第139話 もう敵じゃない
「よし、解放しろ!!」
『ガアアアッ!!』
檻が開け開かれた瞬間、3体のコボルトが試合場へ解き放たれた。それを目にしたレノは剣を構えると、迫りくるコボルトの様子を伺う。尋常ではないほどの涎を垂らし、殺気を放つその姿にレノは山で育った時の出来事を思い出す。
肉食の魔物と遭遇した時、最も恐ろしい事は遭遇した相手が飢餓状態へ陥っているかどうかである。腹を空かせた魔物は獲物を前にすると理性を失い、問答無用で襲い掛かる。それが自分よりも強大な相手だろうと躊躇はなく、最弱と呼ばれているゴブリンでさえもコボルトやボアなどの魔物に襲い掛かる事もあった。
(もう何日も餌を与えられていないな……飢餓状態に追い込んで危険度を高めているのか)
接近するコボルトは獲物を前にして理性を失い、確実に仕留める攻撃でなければ襲い掛かるのを止めないだろう。鋭い観察眼でコボルトの状態を見抜いたレノは剣を構えると、足の裏に魔力を集中させて飛び込む。
「だああっ!!」
「アガァッ!?」
「ガアッ!?」
「ウガッ!?」
瞬脚を発動させたレノは踏み込んだ瞬間に前方へ高速移動を行い、正面に存在したコボルトの口元に刃を放ち、頭部を切り裂く。下顎から上の部分が切り裂かれたコボルトは地面へと倒れ込み、その様子を見ていた他の2匹は驚いたように振り返る。
(まだまだ!!)
続けてレノは瞬脚を発動させて2体目のコボルトに狙いを定め、刃を振り抜く。今度は胴体を切り裂き、上半身と下半身を別れさせる。コボルトの悲鳴が地下闘技場内に響き渡り、残った1体に対してレノは続けて瞬脚を発動させてコボルトの顔面に刃を突き刺す。
「だああっ!!」
「ッ――!?」
「う、嘘だろ!?」
「あのガキ、何て素早さだ!!」
「一瞬で終わらせやがった!!」
コボルトの口元に刃が差し込まれ、頭部を貫通した。これによってコボルト達は全て倒され、ゴブリンが出てきたときよりも短時間で試合は終了してしまう。その様子を見ていた観客は動揺を隠せず、一方でアルトも驚きを隠せなかった。
レノの強さを知っているはずのアルトだったが、明らかに最初に出会った頃よりも戦闘慣れをしており、恐らくは修羅場をくくり抜けたレノ自身も急成長している事が伺える。一方で試合場のレノは剣を引き抜くと、足元を抑えて眉をしかめる。
(やっぱり瞬脚を連続で発動させると足が痛むな……3回が限界か)
風の魔力を放出する事で加速を行う瞬脚は足に負担が大きく、本来ならば多用には向かない。無理に利用すると両足を壊してしまう可能性があるため、レノは次の試合が始まるまで足を休めるために片膝を着く。
「お、おい!!早く次の魔物を用意するんだ!!」
「は、はい!!よし、運び込めっ!!」
まさかコボルトがこんな短期間で破れるとは思わなかった兵士達は慌てて次の檻を運び出し、今度の檻の中に「オーク」が閉じ込められていた。今度は3体のオークがとじ込まれ、兵士はすぐに解放の準備を行う。
「プギィイイッ!!」
「プギィッ!!」
「フゴッ……フゴォッ!!」
「よし、すぐに解放しろ!!」
檻が試合場へと運び込まれると、即座に扉が解放されて3体のオークが出現する。この時にレノは先ほど殺された男性の事を思い返し、そして檻の中から出てきたオーク3体は既に血塗れの状態だった。
「あの時のオークか……」
『プギィイイイッ!!』
先ほど殺された男性の事を思い出したレノはオークに対して鋭い視線を向け、立ち上がると荒正を構える。刃を横に構えると、風の魔力を一瞬に送り込み、大きく振り払う。
「嵐刃!!」
『プギャアアアアッ!?』
「うわっ!?」
「な、何だ!?」
「急にぶっ倒れたぞ!?」
オーク達の肉厚な腹部に血飛沫が舞い上がり、レノが生み出した風の刃がオークの肉体を容易く切断する。観客席からレノが離れた場所から剣を振っただけでオーク達が倒れたようにしか見えず、またもや試合が一瞬で終了してしまう。
あまりにも早すぎる決着に兵士達は唖然とするしかなく、またすぐに新しい魔物を用意する必要があった。彼等は闘技場内に慌てて入り込むと、檻を引き出して次の魔物の檻を運び込む準備を行う。
(これで3連戦目……あと2回勝てば終わりか)
今のところは苦戦する事もなく、最短で試合を終わらせる事が出来た事にレノは安堵する。その一方で観客席の方はレノのあまりの強さに盛り上がり、兵士達に怒鳴りつける。
「おいおい、さっきからすぐに終わっちまうぞ!!」
「もっと強い魔物を出せ!!」
「こんなに早く終わったらつまらねえぞ!!」
「手加減しろよ挑戦者!!」
観客の煽りに対して兵士達も顔色を変え、このまま並大抵の魔物を送りつけてもすぐに終わらせられる可能性もあった。それを回避するため、兵士の隊長格の男が命令を与えた。
「次に予定していたボアを飛ばせ!!あれを出せ!!」
「えっ!?よろしいのですか!?」
「いいから早くしろ!!」
隊長の言葉に兵士達は戸惑いながらも従い、やがて通路側から巨大な檻が運び込まれる。兵士が十数名がかりで荷車を運び込み、試合場へと運び込む。
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