第282話 魔物使いと契約紋

「……見て、こいつらの身体に何か刻まれている」

「えっ!?」

「どれどれ……これは、まさか契約紋か!?」

「契約……紋?」



ネココの指摘にドリスは驚き、アルトは不思議そうに覗き込むと、彼は目を見開く。レノも死骸を確認すると、確かに倒したホブゴブリンの身体には「魔法陣」を想像させる紋様が刻まれていた。


確認出来る限りでは倒れているホブゴブリンには身体の何処かに紋章が刻まれていた。唯一確認できなかったのはレノが最後に黒焦げにした個体だが、こちらは全身が焼けた際に紋様が消えた可能性が高い。恐らくは最初から全てのホブゴブリンに紋様が刻まれていたと思われる。



「何てことだ……この魔物達は野生の魔物なんかじゃない、明らかに魔物使いに操られている!!」

「魔物使いって……それってネズミ婆さんみたいに魔物を操る存在の事だよね」

「正確に言えば魔物使いも魔導士だ。彼らは契約魔法と呼ばれる魔法を利用し、魔物を操る術を持つ。契約魔法は必ずこんな風に身体の何処かに紋様を刻む必要があるんだ。この紋様は契約紋と呼ばれている、覚えておいた方がいいよ」



アルトの説明によるとレノ達が倒したホブゴブリンは魔物使いしか刻む事が出来ない「契約紋」が刻まれており、この契約紋が刻まれた魔物は魔物使いの僕と化す。



「契約紋を刻まれた魔物は魔物使いに逆らう事は出来ない。魔物使いは契約紋で魔物を操作し、命令する事が出来る。特に知能が高い魔物ほどより複雑な命令が出来るんだ」

「つまり、この魔物達は野生の魔物ではなく、魔物使いに操られた存在……なら、私達を襲わせたのは魔物使いの仕業ですの!?」

「ああ、そうなるね……」

「……誰だか知らないけど、いい迷惑」



レノ達は野生の魔物に襲われたわけではなく、魔物使いが使役する魔物に襲われた事が判明し、その事実にネココは気に入らなそうな表情を浮かべる。レノとしてもいい気分ではなく、誰が自分達をゴブリンに襲わせたのかと思う。



「ウル!!近くに人の臭いと気配は感じるか!?」

「クゥ〜ンッ……(←首を振る)」

「……私の鼻にも人の臭いはしない。多分、この近くにはいない」

「いったいどういうつもりですの!?ゴブリンに人を襲わせるなんて……信じられませんわ!!」

「確かに良い気分はしないね……だけど、どうしてこいつらは僕達を発見して襲ったんだ?」



アルトは何か気になり、すぐにレノが発見した黒色の箱の事を思い出す。レノがこの金属の箱を見つけた途端にホブゴブリンとゴブリンの集団が現れた事を思い出し、彼に振り返る。



「もしかしたらその箱に秘密があるのかもしれない」

「え?これ?」

「ああ、仮にゴブリンの狙いが僕達ではなく、その箱だとしたら……中身を確認してみよう」

「でも、これ溶接されていて開かないんだけど……」



地面に埋まっていた金属の箱は蓋の部分が溶接されていて開かず、鍵の類で閉じているのならばネココがピッキングで開ける事も出来たが、流石に力ずくで開けるのは難しい。


怖そうにも金属でできているので簡単には壊れるとは思えず、そもそも中に何が入っているのか分からない状態で無理やりにこじ開けるのは危険だった。だが、中身を確かめる事が出来ればレノ達が襲われた理由も分かるかもしれない。



「どうにか開ける方法があればいいんだが……」

「……レノの新しく覚えた魔法剣で斬って貰う?」

「いや、そんな上手く切れるか分からないし……」

「中身が壊れたら大変ですわ、ここは鍛冶師辺りに開けてもらうしかないのでは……」

「スンスンッ……ウォンッ!?」



話し合っている最中、ウルは唐突に鼻を鳴らすと何かに気付いたように声を上げ、直後にネココも鼻を鳴らす。彼女もウルと同じ方向を振り向くと、そこには馬に乗り込んだ十数名の冒険者らしき格好をした者達がレノ達の元へ近付いていた。



「何ですの?あの方達……」

「冒険者、か?」

「……こっちに近付いてくる、油断しないで」

「グルルルッ……」

「ウル、落ち着け」

「ぷるるるっ(←威嚇)」

「……スラミン、何処に隠れてたの?」



威嚇を行うウルの隣でスラミンも姿を現し、ウルと同様に威嚇を行うように身体を震わせる。やがて冒険者の集団はレノ達の前で馬を止めると、周囲に倒れているホブゴブリンとゴブリンの死骸を確認して驚いた表情を浮かべながら馬を降りる。



「君達!!見た所、旅人だと思うが……ここで何があったんだ?」

「……貴方達の方こそ何者?」

「安心してくれ、我々は冒険者だ。君達に危害を加えるつもりはない」



馬を降りた人間の中で恐らくは中年の男性が前に出ると、冒険者の証であるバッジを見せつける。バッジの色合いから「白銀級」の冒険者らしく、冒険者の階級は上からの二番目であるため、相当な実力者だと思われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る