第69話 食肉植物
「これは……間違いない、植物型の魔物だ!!」
「魔物!?じゃあ、この根っこは……」
「気を付けて、一気に来る!!」
アルトの言葉を聞いてレノは剣を抜くと、天井から生える全ての根っこが動き出し、絡みついていた魔獣の死骸を全て地面に放り込み、レノ達の元へ根っこが向かう。とてもではないが先ほどのようにネココだけでは手が終えず、レノは剣を放つ。
「地裂!!」
「うわっ!?」
レノが下から繰り出した風の斬撃によって接近してきた根っこの大半は切り裂く事に成功したが、すぐに他の根っこが押し寄せてくる。しかも切られた根っこから樹液が飛び出し、あちこちに放つ。
「……この臭い、まずい気がする。あの赤色の液体に触れない方がいい」
「同感だ!!植物型の魔物の殆どは毒を持っている!!すぐに離れた方がいい!!」
「くっ……どんどん押し寄せてくる!!」
迫りくる大量の植物の根にレノ達は逃げ出すしかなく、来た道を戻って洞穴の外へと逃げ出そうとした。だが、途中で岩壁から新たな根っこが出現し、外への出入口を塞ぐ。
「しまった!?出入口が塞がれた!!」
「くっ……下手に斬ると樹液が飛び出す」
「だったら……樹液ごと吹き飛ばす!!」
植物の根っこに塞がれた出入口を前にしてレノは剣を構えると、自分の魔力と風の魔石の魔力を利用して刀身に魔力を練り込み、やがて竜巻のように渦巻かせると、出入口に向けて突き出す。
出入り口を塞いでいた大量の根っこが竜巻の力によって吹き飛ばされ、粉々に砕け散る。外への出入口が開いたレノ達は下を覗き込み、川へ飛び込む以外に方法はなかった。
「二人とも、飛ぶよ!!」
「くっ……それしか方法はないのか」
「…………」
アルトはレノの言葉に頷き、飛び込もうとしたがここでネココは顔色を青くさせ、レノの袖を掴む。彼女の様子を見てレノは不思議に思うと、ネココは告げる。
「私、泳げない……」
「えっ!?」
「昔、足を攣って溺れた事があって……それ以来、足が届かない深さの川は泳げない」
「嘘だろうっ!?もう後ろまで迫ってきているんだぞ!?」
植物の蔓は既にレノ達を追い詰め、もう川の中へ飛び込むしか方法はなかった。だが、ネココは顔色を青くして首を振り、どうしても飛び込む事が出来ない様子だった。
(どうする!?この様子だと、川へ落ちたら溺れるかもしれないて……それにこの川、流れが強い。仮に泳げたとしても死ぬかもしれない)
渓谷に流れる川の勢いを見てレノは考え込み、ここで対岸の様子を伺う。向こう岸まで10メートルは離れており、しかもレノ達の立っている洞穴からの位置だと上の方に飛び込まなければならない。普通に考えればこんな場所から反対側まで飛び込むのは不可能だが、レノは覚悟を決めてアルトとネココの身体を担ぎ上げる。
「行くよ、二人とも!!」
「えっ!?な、何をっ!?」
「レノ……!?」
「うおおおおっ!!」
背後にまで植物の根が迫り、追い詰められたレノは気合の雄たけびを上げて駆け込むと、外へ飛び込む。人間二人を両肩に抱えた状態でレノは向こう岸まで飛び移ろうとした。
当然だがレノの脚力だけではそんな事は到底不可能であり、徐々に空中に浮きあがったレノの身体は地面へと落ちていく。しかし、空中にてレノは両足を重ねると、風の魔力を足の裏に集中させ、剣を加速させる際の時と同じ要領で風の魔力を噴出させる。
「いっけぇっ!!」
「嘘ぉっ!?」
「わぁっ……!!」
二人を抱えた状態でレノは空中にて更に上昇すると、向こう岸まで辿り着く。着地の際は勢いあまって転んでしまい、二人を巻き込んで地面に倒れてしまったが、無事に洞穴からの脱出を果たした。
「あいてててっ……せ、成功した」
「い、今のは寿命が縮んだよ……でも、助かった」
「……ありがとう、レノ」
レノはアルトとネココに挟まれる形で倒れ込み、両足をかなり痛めたが無事に逃げのびる事が出来た。洞穴から伸びてきた植物の根っこはしばらくの間は蠢ていたが、やがて洞穴の中へと姿を消す。
流石に向こう岸までは根を伸ばす事は出来ないらしく、どうにか九死に一生を得たレノ達はその場で深くため息を吐き出す。だが、すぐにアルトは起き上がるとどさくさに紛れて回収していた植物の根を見つめる。
「二人とも、少し休憩したらもう一度向こう側へ渡ろう」
「えっ!?」
「……本気で言ってるの?あんな目に遭ったのに……」
「本気だ、むしろこのままだとまずい気がするんだ」
アルトの言葉にレノは驚き、ネココは信じられない表情を浮かべるが、アルトは根っこを掴んで反対側の岸に視線を向けた。彼の推測では洞穴の奥に生えていた根っこの正体は植物型の魔物である事は間違いなく、このまま放置すればとんでもない事態に陥ると確信していた――
――3人は大木の橋を渡ると、洞穴の位置を確認し、洞穴の最深部の地上部分へと辿り着く。そこには見事な大樹が生えており、そこには予想通りというべきかゴブリンの姿が存在した。
「ギギィッ……」
「グギィイッ……」
「ギギギッ!!」
ゴブリン達は大樹へと群がり、枝に生えている果物をもぎ取って食していた。その果物の外見は赤黒く、まるで果物というよりも肉のような塊に近い外見をしていた。その様子をレノ達は遠目から観察し、口元を抑える。
「やはり、そういう事だったのか……」
「……どういう事?あのゴブリン達がどうかしたの?」
「よく見るんだ、あの大樹の周囲を……雑草一本すら生えていないだろう?あれはあの大樹が地面の養分を吸いつくして自分以外の植物が育たないようにしているんだ」
大樹の周辺には木々どころか雑草すらも生えておらず、真っ黒な地面が広がっていた。その場所に大量のゴブリンが屯し、大樹から生えている歪な果物を口にしていた。
基本的にゴブリンは雑食なので肉以外の食べ物を口にする事はおかしくはない。だが、あの異様な外見をした果物に躊躇なく食らいつく光景は異常である。しかも先ほどレノ達は大樹の根が魔獣の血液を吸い上げていた事を見ているため、あの果物は魔獣の血液の養分を含んでいるのは間違いない。
「よく見ておくんだ……ゴブリン達の様子を、僕の勘が正しければゴブリン亜種がこの森から大量発生している理由はあの大樹が原因だ」
「まさか……」
「っ……レノ、あそこを見て」
大樹から離れた位置に存在する樹木の上から様子を観察していたレノ達は、果物をかじっていたゴブリンに異変が生じる光景を目にする。
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