第86話 ネズミ婆さんの名前の由来
「おい、あんた!!私の用心棒をよくもやってくれたね!!それに私の酒場を無茶苦茶にしやがって!!」
「ひひっ……何だ、ここはお前の店だったのか?」
「気色悪い笑い方も気に入らないね!!あんた、私を誰だと思ってるんだい?泣く子も黙る、ネズミ婆さんだよ!!」
ヤンに対してネズミ婆さんは怒りを露にすると、彼女は口笛を吹く。その行動にレノとヤンは疑問を抱くが、他の者達は顔色を変えて慌てて周囲を見渡す。
「や、やべえっ!!婆さん、俺達を巻き込むなよ!!」
「ひいっ!?ど、何処から現れるんだっ!?」
「……レノ、気を付けて。これからとんでもない事が始まる」
「とんでもない事?それっていったい……うわぁっ!?」
レノはネココの言葉を聞き返そうとした時、酒場全体に振動が走り、やがてあちこちから大量の鼠が姿を現す。その数はとても数え切れず、大量の鼠の群れがネズミ婆さんの元に押し寄せると、彼女は腕を組んで堂々と言い放つ。
「お前等、この男を噛み殺しなっ!!」
『チュチュイッ!!』
大量の鼠は奇怪な鳴き声を上げながらヤンの元へと迫り、無数の鼠が一斉に飛び掛かる。その光景を目にしたレノはネズミ婆さんの名前の由来を気付き、彼女は大量の鼠を従えている事を知る。
ネズミ婆さんの号令を受けた大量の鼠はヤンの元へと向かい、その牙で噛みつこうとした。しかし、それに対してヤンは動じずに蛇剣を振り払うと、自分に近付いてくる鼠たちを次々と蹴散らす。
「はっ!!鼠如きが蛇に勝てると思うな!!」
『チュイイイッ……!?』
剣を幾度も振りかざすと、鞭の様に刀身を変化させてヤンは次々と迫りくる大量の鼠を蹴散らす。斬り付けられた鼠たちの死骸が空中に吹き飛び、その光景を目にしてネズミ婆さんは増々怒りを燃え上がらせる。
「やっちまいなあんたら!!この男は絶対に逃がすんじゃないよ!!」
『チュイイッ!!』
「ふん、どれだけ数を増やそうと無駄だ!!」
鼠たちはヤンへ目掛けて突っ込むのを辞めず、それに対してヤンは蛇剣を振り払って接近する鼠たちを一掃する。その光景を見ていたレノはどうするべきか悩み、弓を構えて矢を番えた。
(この距離なら魔弓術を使わなくても……外さない!!)
鼠たちの攻撃の合間を狙い、レノは矢を放つ。それに対してヤンは剣を振り払いながらも矢の接近に気付くと、彼は頭を逸らして回避する。
「良い腕だ、だがそんな物は俺には通じん!!」
「ちっ、どんどん撃ち続けな!!奴が疲れるまで撃つんだ!!」
「は、はい!!」
ネズミ婆さんの言葉にレノは従い、新しい矢を構えようとした。それに対してヤンは鼠たちを振り払いながらも彼に視線を向け、ここで蛇剣を握りしめていない方の腕を背中に伸ばすと、彼は隠し持っていたもう一つの武器を取り出す。
「俺の剣が一つだけだと思ったか!?」
「何だって!?」
「まさか……まだ魔剣を隠し持っていた?」
ヤンは右手で蛇剣を振り払い、今度は左手に同じ形をした剣を取り出す。こちらの方は黒色の刀身ではなく、白色の刃である事から「白蛇」を想像させた。
二つの蛇剣を手にしたヤンは両手で刃を振り回すと、蛇たちを薙ぎ払ってレノとネココの元に刀身を伸ばす。その光景は正に黒蛇と白蛇が二人に目掛けて飛び込んできたように見えた。
「死ねぇっ!!」
「くっ……レノ!!」
「うわっ!?」
弓を構えていたレノは迫りくる蛇剣に対して咄嗟に防御や回避に移る事が出来ず、それに対してネココが彼の前に出ると両手の短刀を構えて迫りくる二つの刃を弾こうとした。しかし、刃を弾いた瞬間に剣先は軌道を変更させ、ネココの背中に噛みつくように刃が突き刺さる。
「あぐっ!?」
「ネココ!?」
「あんた、何をっ!?」
レノを庇う形で守ったネココを見てネズミ婆さんは驚きの声を上げ、すぐにレノは弓を手放して彼女の身体を支える。剣は引き抜かれるとネココの背中に血が滲み、彼女は苦し気な表情を浮かべた。
ヤンの方は蛇剣を元に戻すと笑みを浮かべ、剣先にこびり付いた彼女の血を見て興奮した表情を浮かべる。その様子を見ていた他の者達は背筋が凍り、一方でレノはネココの背中を確認して傷が深い事を知る。
「くそっ、しっかりしろネココ!!誰か、回復薬はもってないですか!?」
「うっ……私は大丈夫、それよりも敵に集中して」
「あんた、どうして庇ったりなんかしたんだい!?」
「……レノは友達、だから」
ネズミ婆さんはネココがレノを助けた理由を尋ねると、彼女は苦笑いを浮かべながら答える。そんな彼女の態度にレノは心を打たれ、すぐにヤンに対する怒りを抱く。
「ネズミ婆さん、ネココをお願いします」
「お、おい!?あんた、何をするつもりだい!?」
「決まってるでしょ……俺の友達を傷つけたクズ野郎をぶっ飛ばす」
「レノ……!!」
レノは剣を抜くと、ヤンに向けて構えを取る。その光景を目にしたヤンは笑みを浮かべ、彼は両手に握りしめた蛇剣を振り回しながらレノに告げた。
「ひひひっ……お前が魔法剣士である事は知っている。なんでも、火炎の刃を飛ばす事が出来るそうだな。だが、これだけ距離が離れていると先に攻撃を当てられるのは俺の方だぞ?」
「ごちゃごちゃうるさい奴だな……!!」
どうやらレノがロウを倒した時の情報はヤンにも知られているらしく、この様子だと他の3人の賞金首にも伝わっているだろう。しかし、自分の手の内を見られようとレノは構わずにヤンの元へと迫る。この時にレノは魔法腕輪を取り出し、腕に装着を行う。
確かにヤンの蛇剣は二つ存在し、仮にレノが遠距離から「火炎刃」を放ってもヤンの蛇剣の方がレノの身体を斬り付けるだろう。もしも接近出来たとしてもヤンは蛇剣を振り払うだけで迫りくる大量の鼠を吹き飛ばしていた事から考えても、レノが直接斬り付けようとしても鼠と同じように切り刻まれるのは目に見えていた。
それでもレノは構わずにヤンの元へと向かい、魔法腕輪に嵌め込んだ風の魔石から魔力を引き出し、刀身に纏う。通常よりも多めに風の魔力を刀身に纏わせると、レノはヤンに目掛けて突っ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます