第40話 冒険者?いいえ、違います

「あの、レノさんは何級の冒険者なんですか?白銀級?それとも、もしかして黄金級冒険者だったりしますか!?」

「えっ……」

「馬鹿ね、こんな街に黄金冒険者がいるわけないでしょ?」

「でも、あのボアをこんなに簡単に倒すなんて……銅級や鉄級なんてあり得ないよな」

「もしかして銀級か白銀級の冒険者なんですか!?」



4人は瞳を輝かせてレノに尋ねてくると、最初は何の話をしているのかと思ったが、すぐにレノはアキから言われた事を思い出す。冒険者には階級が存在し、その等級によって冒険者としてどれほど実力と功績を上げてきたのかが判明する。


しかし、生憎とレノは冒険者ではないため、期待を裏切るようで悪い気がしながらもレノは自分がただの旅人だと説明した。



「俺は冒険者じゃなくて、ただの旅人だよ。冒険者の資格も持ってないし……」

「ええっ!?あんなに強いのに!?」

「し、信じられない……」

「なら、傭兵ですか!?」

「傭兵……う~ん、爺ちゃんが傭兵で剣を教えてくれたりはしたけど、俺は違うよ。強いて言うなら……猟師!?」

「嘘よ!!猟師があんなに強いはずがないわ!!」



レノの言葉に4人組は驚いた表情を浮かべるが、そんな彼等に対してレノは困り果てる。別に嘘を吐いてないし、そもそも素性を明かさなければいけないという理由でレノは冒険者になる事は出来ない。最もそこまで説明する義理もなく、そもそも4人がのんきに話をしていて大丈夫なのかを尋ねる。



「それより、君たちの方は大丈夫なの?試験中だから魔物を狩らないと駄目なんじゃないの?」

「あ、そうだった!?」

「や、やばい!!すっかり忘れてた!!」

「ちょっと、今から間に合うの!?」

「そ、そうだ!!このボアの素材を持ち帰れば……」

「馬鹿、それはレノさんが倒した素材だぞ!?俺達が持って帰っていい代物じゃねえ!!」

「レノさん、本当にありがとうございました!!じゃあ、俺達は急いでいるのでこれで……!!」

「あ、うん……試験、頑張ってね」



4人は慌てて立ち上がると、時間内までに魔物を倒すために慌てて行動を再開し、レノにお礼を告げて立ち去った。残されたレノは倒したボアの素材をどうするべきか悩み、仕方なく持ち帰れるだけの素材を回収して街に引き返す事にした――






――その後、持ち帰ったボアの肉を宿屋に持ち帰ると、宿屋の料理人に頼んで料理の素材として引き取ってもらう。料理人は新鮮なボアの肉に歓喜し、宿屋の客達は夕食にボアのステーキを味わう事が出来た。


ボアは山では時々食べていたが、やはり一流の料理人が作り出すボアの料理は絶品でレノも美味しく頂けた。食事を終えたレノは自室で一晩明かすと、翌日の昼頃にレノの部屋にネカからの遣いの人間が尋ねてくる。



「初めまして、貴方がレノ様でしょうか?」

「そうですけど……どちら様ですか?」

「私はネカ様に仕える人間です。実はネカ会長がレノ様を店に招きたいとの事により、ここへ参りました」

「店?」



使用人らしき男性の言葉にレノはネカが商人である事を思い出し、彼はこの街にも店を構えているという話を思い出す。お礼をするために店に招きたいというのであれば魔石や魔法腕輪や宿代の一件もあるのでレノは遠慮しようとしたが、なんでもネカはレノに相談したいことがあるという。



「ネカ様はどうやらレノ様に相談したい事があるらしく、店の方までどうかお越しください。迎えの馬車は準備できています」

「はあ……そこまで言うのなら」



レノはネカの呼び出しに不思議に思い、今日の内に街を断つつもりだったので荷物も持って馬車に乗り込み、ネカの店まで案内してもらう――






――この街では大商人として名前が通っているネカは様々な事業を行い、この街では服屋を営んでいるらしかった。恐らくはこの街に存在する服屋の中でも一番の大きさを誇る建物らしく、様々な衣服が置かれていた。



「ここが、ネカさんの店なんですか?」

「はい、正確に言えばここは支店でございます。会長はネカ様ですが、店の管理を行っているのは私でございますよ」

「え、という事は……貴方がこの店の主人なんですか?」

「その通りでございます」



驚く事にレノを迎えに来たのはただの使用人ではなかったらしく、この街でネカの代わりに経営を行っている人間だと判明する。わざわざ使用人ではなく、店の主人を遣いとして送り込む辺り、ネカがレノの事をどれだけ重要な相手だと認識しているのかが伺えた。


店の主人の案内の元、レノは店の奥へと連れ込まれる。そして豪勢な机の前で大量の羊皮紙に目を通すネカと再会し、彼はレノが来たことを知るとすぐに眼鏡をはずしてレノに頭を下げた。



「おお、これはレノ殿……よくぞお越しくださいました。ささっ、どうぞお座りください。すぐにお茶を用意しましょう」

「どうも……あ、あの、今日はどのようなご用件でしょうか?」



レノは他の人間からここまで歓迎された事はなく、戸惑いの表情を浮かべながらも言われるがままに座ると、ネカは店の人間に命令してお茶と茶菓子を用意させる。



「本日、レノ様をお呼びしたのは実はレノ様に相談したい事がありまして……その前にレノ様にお尋ねしたいことはありますが、レノ様は長旅の際に困る事はありますか?」

「困る事、ですか?」

「例えば衣服などはどうですかな?長旅になると、同じ服をずっと着るわけにもいかないでしょう。衛生的にも問題がありますし、かといって着替えの服を用意するにしても荷物がかさばる……違いますか?」

「そうですね、一応は川とかを見つければ身体や服も洗う事は出来るんですけど、外にいるといつ魔物に襲われるのかも分からないので……一人旅だと着替えを行う時も神経を擦り減りますね」



ネカの言葉にレノは頷き、彼の言う通りに長旅の際は食料や水だけではなく、服なども気を遣わなければならない。何しろ魔物を倒すときも返り血を浴びて汚れてしまう事は珍しくもなく、倒した魔物の解体を行う時も汚れてしまう事はよくあった。


汚れた服を着続けるのは衛生面から考えても悪く、身体や服が洗う事が出来る水場を運良く見つかるかも分からない。レノが最初に街に付いたときに宿屋を探すのは服の洗濯を行うという理由もある。そんなレノの言葉を聞いたネカは笑顔を浮かべると、彼は使用人を呼び出してレノの前にある小包を置く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る