第186話 魔法剣の組み合わせ

「うがぁあああっ……!?」

「ここだっ!!」



竜巻によって拡散した薬液が周囲に散らばり、その際にアリスラの顔面にも的中したらしく、彼女は顔を抑え込む。その様子を見てレノは絶好の好機だと判断し、他の人間も怯んでいる隙に彼女の元へ向かう。


拳を握りしめたレノは風の魔力を集中させ、視界が封じられているアリスラの元へ向かう。獣人族の聴覚ならば近付いてくるレノの足音に反応できるだろうが、理性を失って冷静な対処が出来ないアリスラは咄嗟に行動する事が出来なかった。



「吹っ飛べっ!!」

「がはぁっ!?」



アリスラの腹部に掌底を叩き込み、掌に纏わせた風の魔力を発散させ、風圧で吹き飛ばす。あまりの威力にアリスラの身体は派手に吹き飛び、床に倒れ込んで動かなくなった。



「や、やりましたの!?」

「ドリス、急いでここを離れよう!!」

「いいえ、今度は逃がさないわよぉっ」



ドリスに声をかけたレノはネココが先に忍び込んだはずの扉を指差し、二人はそこへ向かう。しかし、ここでカトレアは背中の翼を広げると二人よりも先に扉の前に移動して身構える。



「ここから先は通さないわ。流石にこの奥に行かれるとまずいからね」

「くっ!?」

「戦うのは嫌いだけど、人間相手に遅れは取らないわ……さあ、来なさい」



カトレアは両手と翼を広げて扉の前を塞ぐと、その様子を見てレノとドリスは剣を構える。相手は吸血鬼である以上、油断は決して出来ない。


レノはドリスの隣に立つと、ここで彼女の持っている魔剣に視線を向け、ある事を思いつく。今までに試したことはないので上手く行くかは不明だが、やってみる価値はあった。



「ドリス、力を貸して……二人で魔法剣を同時に発動させるんだ」

「えっ!?」

「いいから早くっ!!」



ドリスの魔剣にレノは荒正を伸ばして刃同士を合わせると、彼女は驚いた表情を浮かべてレノに振り返る。そんな彼女に対してレノは早く魔法剣を発動させるように促すと、ドリスは頷いて意識を集中させる。その様子を見て危機感を抱いたカトレアは両手の爪を刃物の様に伸ばし、二人へ飛び掛かろうとした。



「何の真似か知らないけど、させないわぁっ!!」

「ドリス、未だ!!」

「――爆炎剣!!」



カトレアが要約して飛び掛かろうとした瞬間、ドリスはレノの合図に従って刀身に純粋な火属性の魔力のみで構成した炎を纏う。その瞬間、レノは荒正に纏わせた風の魔力を利用し、彼女の炎の魔力を取り込む。


二人が刃を重ねて魔法剣を発動させた結果、風と炎が組み合わさり、より強力な火炎と化してカトレアを包み込む。かつてレノは爆炎剣の魔力を取り込み、火炎剣を上回る炎の剣を手にしたが、今回は二人で力を合わせて強力な魔法剣を生み出す。



「「はぁあっ!!」」

「うぎゃああああっ!?」



二人が突き出した剣から強烈な炎が迸り、その炎に飲み込まれたカトレアは悲鳴を上げて床に転がり込み、身体中に纏った炎を掻き消そうとした。しかし、普通の炎と違った魔法で生み出した炎は簡単に消える事はなく、彼女はもがき苦しむ。



「あぁあああっ……!?」

「い、今の内ですわ!!先に行きましょう!!」

「そ、そうだね……」



炎に包み込まれたカトレアの姿を見てレノとドリスは冷や汗を流し、彼女が炎に包まれている間に扉を開いて二人は奥へ進もうとした時、両手に羊皮紙の束を抱えたネココが飛び出してきた。



「ただいま!!」

「ネココさん!?」

「どうして戻って……」

「いいから、早く扉を閉めて!!」



ネココは焦った表情で自分が出てきた通路に顔を向けると、そこには大量の蛇が迫っていた。数十匹の蛇が通路を移動する光景を見てレノとドリスは悲鳴を上げ、慌てて扉を閉めた。



『シャアアアッ!!』

「な、何なんですの!?」

「くっ……そこにある机を持ってきて抑えつけよう!!」



扉の内側から大量の蛇が扉に突っ込んでくる音が聞こえ、二人がかりで扉を抑え込んでいる間、ネココが近くにある机や椅子を持ってきて扉を抑え込む。


どうにか蛇が通路から出てこれないように扉を封鎖する事に成功すると、3人は額の汗を拭う。そして改めてネココは自分が持って来た羊皮紙の束を見せつけ、ドリスに押し付ける。



「……一番豪華そうな部屋の中に隠されていた羊皮紙を全部持って来た。この中に不正の証拠に繋がりそうな物があると思う」

「ほ、本当ですの!?」

「でも、捜索の途中で蛇の奴等に見つかって逃げるしかなかった。早く、ここから離れた方がいい!!」

「よし、逃げよう!!」



ネココが持ち帰った羊皮紙の束を抱えると、レノ達はカジノから逃げ出すために駆け出す。流石に騒動を聞きつけて次々と他の部屋からも兵士達が訪れ、闘技場の様子を見て戸惑う。



「な、何事だ!?」

「いったい何があったんだ!?」

「か、カトレア様!?おい、大変だ!!すぐに火を消せ!!」

「ぐぅうっ……!?」



燃え盛るカトレアを見て兵士達は度肝を抜かし、慌てて彼女を助けようとするが、その間にレノ達は出入り口へ向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る