第146話 騙しの代償

「だ、団長……」

「ロウガ、さん……」

「……貴方が牙狼団の団長ですか?」

「そうだが……これは何の騒ぎだ?」



姿を現した獣人族の大男は酒場内の様子を確認し、眉をしかめる。そんな彼に対して傭兵達は顔色を青ざめ、ロウガと呼ばれた大男は倒れているキバとその前に立っているレノ達に視線を向けて疑問を抱く。



「答えろ、ここで何があった?」

「そ、それは……」

「こ、こいつらです!!こいつらが急に襲ってきたんです!!キバさんもやられて……!!」



傭兵達は往生際が悪く、姿を現した団長に対して咄嗟にレノ達を指差して自分達が襲われたと主張した。そんな彼等の言葉にロウガはレノ達に振り返ると、冷静な態度で尋ねる。



「俺の部下はこう言っているが、その話は本当なのか?」

「とんだ濡れ衣ですわ!!襲われたのは私達の仲間で、それを取り返しに来ただけですわ!!」

「……このキバという男の命令でこいつらはそこにいるアルトを誘拐しようとした。そして、このレノを呼び出して金品を奪おうとした……で、合ってる?」

「うん、間違ってはいないよ」



ネココは自分の推測が正しいのかどうかをレノに尋ねると、問題ない事をレノは頷く。ロウガと呼ばれた男は腕を組んで自分の部下とレノ達に視線を向け、ため息を吐き出す。



「そういう事だったか……馬鹿が、堅気に手を出すなとあれほど注意したのにまた言いつけを破ったのか」

「だ、団長!!俺達よりもこいつらのいう事を信じるんですか!?」

「お前等は黙ってろ!!」



ロウガの言葉に傭兵の一人が言い返すが、そんな彼に対してロウガは一括すると、酒場内の傭兵達は硬直する。あまりの迫力にレノ達も冷や汗を流し、このロウガと呼ばれる男性は明らかに今までに出会った傭兵とは雰囲気が違った。


キバとは比べ物にならないぐらいの圧倒的な存在感を放ち、先ほどまでの態度はどうしたのか、傭兵達は怯えた子供の様に震えて何も話せなくなった。それだけでロウガという存在がどれだけ恐れられているのか知り、ここでネココを思い出したように呟く。



「ロウガ……思い出した、傭兵の間でも有名な名前。獣剣士の異名を持つ、あのロウガ?」

「ほう、俺の事を知っていたか……どうやら俺の部下が迷惑を掛けたようだな。こいつらに代わって俺が謝ろう」



レノ達の前に移動したロウガは意外な事に頭を下げ、その態度にレノ達は驚くが、ネココは誤ったからと言って簡単に許すつもりはなかった。



「謝罪だけで済む話じゃない、こいつのせいで私達の仲間は酷い目に遭わされる所だった。その責任はどうするつもり?」

「まあ、当然だな……あんたらはその馬鹿をどうするつもりだ?」

「勿論、警備兵に突き出して犯罪者として捕まえさせますわ!!」

「それは勘弁してくれ、そんな奴でも俺の傭兵団の副団長なんだ……そいつが捕まれば俺達の面子は丸潰れだ」

「それはそちらの都合、僕達には関係ないだろう?」

「まあ、そうだな……だか、警備兵に突き出すとなると俺達も黙っていられねえ。だからここで折衷案だ。そいつには俺の方からきつく仕置きをしておく、それであんたらには迷惑を掛けた詫び金を支払う。それで許して貰えないか?」



キバの言葉にレノ達は顔を見合わせ、正直に言えば彼の提案を引き受ける義理はない。しかし、ここでキバを警備兵に突き出すと牙狼団と因縁を作ってしまうかもしれない。


レノ達はともかく、おなじ傭兵であるネココにとっては他の傭兵団に目を付けられるのは面倒な話だった。この街に滞在している間は動きにくくなり、ネココとしてはここらが引き際だと判断するが、他の者がそれに従うかどうかが問題だった。



「……私は彼の提案を受け入れてもいいと思う」

「本気ですの!?アルトさんもレノさんも大変な目に遭ったのに!?」

「結果的には二人とも無事だったし、二人が納得してくれるのならそれで済む話……勿論、不満があるなら遠慮なく告げて欲しい。私も二人の意思を尊重する」

「僕は別に構わないよ、襲われる前に助けて貰えたし、レノ君に任せるよ」

「う~ん……」



アルトの言葉にレノはキバに視線を向け、正直に言えばもう関わり合いになりたくはない相手のため、警備兵に突き出すのが一番だと思うが、現れたロウガを前にして悩む。もしも提案を拒否した場合、自分の傭兵団の面子を守るためにロウガが襲い掛かる可能性もあった。



(この人、強いな……どことなく、ロイの爺ちゃんと雰囲気が似てる)



優れた武人であるロイと同様にレノはロウガから彼と近い雰囲気を感じ取り、出来れば敵に回したくはない相手だと思った。悩んだ結果、キバが二度と自分に関わらないようにロウガが約束してくれるのであればという条件を付けくわえる事にした。

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