第284話 ゴブリンキングの脅威

「王都の学者によると、このゴブリンの大量発生は偶然ではなく、何らかの存在がシチノ周辺にゴブリンを集めている可能性が高いらしい」

「ほう、それは興味深いね……詳しく話を聞かせてくれるかい?」



白虎の隊長格の男性の言葉にアルトが反応し、国の学者がどんな説を唱えているのかは同じ学者として興味を抱く。アルトの言葉に男性は考え込み、やがて彼は答えてくれた。



「学者の話によると、特級危険種に指定されている魔物が誕生した恐れがあるらしい」

「特級危険種だって!?」

「特級?」

「竜種のように生態系に大きな影響を与える存在さ!!」



アルトの言葉にレノは驚き、現在のシチノには竜種と同等の危険な生物が潜んでいる可能性があるらしい。その存在はゴブリンを呼び集め、人間に危害を加える可能性が高いという。



「我々が捜索しているのはゴブリンの王、ゴブリンキングだ……奴が存在する痕跡は既に掴んでいる、ゴブリンキングだけは何としても倒さなければならない」

「ゴブリンキング……」

「き、聞いた事がありますわ。ゴブリンの最上位種で戦闘力も高く、赤毛熊の魔物なども一撃で葬ると言われるあの……」

「……名前はとても有名、なのに実際に見た人は殆どいない」



ゴブリンキングはゴブリン種の中でも最上位種として認識され、その戦闘力は並のゴブリンの比ではない。基本的にゴブリンは魔物の中では脆弱な存在だが、このゴブリンキングに関しては例外で純粋な戦闘力は赤毛熊を遥かに凌ぐ。


しかも厄介な事にゴブリンキングが最も恐れられている理由はその戦闘力ではなく、他のゴブリンを従えさせる能力を持っていた。ゴブリンキングは他のゴブリンを従えて勢力を作り出し、放置すればどんどんとゴブリンを呼び寄せて一大勢力を作り出す。



「既にこの地方に存在する村にも大きな被害が生まれている。周辺地域で暮らしている村人はシチノに避難させているが、ゴブリンキングを討伐するまでは安全とは言い切れない」

「そ、そんな……そんな話、全然知りませんでしたわ」

「仕方ないさ、餌が簡単に手に入らない場所にはゴブリンも近づく事はない。ましてや僕達は外部から情報が得られにくい場所で居たからね」



レノ達はゴブリンキングの存在を事前に知ることが出来なかったのはムツノに存在したからであり、基本的にはゴブリンは過酷な環境には自らの意思では移り住む事はない。だからこそムツノ地方はゴブリンの被害を避けられた。


まさか自分達の知らぬ間にゴブリンがシチノの周辺一帯に大量発生しているなど思いもよらず、しかも竜種と同等の危険性を誇るゴブリンキングが誕生したなどレノ達には夢にも思わなかった。白虎の隊長格の男性はレノ達に警告を行い、その場を去った。



「君達も十分に気を付けてくれ。シチノまでそれほど離れてはいない、出発するのなら今の内がいいだろう」

「分かりました。色々と教えてくれてありがとうございます」

「気にしないでくれ、それでは我々は仕事へ戻る。お前達、行くぞ!!」



白虎に所属する冒険者は即座に動き出し、立ち去っていく彼等の姿を見てレノ達は黙り込む。どうやら急いでシチノへ向かう必要があり、ドリスは何かを決意したように王国騎士の証であるペンダントを握りしめる。



「……どうやら、皆さんとお別れの時が来たようですわ」

「え?」

「ゴブリンキングが現れたというのであれば必ずや王国騎士も派遣されますわ。相手は特級危険種、それを相手に出来る存在となると将軍かあるいは王国騎士のみ……必ず、私にも命令が届くはずです」

「まあ、そうだろうね……」

「シチノへ到着次第、私は王国騎士として街に配備されている警備兵と共に行動します。皆さん、ここまでの道中は色々とありましたけど……本当に楽しかったです。皆さんと出会えて嬉しかったですわ」

「ドリス……」



寂しげな表情で別れの挨拶を行うドリスに対してレノ達も寂しい思いを抱く。よくよく考えれば彼女は王国騎士であり、本来は一般人のレノ達と行動を共にする方がおかしな話だった。だが、これまでの道中でドリスがいなければ切り抜けられなかった場面も多かった。


シチノに辿り着けばドリスと別れる事は確定し、その事にレノは複雑な思いを抱くが、彼女を止める事は出来ない。やがて全員が出発の準備を進めると、ここでスラミンが頭に金属の箱を乗せた状態で皆に話しかける。



「ぷるぷるぷ〜る」

「……あ、忘れてた。結局、この箱はどうするの?」

「そういえばそんな物もありましたわね。困りましたわ、どうしましょうか?」

「ふむ、このまま捨てるわけにもいかないし……中身を調べる必要があるな」



レノ達は黒色の金属の箱に視線を向け、対処に困る。まさか捨てるわけにもいかず、箱の中身も気になるため、持ち帰る事にした。

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