第283話 冒険者組織《クラン》
「我々はシチノで活動している「白虎」と名乗っている
「冒険者組織……?」
「要するに冒険者同士が集まって協力する組織さ」
冒険者組織という聞きなれない単語にレノは戸惑うと、アルトが説明する。冒険者同士で手を組んで活動を行う場合、一定数以上の人間が集まると「冒険者組織」と呼ばれるらしく、彼等は自分の組織の名前を「白虎」と名乗っているらしい。
白虎と名乗った冒険者達は周囲に倒れているホブゴブリンとゴブリンの死骸に冷や汗を流し、これだけの数のゴブリンとホブゴブリンを倒したのかとレノ達に問う。
「このゴブリン達の死骸は……まさかとは思うが、君達が倒したのか?」
「ええ、その通りですわ」
「……少しはてこずったけど、どうという事はない」
「ウォンッ!!」
冒険者の男性の言葉にドリスは自慢げに腕を組み、ネココとウルも誇らしげな表情を浮かべる。一方で冒険者達はレノ達の容姿を見てまだ全員が年若く、格好を見た限りではそれほどの力を持っているとは思えなかった。
「おいおい、本当にお前等がこいつらを全員やったのか?嘘だろう?」
「とても信じられないな……いくらゴブリンといえども、これだけの数を倒すなんて並の冒険者でも出来ないぞ」
「そのでかい狼に戦わせたのか?」
「何か証拠はあるのか?」
「むっ……聞き捨てなりませんわね」
冒険者達の疑惑の言葉にドリスは眉をしかめ、彼女は現在は騎士を名乗らず旅をしているが、だからといって他人に舐められてはいい気分はしない。無暗に力を見せつけるのは避けるべきだとは分かっているが、嘘だと疑われるのは心外だった。
「仕方ないですわね、なら私の力を……」
「ドリス、ここは俺に任せてよ。ドリスはあんまり目だったら駄目なんでしょ?」
「え?それはそうですが……」
「大丈夫、任せて。それじゃあ……よく見て下さいね」
レノは全員の前で蒼月を抜くと、両手で柄を握りしめた状態で上段に構える。いったい何をする気なのかと全員が視線を向けると、レノは蒼月に風の魔力を送り込む。
荒正と違い、蒼月は魔力の伝達速度が秀でており、瞬時に風の魔力が刀身を覆い込む。そして目を見開くと、離れた場所に存在する岩石に目掛けて刀身に纏った風の魔力を斬撃に変化させて放つ。
「嵐刃!!」
「うわぁっ!?」
「な、何だっ!?」
「まさか……魔法剣!?」
レノが刃を振り下ろした瞬間、刀身から風の斬撃が放たれ、10メートル以上も離れていた岩石を真っ二つに切り裂く。その光景を見たアルトたちは拍手を行い、一方で冒険者達は唖然とする。
「あ、あの大きさの岩を切り裂くなんて……」
「魔法剣士……だったのか」
「う、疑わって悪かったな……」
「いえ、別に気にしてませんから」
蒼月を鞘に戻すとレノは冒険者達が自分達がゴブリンの群れを一掃した事を信じてくれた事に満足する。一方で岩を切断するほどの魔法剣を見せつけたレノに対し、冒険者達は若干警戒心を抱く。
「……どうやら不快な気分にさせたようだな。すまなかった」
「分かってくれたのなら別にいいですわ。それよりも冒険者の方々がどうしてここに?」
「ああ、我々は実は依頼を引き受けてこの場所へ来たんだ。その内容は……この一帯に出没するようになったゴブリンの群れの討伐だ」
「ゴブリンの討伐……白銀級の冒険者がわざわざゴブリンの群れの討伐の依頼を?」
基本的にゴブリンは魔物の中では厄介な存在ではあるが、決して強い存在ではない。危険度自体はそれほど高くはなく、本来ならば白銀級の冒険者が対応するような相手ではない。
見た限りではこの場に集まった冒険者の殆どは銀級であり、隊長格である男性は白銀級のバッジを身に付けている。普通ならばゴブリンの討伐のためだけに派遣されるような人材ではないように思えるが、その辺の事情も隊長格の男性は説明してくれた。
「たかがゴブリンの討伐のために白銀級の冒険者が派遣される事に違和感を抱いているな?だが、現在のシチノに滞在する冒険者の殆どはゴブリンの討伐のために動き出している」
「えっ!?冒険者全員がゴブリンの討伐に当たっているんですの!?」
「現在、シチノの周辺地域では理由は不明だがゴブリンが大量に集まってきている。しかも中にはホブゴブリンなどの上位種も多数確認されている。そのせいでシチノに滞在する冒険者は全員がゴブリンの対処に出向いているんだ」
「いったいどうしてゴブリンが……」
街の冒険者全員が出向かなければならない程にゴブリンが大量に発生している事が発覚し、何が原因でゴブリンがシチノの周辺地域に出没するのかは未だに判明していないらしい。
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