第100話 魔導士の家系

いくら噂の通りにチェンという男が黒狼に所属していた賞金首だったとしても、彼が黒狼の残党をまとめ上げて組織を作り上げたという話までは信じられず、わざわざ国の守護を任せる立場の白狼騎士団を派遣する必要もないと判断した国王騎士に選ばれたばかりのドリスを送り込んだという。


ドリスを送り込んだ理由はいくつかあり、まずは彼女は国王騎士に選ばれてから特に大きな功績を立てておらず、実力は確かなのだが彼女が活躍する機会は恵まれなかった。なので噂の真偽はともかく、賞金首であるチェンの捕縛に成功すればドリスは王国騎士として功績を上げる事が出来た。


これに対して黒狼は予想外の展開に動揺したが、すぐに作戦を変更して彼等はまずは派遣された王国騎士のドリスを始末する事にした。作戦通りにはいかなかったとはいえ、ドリスも彼等が憎む国の騎士である事に違いはなく、まずは白狼騎士団の団長を殺す前に手始めとして彼女を殺す計画を立てる。




――だが、ここで予想外の事態が起きた。それは作戦の決行前にロウが傭兵団に捕縛され、警備兵に捕まってしまった。すぐに黒狼はロウを捕縛した人物を調べ上げると、相手が成人もしていない少年と少女だと判明し、呆気に取られた。




この話を聞いたチェンはロウが子供に後れを取ったなど信じられなかったが、自分達の計画の妨げとなる存在と認識し、配下の暗殺者を送り込む。しかし、結果から言えば送り込んだ暗殺者2名は1名が重傷で帰還、もう1名は自害する結果に陥り、しかも街に訪れたドリスの暗殺に送り込んだヤンも行方不明になってしまった。


これで早くも生き残った黒狼の面子はロウ、ヤンが欠け、しかもロンが捕まった事で残りは「チェン」と「カトレア」の両名だけとなる。但し、この二人は他の3人とは格が違い、非常に恐ろしい相手である事は間違いない――




「ここまでがロンから聞いた話だよ。大分長話になっちまったね」

「むむむ……まさか、あの噂が真実だったなんて!!しかも聞く限りでは私、どれだけ舐められていますの!?」

「まあまあ、落ち着いて……でも、そういえばドリスさんはどうして一人なんですか?他に兵士とか騎士は連れていないんですか?」



話を聞き終えたドリスは自分が白狼騎士団の団長の代わりに命を狙われていたという事実に憤慨するが、ここでレノは先ほどから抱いていた疑問を尋ねる。どうして王国騎士であるはずのドリスは友を連れずに単独行動を取っていたのかを聞くと彼女は言いにくそうに答える。



「……いませんわ」

「え?」

「だから、そんな者はいません!!私には他の王国騎士と違って配下はいませんの!!」

「ええっ!?」

「……そんな事、ありえるの?」

「おいおい、王国騎士はこの国でもかなり偉い立場なんだろう?それなのに兵士を一人も連れていないなんて……」



ドリスの言葉にレノ達は信じられなかったが、彼女は少々落ち込んだ様子で自分がどうして王国騎士になったのかを語る。



「実は私、こう見えても貴族ですの」

「こう見えても何も、むしろそんな恰好で貴族じゃない方が驚きます」

「……派手な髪型に派手な鎧に派手な剣。むしろ、そんな格好をしておいて貴族じゃないと言う方が無理がある」

「そんな成金趣味の貴族が好みそうな格好をしておいて何を言ってんだい、あんた?」

「成金っ!?そんな風に見られてますの、私!?」



レノ達の言葉にドリスは衝撃を受けた表情を浮かべ、自分の格好の何処がおかしいのかと戸惑う。その一方でレノはドリスもアルトと同じように自分が貴族だからといって他の人間を見下す事もなく、普通に接している姿を見て人間の貴族は平民が相手でも普通に接するのかと考えてしまう。


最も貴族と出会う機会など滅多にないため、他の貴族が二人のように普通に接してくれるとは期待しないようにしておき、改めてドリスに事情を尋ねる。



「それでドリスさんはどうして王国騎士になれたの?」

「え、ええっ……実は私の家は公爵家なのですが、私の叔母は国王様の妻、分かりやすく言えば王妃ですわ」

「王妃!?じゃあ、あんたは国王からすれば姪なのかい!?」

「一応はそういうことになりますわね」

「公爵……という事は貴族の中でも一番爵位が高いんだよね。という事はドリスさん、実はとんでもなく偉い立場の人なんじゃ……」

「いえ、正直に言って公爵家といってもそんな大層な存在ではありませんわ。自慢できる事があるとすれば代々魔導士の家系で生まれてくる子供の殆どが魔導士というだけ……他には何の取柄もありませんわ」

「……魔導士の家系というだけでも凄い話」



魔導士という存在はこの世界に置いては特別な存在に扱われ、彼等は何処の時代のどんな国でも重宝される。魔導士が持つ魔法の力は絶大で現実世界で言えば「兵器」の相当する力を所有している。


そんな魔導士を代々産んでいるドリスの実家の「フレア家」は王国の中でも特別視され、国にとっても重要な存在であった。そして昔からのしきたりでフレア家の後継ぎとなる者は「王国騎士」の称号を与えれられ、一定の年齢までは騎士として働き、腕を磨くという古い習慣があった。


ドリスは長女ではなかったが、フレア家の中でも珍しく「魔法剣士」として生まれ、その才能も高く評価されていた。そのせいで彼女は王国騎士の称号を与えられたが、本人はこの王国騎士の称号に関して自分には荷が重いと考えていた。

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