第298話 ネココの蛇剣

「グギギッ!!」

「ひいっ!?いや、近づかないで……」

「お、お母さん……!!」

「や、止めろ!!誰か止めろっ!!」



兵士と冒険者から逃げている最中、1体のゴブリンが小さな子供を抱えている女性に向けて近づき、母親は自分の子を守るために子供を抱きしめて身体を伏せる。そんな親子に対してゴブリンは松明を振りかざそうとした。



「ギギィッ!!」

「いやぁああああっ!!」

「お母さぁんっ!!」



親子の悲鳴が響く中、ゴブリンは松明を振り下ろしかけた瞬間、何者かが凄まじい速度でゴブリンの背後に接近し、後頭部に向けて刃物を突き刺す。その結果、頭を刃に突き刺されたゴブリンは何が起きたのか分からない表情を浮かべ、絶命した。



「ギィアッ……!?」

「……遅い、前に出会った赤色のゴブリンの方が早かった」

「えっ……?」



ゴブリンの背後から聞こえてきた少女の声に親子は驚いて顔を向けると、そこには蛇剣を手にしたネココの姿が存在し、彼女はゴブリンから刃を引き抜くと頭を突き刺されたゴブリンは苦悶の表情を浮かべて倒れ込む。


この街の兵士や冒険者が追いつく事が出来なかったゴブリンをネココは容易く追い越し、親子が襲われる前に仕留める。その彼女の姿に周囲の者達は驚くが、ネココは別のゴブリンに向けて剣を伸ばす。



「ていっ」

「ギャアッ!?」

「け、剣が伸びた!?」

「あれは……まさか、魔剣か!?初めて見たぞ!!」



ネココが剣を突き刺すと、刃が伸びてまるで蛇のようにうねりながらもゴブリンの背中を突き刺し、心臓を正確に貫く。その様子を見た兵士と冒険者は驚きの声を上げ、蛇剣を鞭の様に扱うネココに彼等は動揺した。



「……大分、この剣も慣れてきた」



蛇剣の刃を元に戻したネココは笑みを浮かべ、最初は扱うのに苦労したが、ムツノの街に滞在していた時に練習を繰り返す事で遂にネココは蛇剣を完璧に扱えるようになった。刀身をしならせ、まるで鞭の様に操りながら次々とゴブリンの急所を突き刺す。



「そこの人、頭を下げて」

「えっ……うわぁっ!?」

「アガァッ!?」



ゴブリンに背中を襲われそうになっていた人を発見したネココは刃を繰り出すと、男性は彼女の声を聞いて慌てて頭を下げると、背後から襲い掛かろうとしたゴブリンの口に刃が貫き、頭を貫通した。


男性は自分の背後に立っていたゴブリンが串刺しにされた光景を見て悲鳴を上げ、その間にネココは刃を元に戻すと兵士と冒険者から逃げるゴブリン達に視線を向ける。先ほど言っていた様にこちらのゴブリン達は以前に森の中で遭遇した「ゴブリン亜種」と比べれば足も遅く、強くはない。



「……遅すぎる、そんな足で逃げられると思った?」

「ギィアッ!?」

「ギギィッ!?」



音も立てずにネココは駆け出すと、目にも止まらぬ速度で逃げ惑うゴブリン達を先回りすると、蛇剣を振り抜いて確実に急所を切り裂く。


暗殺者であるネココは移動速度と気配を絶つ能力は一級品であり、しかも猫型の獣人である事から人間とは比べ物にならない速さを誇る。次々とゴブリン達は切り裂かれる中、ここでホブゴブリンもやっと動き出す。



「グギィイイッ!!」

「ま、まずい!!おい、逃げろ猫の嬢ちゃん!!」

「くそっ、そっちに行ったぞ!!」



ホブゴブリンの1体が兵士と冒険者を振り払い、巨大な松明を掲げた状態でネココの元へ向かう。ネココはその様子を見て蛇剣を構えるが、ここでホブゴブリンの背後から大きな影が出現し、ホブゴブリンの頭に鋭い牙が噛みつく。



「ガアアッ!!」

「ギャアアアッ!?」

「あ、ウル」

「な、何だこの馬鹿でかい犬はっ!?」

「まさか……白狼種か!?」



遅れてやってきたウルはホブゴブリンの頭に喰らいつき、ホブゴブリンの頭を噛みついた状態で振り回す。ホブゴブリンは必死に引き剥がそうとするが、やがて首の骨が折れる音が鳴り響き、動かなくなった。



「ウルが来たと言う事は……」

「ぷるるんっ!!」

「あ、やっぱりいた」



ウルの後からスラミンも現れ、飼い主であるネココの元に賭け寄る。ネココはスラミンの頭を撫でると、ここで仲間を殺された2体のホブゴブリンが動き出す。



「グギギッ……!!」

「グギィイイッ!!」

「ウォオオンッ!!」



2体のホブゴブリンとウルが向かい合う形となり、互いに牙を剥き出しにした状態で睨み合う。その迫力に兵士も冒険者も一般人も近づけず、ネココもウルに加勢しようとした時、ここで上空に異変が発生した。


先ほどまでは晴れていたにも関わらず、突如として上空に竜巻が発生したかと思うと、竜巻の中に紛れていた大量の水分が降り注ぐ。驚いて全員が振り返ると、そこには風属性と水属性の魔石を使用して「暴風雨」を発生させてレノの姿が存在し、燃えていく建物に目掛けてレノは剣を振り払う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る