第147話 傭兵団の掟
「じゃあ……もう二度と、その人が俺達に関わってこないように注意して下さい。その人の部下も一緒に」
「ああ……約束しよう」
「待ってください、私は納得してま……ふがっ!?」
「……本人たちが納得しているのならもうこの件は終わった、私達は帰らせてもらう」
ネココはドリスの口元を塞ぎ、レノ達に引き返すように促す。彼女の反応を見てレノとアルトも頷き、今は一刻も早くここから抜け出した方がいいと判断した。ロウガの気が変わる前にレノ達は酒場を抜け出そうとすると、ロウガが引き留める。
「おっと、これは詫び金だ。受け取ってくれ」
「……どうも」
「今回はうちの馬鹿が迷惑を掛けてすまなかったな」
ロウガは小袋を投げつけると、それをレノは受け止める。詫び金を受け取った以上はここに残る理由もなく、早急にレノ達は酒場を抜け出した。その後、残された者達は顔色を青くしながらロウガに視線を向けると、彼は倒れているキバに話しかけた。
「キバ、もう起きてるんだろう。狸寝入りは止めろ」
「……い、何時から気付いていたんですか?」
「そんな事はどうでもいい、それよりもお前……あれほど掟を破るなと言ったのに堅気に手を出したな?」
「す、すいません!!」
キバはその場で土下座を行い、床に額を擦りつけながら謝罪を行う。そんな彼に対してロウガは近くの椅子に座り込むと、冷たい視線を向ける。
牙狼団を作り出す際、ロウガは一般人に手を出してはならないという掟を作った。これは余計な諍いを避けるためであり、ましてや自分の次に立場が偉い副団長の身でありながらキバが掟を破っては下の者に示しがつかない。
「キバ、今まではお前のやんちゃは多めに見てやったが、今回ばかりは許せねえな……よりにもよってあんな一般人の、しかも子供に手を出すとはな」
「ま、待ってください!!子供と言ってもあいつらは……」
「誰が喋ってもいいと言った?」
ロウガの言葉にキバは言い訳を行おうとしたが、そんな彼に対してロウガは椅子に座った状態で語り掛けると、その言葉にキバは震え上がる。この男にだけは逆らってはいけないと本能が告げていた。
「お前がどんな経緯であの子供達を狙ったのかなんてどうでもいいんだよ。重要なのはお前は俺が定めた掟を平然と破り、あまつさえそれを俺に黙って隠蔽しようとした事だ」
「ゆ、許してください!!魔が差したんです!!」
「魔が差しただと?はっ、笑わせるな……要するにお前は俺の言い付けなんてどうでも良い事と考えたんだろう?つまり、お前は俺の事を舐めていたからこんな真似をした。違うか?」
「ち、違います!!どうか、話を……ぐえっ!?」
必死に言い訳を行おうとする牙の首をロウガは締め上げると、片腕でキバを軽々と持ち上げる。決して小柄とは言えない体格のキバを持ち上げたロウガは壁に彼の身体を叩き込み、自分の腰に差していた剣を引き抜く。その様子を見て酒場内の傭兵達は震え上がり、キバは涙を浮かべる。
「お前が心の底では俺の事をどう思っていようとお前の自由だがな、上の人間の言い付けも守る事が出来ない馬鹿を置いておく程、俺もお人好しじゃねえ……さっきの坊主と約束したからな、お前がもう二度とあの坊主たちにちょっかいを掛けないようにしてくれとな」
「うぐぐっ……!?」
「傭兵にとって面子は何よりも大事な物だってことは知っているな?お前のせいで危うく俺達の傭兵団は面子を潰される所だった。その責任を取る覚悟は出来てるだろうな、ガキがぁっ!!」
「ぎゃあああっ!?」
キバの悲鳴が酒場内へと響き渡り、骨が折れる音が響く。やがてロウガはキバから手を離すと、彼の身体が床に倒れ込む。ロウガは他の団員に視線を向けると、彼等は表情を青ざめさせる。
怯えきった表情を浮かべる団員達に視線を向けたロウガは唾を吐き捨て、倒れたキバに視線を向けると、団員達に命じた。
「後の事はお前等に任せる。こいつのような目に遭いたくなければ二度と掟を破るな、分かったか!?」
『は、はいっ……!!』
団員達はロウガの言葉に頷き、そんな彼等を見てロウガは鼻を鳴らすと、その場を立ち去る。残された団員達は自分達がキバと同じ目に遭わずに済んだ事に安堵する一方、腕が異様な方向に曲がったキバの姿を見て怯える――
――その頃、レノ達は不機嫌そうなドリスを宥めながら街道を歩き、鍛冶師のムクチの所へ向かっていた。彼女は目の前で犯罪が行われたのにそれを正す事が出来なかったのが不満だった。
「全く、私はこれでも騎士ですのよ!?それなのに犯罪を見過ごせだなんて……納得できませんわ!!」
「……どうどう、落ち着いて」
「私は馬ではありませんわよ!!」
「まあまあ、落ち着きなよドリス君。僕もレノ君も無事だったんだし、それでいいじゃないか」
「それより、ドリスとネココの方はどうだったの?何か情報は掴めた?」
ドリスとネココはレノ達と別れた理由はこの街の領主であるゴノが何らかの不正を行っていないのかを調べるためだったが、手がかりは掴めなかったのかネココは首を振る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます