第297話 シチノの危機

「おい、待て……あの馬車、おかしいぞ!!」

「な、何を言ってるんだ!?」

「馬車の御者を良く見てみろ!!何で全身を覆い隠しているんだ!?」



異変を感じ取った兵士の言葉に他の者も確認すると、確かに兵士の言う通りに馬を操る御者は全員がフードで全身を覆い隠しており、不自然なまでに正体を隠していた。その姿を見て兵士の隊長は疑問を抱き、城門を閉じるように促す。



「城門を閉じろ!!今すぐにだ!!」

「えっ!?し、しかし……」

「いいから早くしろ!!あの馬車を街の中に通すな!!」



隊長の言葉に兵士達は戸惑いながらも城門を閉じようとした時、異変を察知したのか馬車は加速すると御者はフードを脱ぎ去り、正体を晒す。




――グギィイイイッ!!




馬車を動かす御者の正体はホブゴブリンである事が発覚し、その光景を確認した兵士は目を見開く。加速した馬車は城門が閉じられる前に街中へ入り込むために突っ込む。



「グギィッ!!」

「グギギッ!!」

「グギャアッ!!」

「い、いかん!!奴等を通すな!!」



相手が人間だと思い込んでいたために馬車が接近するまでに迎撃態勢を整えきれず、隊長は馬車に攻撃をするように促すが、城壁の弓兵も地上の兵士も反応が間に合わなかった。


ホブゴブリンが操る馬車は地上の兵士達を蹴散らし、城門が完全に閉じられる前に中へと入り込む。馬車を追尾していたゴブリン達は城壁前の兵士達に襲い掛かり、混乱を招く。



「ギギィッ!!」

「ぐああっ!?」

「ギィアッ!!」

「ぎゃああっ!?」

「こ、こいつら……強いぞ!?」



馬車を追尾していたゴブリン達も通常種でありながらすばしっこく、これまでに兵士が対処していたゴブリン達よりも動きが早かった。馬車を襲うふりを行わせ、まんまとホブゴブリンが乗りあわすぇた馬車を街中に通した事に隊長は慌てて城壁の兵士に指示を出す。



「警音を鳴らせ!!街の中に魔物共が入ってきた事を知らせるんだ!!すぐにあの馬車を追えっ!!」

「は、はい!!」



兵士は即座に城壁の上に設置された鐘を鳴らし、街中に危険を伝える。しかし、その間にも馬車に乗り込んだホブゴブリンは街の奥へと移動し、この際に馬車に乗り合わせていたゴブリンを解放した。



「グギィッ!!」

『ギィイイイッ!!』



街中に複数のゴブリンが解放され、安全だと思われた街中にまで遂にゴブリンが襲い掛かってきた。街の住民は悲鳴を上げ、ゴブリン達は蹂躙を開始した。



「ぎゃああっ!?」

「ひいいっ!?な、何でゴブリンが街の中に……うぎゃあっ!?」

「逃げろ、逃げるんだ!!」

『ギィアアアッ!!』



馬車から解放されたゴブリン達は興奮した様子で次々と一般人へと襲い掛かり、その様子を見て3台の馬車に乗り込んだホブゴブリンは笑みを浮かべる。


やがて馬車に乗り込んでいたホブゴブリン達は松明を取り出し、それに火を灯すと馬車を燃やす。更には馬の尻に火を灯すと、暴走した馬は燃える馬車を引き連れて駆け出す。



「ヒヒィンッ!?」

「グギギッ!!」



ホブゴブリン達は馬車から抜け出すと、火に襲われた馬たちは近くの建物に突っ込み、燃えた馬車が衝突した事で建物が引火する。これによって街中は大混乱に陥り、その様子を見ていたホブゴブリンは勝ち誇るように鳴き声を上げる。




――グギャギャギャッ!!




松明を掲げたホブゴブリンやゴブリン達は街のあちこちに火を灯し、次々と建物に煙が上がる。人々はゴブリンに逃げ惑い、戦える者は立ち向かおうとしたが、ゴブリン達は松明を掲げて建物を放火しながら逃げ惑う。



「く、くそっ!!何なんだこいつ等!?」

「ま、街が……燃えていく、もうこのままだと……」

「畜生!!なんでだよ、街の中は安全じゃなかったのか!?」



ゴブリンとホブゴブリンによって次々と建物が放火され、その様子を見た人々は悲鳴を上げる事しか出来なかった。このままでは街が炎に飲み込まれると思われた時、ここでやっと騒動を聞きつけた冒険者や街中を巡回していた警備兵が駆けつける。



「おのれ、魔物共!!」

「我々が成敗してくれる!!」

「一匹たりとも逃がすな!!」



兵士と冒険者は街中で暴れるゴブリンとホブゴブリンを確認すると、武器を手にして戦いを挑む。そんな彼等に対してゴブリン達は逃げる事に集中し、まるで獣のように四足歩行で逃げ惑う。



「な、何だこいつらは!?」

「は、早い……普通のゴブリンじゃないのか!?」

「くそっ、逃げるな!!」

『ギィイイイッ!!』



まるで四足歩行の魔獣を想像させる勢いでゴブリン達は逃げ惑い、その移動速度には普通の兵士や冒険者では到底追いつけなかった。ゴブリン達は自分達に追いつけない人間達を見て笑みを浮かべる。


魔物の中では非力な存在だと認識されているゴブリンだが、環境によってはその能力は大きく変化する。例えば山の中に暮らし始めたゴブリンは足腰が強く育ち、平地で育ったゴブリンよりも早く動く事が出来る。この場に襲撃を仕掛けてきたゴブリンは特に足が速く、すばしっこい個体が集められていた。

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