第74話 怒りの大樹

「スラミン……!!やっぱり無事だった!!」

「ぷるるんっ(待たせたなっ)」

「うっ……な、何だ?何処だ、ここは……」



スラミンによって受け止められたはナオは目を覚ますと、自分の前にネココが立っている事に気付き、その後にトレントの姿を見て驚愕する。そして自分がゴブリン亜種の群れに敗れ、ここまで連れてこられた事を思い出す。



「ば、化物め……よくも私をっ、うぐっ!?」

「……無理をしない方がいい、戦える状態じゃない」

「ぷるぷるっ(早く逃げよう)」



ナオは怒りのままに立ち上がろうとしたが、怪我が酷くてしかも半日以上も放置されていたため、まともに動ける状態ではなかった。続けて上の方からウルとコクヨウも落ちてくると、2匹は地面に衝突して意識を取り戻す。



「ギャインッ!?」

「ヒヒンッ!?」

「こ、コクヨウ!?大丈夫か?」

「話している暇はない、すぐにここから離れる!!」



上から振ってきた自分の愛馬の姿を見てナオは心配するが、話し込んでいる間にもトレントは苦しみもがき、全身の枝をくねらせる。このまま残り続けるのは危険だと判断したネココはすぐに離れるように指示する。


ウルもコクヨウも酷い怪我を負っているが、ナオ程の重傷ではなく、片足を引きずりながらもどうにか移動は出来た。しかし、逃げようとするネココ達の姿を確認したトレントは怒りの表情を浮かべ、蔓を放つ。



『ジュルルルッ!!』

「き、来たぞ!?」

「……行って!!私が何とかする!!」



ネココはトレントの放った蔓を見て短刀を構えると、空中に跳躍して迫りくる蔓を切り裂く。蔓を斬り付けると根っこを斬った時と同様に血のような樹液が飛び出し、地面に散らばる。



『ジュラァアアッ……!?』

「くっ……長くは持たない、早く逃げて!!」

「す、スライム……頑張れ、もっと早く動けないのか!?」

「ぷるぷるっ!!」



ナオの言葉にスラミンは身体を跳ねる速度を上昇させ、トレントから離れようとするが、それに対してトレントは今度は巨大な枝を人間が腕を上げるように振りかざすと、逃げようとする者達に上から振り下ろす。



『ジュラララッ!!』

「まずい、逃げ切れない!?」

「くそぉっ!?」

「ウォオンッ!?」

「ヒヒンッ!?」

「ぷるる~んっ!!」



上空から迫りくる巨大な枝に対してネココ達は避けきれず、そのまま押し潰されるかと思われた時、どこからともなく三日月の形をした火炎が放たれ、ネココ達を押し潰そうとした枝に衝突した。


火炎の刃を受けた枝は勢いを殺され、一気に燃え広がる。トレントは悲鳴のような声を上げて枝に燃え移った炎を掻き消そうとするが、その光景を見たネココはすぐに前方を振り向いて歓喜の表情を浮かべる。



「皆、無事!?」

「レノ!!それと……アルト!!」

「僕はおまけかい!?」

「お、お前等……今のはお前等がやったのか!?」

「ウォオンッ!!」



レノ達が姿を現すとネココとウルは歓喜の表情を浮かべ、一方でナオは信じられない顔を浮かべた。トレントの攻撃をレノ達が防いだ事に動揺を隠せず、彼女はレノ達が何をしたのかと戸惑う。



「ここは危険過ぎる、早く逃げよう!!」

「レノ君、また来るぞ!?」

『ジュラアアアッ!!』



トレントは先ほど攻撃を受けた枝に対し、別の枝を叩きつけて燃えた箇所を破壊し、地面に落とす。全身に炎が燃え広がるのを防いだトレントは今度は別の枝を繰り出し、横向きに振り払う。


迫りくる巨大な枝に対してレノはアルトへと振り返り、彼は指輪を構えてレノに「火球ファイアボール」を放つ。レノは剣を突き出して刃に炎を纏わせると、今度は「火炎刃」を放たず、地面に構えて迫りくる枝を下から



「地裂!!」

『アアアアッ!?』



下方から繰り出された炎を纏った斬撃は横から迫ってきた枝を焼き裂き、トレントは2本目の枝を失う。その光景を見て他の者達は唖然とするが、レノは刀身に炎を纏わせた状態で促す。



「さあ、今のうちに早く逃げよう!!」

「あ、ああ……」

「凄い、レノ……」

「い、今の技は……まさか、巨人殺しの……?」

「ウォンッ!!」



レノの攻撃を見て呆けている者達にウルは一括するように鳴き声を上げると、すぐに全員が思い出したようにトレントから離れる。一方でレノは刀身に炎を纏わせた状態でトレントと向き合い、次に相手がどのように行動するのかを観察する。



(頼む、このままいかせてくれ……アルトの魔石も何処まで持つか分からないんだ)



今の所はレノと魔法剣とアルトの生み出す火球によってトレントに対抗出来ているが、いつまでアルトが使用している魔石が持つのかが分からない。もしも魔石の魔力が切れた場合、レノの魔法剣だけではトレントに対抗する事は出来ない。


一方でトレントの方も自分の枝を二つも焼かれた事に警戒したのか、無暗に枝を振るって攻撃を仕掛けるのを止めた。だが、レノ達の事を諦めたわけではないらしく、トレントは咆哮を放つと今度は地上に露出している根を動かす。



「えっ……?」

「う、嘘だろう……まさか、立ち上がるつもりか!?」

「そんな……」

「ば、化物めっ……!!」



人間の足のように根を利用して立ち上がったトレントは巨体をふらつかせながらもレノ達の元へと傾き始め、この時にレノはトレントの狙いに気付く。トレントは地面から根を引き抜いて自分達を追いかけようとしているのではなく、前のめりに倒れ込んで押し潰そうとしている事を知る。


このままではトレントの巨体によってレノ達は押しつぶされるのは目に見えており、咄嗟にレノは剣を構えるが「火炎刃」では「地裂」では到底防ぐ事など出来なかった。



(どうする!?どうすればいい!?)



考えている間にもトレントの巨体が傾き始め、もう避ける時間は残されていない。レノは自分の魔法腕輪の風の魔石に視線を向け、一か八か最後の賭けに出る事にした。



「皆、俺の傍に来て!!死にたくなかったら早く!!」

「な、何だと!?」

「何か思いついたのかレノ君!?」

「……信じる!!」

「ウォンッ!!」

「ぷるるんっ!!」

「ヒィンッ……」



レノの言葉を聞いてすぐに他の者は彼の周りに集まり、レノは成功するかどうか分からないが魔法腕輪に手を伸ばす。腕輪に取り付けられている風の魔石の魔力を限界まで引き出し、自分の魔力も上乗せして剣へと送り込む。

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