第67話 ゴブリン亜種の群れ

「アルト、先に渡って……俺は後ろを見張っておくから」

「あ、ああ……うっ、かなり高いな。こんな高さから落ちたら……」

「気を付けて、足を踏み外さないように慎重に進んで」



レノは弓を取り出していつでも迎撃の体勢を整え、周囲の様子を観察する。少しでも何かが見えたらすぐに射抜ける準備を行い、先にアルトへ行かせる。彼は慎重に大木を渡り、一方でレノは後方を警戒しながら後へ続く。


特に何事も起きずにアルトは渡り切る事に成功し、その後にレノも続く。無事に渡り切ると、アルトは少しは興奮が収まったのか改めてゴブリンの足跡を探す。



「ふうっ、渡り切れた……よし、調査を再開しよう。足跡はまだ残っているか?」

「……ない」

「えっ?」

「ここから先の足跡が見当たらない」

「な、何だって!?」



ネココの言葉にアルトとレノは驚いた表情を浮かべて地面に視線を向けるが、確かに反対側の足場にはゴブリンの足跡は大木まで続いていた。しかし、大木を渡り切ったにも関わらずにゴブリンの足跡が消えている事が判明し、すぐにネココは罠だと気付く。



「……嵌められた、二人とも気を付けて」

「また罠か!?」

「何処にいる!?」



レノたちは背中を合わせると周囲を警戒するが、特に異変はない。大木を渡り切る時も特に襲われる様子もなかったため、考えすぎかと3人が思った時、突如として渓谷の下の方から鳴き声が響く。




――グギィイイッ!!




渓谷の合間から響いてきた鳴き声を耳にしたレノたちは下側を覗き込むと、そこには岩壁に鋭い爪を突き刺して登ってくる赤色の皮膚に覆われたゴブリンの集団が存在し、その姿を目撃したレノ達はすぐに「ゴブリン亜種」だと気付いてその場を離れる。


ゴブリン亜種は崖を乗り越えてレノ達の前へと姿を現すと、異様なまでに長く鋭い爪と牙を剥き出しにして威嚇を行う。先ほど倒したゴブリン達とは違い、異様な雰囲気を放つゴブリン亜種の群れにレノ達は気圧された。



「こ、これがゴブリン亜種……なるほど、確かに獣のような毛並みだ」

「感心している場合じゃないっ……どうするの?」

「どうするも何も……相手は戦う気満々だよ!!」

『グギィイイッ!!』



赤色の皮膚に動物のような毛皮を生やしたゴブリン達は四つん這いになると、本物の獣のように移動してレノ達を取り囲む。その様子を見てレノは手加減できる相手ではないと判断し、即座に魔法腕輪を装着する。



(出し惜しみしている場合じゃない!!こいつら、危険だ!!)



今までにレノは様々な獣を山で狩り続けたが、目の前のゴブリン亜種からは赤毛熊に近い雰囲気を感じた。しかも本能のままに一斉に襲い掛からず、周囲を先に取り囲んで退路を断つ当たり、非常に厄介な敵だった。



「……来るっ!!」

『グギィイイッ!!』



ネココはいち早く敵が仕掛けるのを察知すると、彼女は両手に短刀を構える。それに対してレノはアルトに視線を向け、彼を守りながらでは戦えないと判断してアルトの身体を掴む。



「ごめん、アルト!!」

「えっ!?何をっ……」

「はああっ!!」



レノはアルトの身体を掴むと、両手に風の魔力を纏わせて彼の身体を勢いよく上空へと投げ飛ばす。アルトは風の力を受けて浮き上がり、その光景を目にしたゴブリン亜種の群れは一瞬だけ彼に気を取られた。



「うわぁあああっ!?」

『グギィッ……!?』

「今だっ!!」

「辻斬り!!」



上空に浮かんだアルトにゴブリン亜種の群れが気を取られた瞬間、ネココは短刀を構えて近くにゴブリン亜種の首元に目掛けて刃を放つ。刃はゴブリン亜種の首を切断し、血飛沫が噴き出す。



「ギィアッ……!?」

「うおおおっ!!」



ゴブリン亜種の1体が倒れると、レノは刀を抜いて横向きに構えると、魔法腕輪の補助もあって一瞬で刀身に魔力を宿す。風の魔力を纏わせた刃を振り払い、正面に存在した2体のゴブリン亜種を吹き飛ばす。



「嵐刃!!」

『グギャアッ――!?』



2体のゴブリン亜種の首が吹き飛び、その様子を見ていた他のゴブリン亜種たちも事態の異変に気付く。自分達が襲い掛かったにも関わらず、アルトに気を取られていつの間にか攻撃を受ける側になっていた事を送れて理解する。


レノは上空のアルトに視線を向け、彼が落ちる前に勝負を決めるために瞬時に刀身に魔力を宿す。風の魔石のお陰で攻撃の直後も瞬時に刀身に魔力を宿す事が出来るようになり、今度は3体のゴブリン亜種に目掛けて刃を振り回す。



「嵐斧!!」

「グギィッ!?」

「ギャウッ!?」

「ギィイイッ!!」



1体の首は斬り裂き、他の2体はレノの攻撃を躱そうとしたが、1体は避けきれずに腕を切り落とされる。もう片方は身体を仰け反らせて刃を回避したが、更にレノは踏み込んで刃をもう一回転させる。



「円斧!!」

「ギャアアッ!?」

「ギィアッ!?」



2回目の斬撃に対してどちらのゴブリンも避けきれず、胴体を切断されて上半身と下半身に斬り裂かれた。その一方でレノの背後から襲おうと2体のゴブリン亜種が接近し、飛び込む。



「「グギィイイッ!!」」

「させないっ!!」



レノの背後から襲い掛かろうとした2体のゴブリン亜種の上空にネココが現れると、彼女は腰の鞘に戻した短刀を掴み、鞘から刃を引き抜く際に加速させて切り裂く。



「抜刀!!」

「「アガァッ!?」」



鋭い斬撃を繰り出して同時に2体のゴブリン亜種の首を斬り裂き、そのまま彼女は地面へと着地する。最後に残った2体のゴブリン亜種は瞬く間に他の仲間が殺された光景を見て動揺するが、レノとネココは容赦せずに駆け出す。


2人は一瞬だけ目を合わせると、互いの標的を確認してレノは剣を下に構えると、ネココは加速してゴブリン亜種の片方の真横に移動すると、蹴りつける。



「うにゃっ!!」

「ギィアッ!?」

「グギィッ!?」

「はあああっ!!」



蹴りつけられた個体はもう一方へ押し出され、その隙を逃さずにレノは剣を振りかざすと、下から凄まじい勢いで刃を繰り出す。



「地裂!!」

「「ッ――!?」」



2体のゴブリン亜種は同時に肉体を切断され、悲鳴を上げる暇もなく絶命した。その様子を見てネココは驚いた顔を浮かべ、一方でレノの方は即座に上空から落ちてくるアルトの元へ向かう。

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