第324話 防衛戦
――ギィイイイイッ!!
城壁にてホブゴブリンの鳴き声が響き渡り、その声に反応した兵士達は何事かと慌てふためく。時刻が深夜であった事、そして数日間は何事もなく平和な時が経過していたので兵士達の警戒心は完全に緩み切っていた。
城壁の防衛は主に兵士の担当であり、冒険者や傭兵の殆どが街に戻っていた事が災いした。彼等は兵士ではないため、交代制で城壁の見張りの手伝いを行う事が決まり、城壁には数日前と比べて数は非常に少ない。
「て、敵か!?何処から現れ……ぐあっ!?」
「な、何だ!?どうした!?」
「や、矢が……うわぁっ!?」
「ギギィッ!!」
「ギィアッ!!」
鳴き声のした方向に巡回していた兵士が戻ってきたが、この時に先の登り切ったゴブリン達は事前に人間から奪った弓矢を装備していた。十数体のゴブリンは他の仲間が城壁を登り切る前に邪魔されぬように兵士達に矢を射かける。
「敵だ!!警笛を鳴らせ、すぐに鐘を鳴らせ!!」
「くそっ、どこから現れやがったんだ!?見張りは何をしていた!!」
「どうしてこんな数のゴブリンが近付いている事を見抜けなかったんだ!?」
『ギィイイイッ!!』
城壁には数十匹のゴブリンが登りあがり、兵士達と交戦を開始した。更に城壁の上に登り切ったゴブリンの数匹は何処から持ち出してきたのか、縄梯子を放り込む。
ゴブリン達が持ち込んだ縄梯子は人間の村を襲った時に回収した道具を使い、自力で作り出した者であり、縄梯子を固定するとゴブリン達はそれを利用して次々と城壁へ上り詰めていく。その光景を見て兵士達は愕然とした。
「な、何だこいつ等……普通のゴブリンじゃないぞ!?」
「縄梯子まで用意しているなんて……」
「いったい、何なんだ!?」
『グギィイイイッ!!』
兵士達がゴブリンを相手に手間取っている間、遂に地上の方からホブゴブリンの鳴き声が聞こえ、それを耳にした兵士達は地上の様子を伺う。この時に空堀の底の方にいつの間にか大きな穴が存在する事に気付き、そこから大量のゴブリンが出現している事を知る。
「あ、あいつら……地面掘って近付いてきやがったのか!?」
「そんな馬鹿な!?じゃあ、こいつらはずっと今まで地面を掘って近付いていたのか!?」
「ゴブリンがそんな方法を使うなんて……」
空堀の底に出来上がった大穴から次々とゴブリンやホブゴブリンが出現する光景を見て兵士達は激しく動揺し、混乱している間にも次々とゴブリンの群れは城壁の上から吊るされた縄梯子を登って上がっていく。
「ま、まずい!!すぐに他の城壁からも援軍を呼ぶんだ!!何としても街に降りるのを食い止めろ!!」
「くそっ、ここは俺達の街だぞ!!」
「近づくな、化物がっ!!」
「ギギィッ!!」
「ギィアッ!!」
「グギィッ!!」
城壁の上にて兵士とゴブリンとホブゴブリンの戦闘が始まり、街を守るために警備兵は奮闘するが、大穴から次々とゴブリンが出現する。更にはゴブリン以外の魔物も現れ始め、ファングやコボルトなども出てきた。
「ガアアッ!!」
「ウォンッ!!」
「こ、こいつら!?また他の魔物を……ぎゃああっ!?」
「だ、駄目だ!!抑えきれなっ……うわぁっ!?」
状況は一変し、先ほどまで平和だと思われていた城壁に多数の魔物が乗り込み、兵士へ攻撃を開始した。連日の警戒で兵士達の体力は消耗しており、警戒心が緩んでいた所の奇襲だったため、瞬く間に城壁の兵士達は蹴散らされてしまう。
どうにか異常事態を知らせるために兵士は警笛を鳴らし、街の人間にも聞こえるように緊急事態に陥った事を伝えるために鐘を鳴らす。街中に鐘の音が響き、住の人間達は魔物の襲撃が発生した事を察知した――
――同時刻、他の城壁の方でも南側の異変を察知し、鐘の根や魔物の声らしき音を耳にして他の城壁の警護を行っていた兵士達も動き出す。彼等は南側の城壁に緊急事態が発生した事を察知し、急いで援軍に向かおうとした。
「南側で警鐘が鳴り響いたぞ!!」
「すぐに迎えっ!!」
「くそ、魔物共め……遂に現れたな!!」
南側以外の城壁で見張りを行っていた兵士達も異常事態を察して準備を整え、急いで南側へ向かおうとした。だが、反対側の北側の城壁にも同じように空堀の底の部分から巨大な腕が出現し、緑色の巨人が出現する。
――ギァアアアアアアアアッ!!
姿現したのは隻眼のゴブリンキングであり、あろう事か魔物を統率する立場のゴブリンキングに進化を果たしたスカーは単騎で街の北側へと姿を現す。ゴブリンキングが出現した事に南側へ向かおうとした兵士達は戸惑い、混乱に陥った。
「な、何だあの化物は……!?」
「ま、まさか……ご、ゴブリンキングだぁっ!!」
「何だと!?王国騎士様が倒したんじゃないのか!?」
倒したと報告を受けていたはずのゴブリンキングが再度出現した事に兵士達は混乱の極地に陥り、その間にもゴブリンキングと化したスカーは大穴から抜け出すと、その背中には街の城門が存在する方角へ向かう。
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