第20話 13才
――それから月日は流れ、レノは遂に13才の年齢を迎えた。この世界の成人年齢は15才なのでまだ子供ではあるが、幼少期と比べればたくましく立派に育っていた。
最近のレノの生活は狩猟の際に足を負傷してしまったダリルに代わり、山で取れた山菜や野草、あるいは狩猟で手に入れた動物や魔物の肉を売り捌きに出向いている。手に入れた金銭で日用品を買い、それらを持って帰るのが最近のレノの仕事である。
「ふう、ボアの肉が思ったよりも高く売れたな。調味料もお酒も買えたし、今夜は義父さんの好きな肉鍋でも作ろうかな……ん?」
山道を歩いている途中、レノは違和感を抱いて振り返ると、茂みが揺れ動いている事に気付く。最初は無視して先に進んだレノだったが、明らかに何者かが追いかけている事に気付く。
(村人じゃないな……という事は獣か?いや、この気配……魔物だな)
レノは山暮らしで鍛えられた鋭い五感で自分を尾行する存在の正体を見抜き、念のために駆りてきていた手斧を握りしめる。山に下りる時は武器は手斧しか持ち込んでおらず、これしか武器はない。
「出て来いっ!!」
「……プギィッ!!」
茂みに向けてレノは声をかけると、林を掻き分けて現れたのは全身が毛皮で覆われ、猪の顔面をした二足歩行の生物だった。最初に顔を見た時はボアが現れたのかとレノは思ったが、手足が蹄ではなく人間のように5本指である事に気付き、すぐに敵の正体を「オーク」と呼ばれる魔物だと見抜く。
この山では滅多に見かけないが、オークは割と山の中に暮らす魔物である。ボアよりは小柄で力は弱いが、人間のような手足を持っており、棍棒や石斧などの武器を扱う知能はある。
「フゴッ、フゴッ……」
「オークか、珍しいな……丁度いい、今日の晩飯にしてやる」
「プギィイイッ!!」
自分で作り出したのかオークの手元には木の枝と大きな石を蔓で括り付けた石斧を手にしており、それを見たレノは手斧を横に構える。正面から馬鹿正直に迫ってきたオークに対してレノは精神を集中させ、この数か月の間に磨いた付与魔術の新しい攻撃法を繰り出す。
「はああっ!!」
「プギィイイッ!?」
オークの目の前でレノは手斧を横向きに構えると、突如として手斧から強風が吹き溢れ、刃の風の魔力が集中する。その光景を見たオークは危険を感じて立ち止まろうとするが、それに対してレノは手斧を振りかざすと、大木を斬る時の要領で刃を振り抜く。
「せいりゃあっ!!」
「プギャアアアッ――!?」
横向きに振り抜いた手斧の刃から衝撃波が放たれ、オークの身体を真っ二つに切り裂く。威力はそれだでは留まらず、オークの背後に存在した樹木にも衝撃は伝わり、ゆっくりと傾いて折れてしまう。
二つに切り裂かれて地面に倒れたオークと樹木を見てレノは頭を掻き、思っていたよりも魔力を込め過ぎていた事を反省する。手斧を戻すとレノは倒れているオークに視線を向け、困った表情を浮かべる。
「こいつ、どこからどこまで食べれるんだろう……?」
オークを解体した事などなく、レノはどの部位が一番美味しいのかと悩みながらもダリルが待つ山小屋へと一刻も早く帰るため、解体用の短剣を取り出す――
――その日の晩、レノはダリルと共に鍋を食らい、今日起きた出来事を他愛もない風に話す。しかし、ダリルの方は黙ってレノの話を聞いていたが、やがてダリルは意を決したようにレノに話しかけた。
「レノ、お前はそろそろ独り立ちしても問題ない年齢だ。そろそろ、この山を離れて生活した方がいいだろう」
「えっ?と、義父さん?急にどうしたの?」
「急にじゃねえ、前々から考えていたんだ……お前の力があれば狩人以外にも生きる道があるはずだ」
椀を置くとダリルはいつもならば真剣な表情を浮かべ、レノと向かい合う。普段のダリルならば飯時に酒があればすぐに飲むのだが、今日は一滴も飲んでいない事から彼が真剣に話している事を知ってレノは正座する。
ダリルとしてはレノが自分の元から離れる事は正直に言えば寂しかった。しかし、義理であるとはいえ父親としてレノがこんな辺境の山奥で生涯を終える事はダリルとしては我慢ならず、彼はレノが一介の狩人として人生を終えるような人間ではないと考えていた。
「レノ、お前は自分が思っているよりも凄い奴だ。俺がお前ぐらいの年の頃は親に苦労をかけてばかりのバカなガキだった。だが、お前は違う。お前なら何だって出来る、別に狩人として生きる事に拘らなくてもいいんだ」
「別に俺は狩人が嫌だなんて思ってないよ?」
「そうだな、お前はそういう奴だ。だがな、父親として俺はお前を立派な人間に育てたいんだ。言っておくが、別に狩人が悪いというわけじゃねえぞ?だが、俺としてはお前のその魔法……いや、違ったな。魔力……魔術?ともかく、その力が狩人の仕事だけで生かせるとは到底思わねえ!!」
「えっとっ……つまり、俺に狩人以外の仕事をやらせたいの?」
「まあ、そういう事だ。ぶっちゃければ俺からすれば別にお前さんの能力は便利だとは思うが、なくても狩人は出来ると思うしな」
普通の狩人ならばレノが扱う「付与魔術」などの力がなくても問題はなく、仕事は行える。ダリルから見ればレノの力が本当に発揮できる職業は狩人であるとは到底思えず、狩人の職業がレノの「天職」だとは到底思えなかった。
このままレノが自分の元を離れず、狩人として生きていく事にダリルは歯がゆい思いを抱き、これほどの力を持つ自分の子供ならば何か大きなことを成し遂げるのではないかと期待を抱いてしまう。そこでダリルは敢えて厳しい言葉を掛け、レノに自分の元を離れるように促す。
「まあ、いきなり出ていけとは言わねえ。だが、いつかお前が外の世界に旅立つ時のために俺は金をこっそりと貯めていたんだ。もしも覚悟が出来たなら金と旅支度ぐらいは用意してやる。その時までは今まで通りに暮らしていい」
「義父さん……」
「そんな顔をするな、別にお前の事が嫌いになって追い出すわけじゃねえ……だけどな、いつか子供は親の元を離れていくんだ。それに永遠の別れじゃねえ、寂しくなったらいつでも帰ってこい。大人になって戻った時は一緒に酒でも飲もう」
「……うん、分かった。真面目に考えるよ」
ダリルの言葉にレノは頷き、自分がこの山を離れべきかを真剣に考える事にした――
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