの首を切り裂いたレノを見て冒険者達は歓喜の声を上げ、その様子を見て自慢げにネココ達は鼻を鳴らす。見事に2体のホブゴブリンを倒したレノは蒼月を収める。



「ふうっ……これで全部倒したのかな?」

「お疲れ、レノ……私も疲れた」

「き、君達……本当に助かったよ!!」



レノ達の元に大勢の人々が駆けつけ、二人のお陰で街に入り込んだゴブリンとホブゴブリンは討伐され、火災を防ぐ事が出来た。これで一件落着かと思われた時、再び南側の方で鐘が鳴り響く。


何事かと全員が視線を向けると、城壁の方から狼煙が上がっており、この狼煙の合図は敵が攻め込んできたときに上げる合図である。街中にに侵入してきたゴブリン達は討伐する事に成功したが、南側の城門では更に急変が起きていた――






――同時刻、南門では街中の兵士達が集まっており、城門を閉じると城壁の上に兵士が駆けつけ、外の光景を見て顔色を青ざめていた。街の南側には大量のゴブリンとホブゴブリンが押し寄せる姿があり、その中にはボアやファングなどの魔物も混じっていた。




グギィイイイイッ――!!




ゴブリンの大群はシチノへ向けてゆっくりと迫り、その総勢は一千を軽く超えていた。しかも中にはファングやボアを乗りこなすゴブリンも存在し、極めつけには赤毛熊に乗り込む「隻眼」のホブゴブリンの姿も見えた。



「な、何だこいつらは……」

「何がどうなってるんだ……」

「呆けている場合か!!すぐに領主様に伝えろ、街の人間も避難を促せ!!」



兵士の隊長は呆然とする味方に怒鳴りつけると、改めて地上の様子を伺う。先ほどの襲撃の後に城門を閉じて防備を固めようとした途端、急に現れたゴブリンの大群を見て兵士達は冷や汗が止まらない。


もう間もなく、ゴブリンの大群がこの街に攻め寄せてくるのは間違いなかった。これまでにも街の近くでゴブリンが現れる事はあったが、本格的に街に攻め寄せようとする魔物の大群などシチノの長い歴史上でも初めての事だった。



「すぐに街中の冒険者と傭兵にも連絡しろ!!このままだと魔物共にこの街が落とされるぞ!!」

「は、はい!!」



隊長の言葉に呆然としていた兵士達も動き出し、もう間もなくシチノの命運を賭けた戦いが行われようとしていた――

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