第316話 その可能性は大だと思う

 懐から二本目のナイフを取り出し、またしても腹を切ろうとするサムライ少女。

 それをまたセレンが剣で叩き割る。


「なぜ死なせてくれぬでござるか!?」

「うん、いいから名前を教えてもらえる?」


 それからどうにか気持ちを落ち着かせ。

 サムライ少女はようやく名乗ってくれた。


「拙者はアカネと申す。齢は十七。サムライの国、エドウに生まれ、幼き頃から剣一筋に生きてきたでござる。そして己の剣の腕を証明すべく、未だかつて誰も成し遂げたことのない、大山脈の踏破に挑んだでござる」


 しかしその途中で力尽き、死にかけたところで、ドーラに助けられたってわけだね。


「お見受けしたところ、ここは西側の国でござろう? ドラゴンの顎に捕らえられ、確実に死んだと思っていたのでござるが……」


 不思議そうに首を傾げるアカネさん。


「そのドラゴンならそこにいるよ」

「わらわが助けてやったのじゃ!」

「え? いや、いくら頭の弱い拙者でも、そのような冗談は通じぬでござるよ」


 頭の角としっぽ以外は普通の幼女にしか見えないからね。


「本当にわらわなのじゃ! 見ておるがよいわ」


 村長宅として利用している宮殿の、最上階フロアの一室から、バルコニーへ移動する。

 家の中でドラゴンになられたら困るからね。


 ここのバルコニーにはプールとか露天風呂があり、かなり広い。

 ドーラがこの村に来るときには、この場所に着地することも多くて、ここなら巨大化しても問題はない。


 見る見るうちに巨大化していくドーラ。

 そこに全長二十メートルを超えるドラゴンが出現し、アカネさんはあんぐりと口を開けた。


「どうじゃ、この通りじゃ!」

「ほ、本当でござったとは……てっきり、拙者をからかっているとばかり……」


 とそこで、アカネさんが懐に手を突っ込んだ。

 ま、まさか……っ!


「疑ってしまって申し訳ない! なんとお詫びすればよいのか、生憎と拙者には見当もつかぬでござる! かくなる上は、この命で……」

「もういいから!」


 三本目のナイフを手にし、切腹しようとする彼女を慌てて止めた。

 本当に何本隠し持ってるんだろう……。


「人化の魔法で、人の姿になれるみたいなんだ。元々はあの山脈に住んでるんだけど、色々あって仲良くなって、最近はよくこの村に遊びに来てくれてるんだよ」

「ドラゴンと親しくなるとは……一体この村は……なっ!?」


 途中まで言いかけたところで、アカネさんは絶句する。

 どうやらこのバルコニーから、眼下に広がる村を見下ろしたらしく、


「こ、これが村っ!? 大都市の間違いではござらぬか!? しかもこの建物、信じられぬぐらいの高さでござるよ!」

「まぁ、確かに規模としては、都市と言った方がいいかもしれないけど……」


 あくまで『村づくり』というギフトで作ったわけだからね。

 やっぱり「村」と呼ぶのが正しいだろう。


「それに、見たことのないような建物がたくさんあるでござる……。これが噂に聞く西側の……くっ、本来ならば自力で辿り着いて初めて、この光景を目にするはずだったというのに……っ!」


 僕たちは慌てて彼女を制止するべく動いていた。


「む? どうしたでござるか?」

「……いや、てっきりまたナイフを取り出して、切腹しようとするのかと」

「ははは、さすがにこの程度のことで腹を切りはせぬよ」


 何を戯言を申すか、とばかりに笑うアカネさん。

 腹を切ろうとする基準がさっぱり分からないんだけど?


「それより、せっかくだから村を案内してあげるよ。思い描いてた形とは違うかもだけど、もう見ちゃったんだしさ」

「むう、そうでござるな……。それなら、ルーク殿の厚意に甘えさせていただくでござるよ」







「……ねぇ、フィリア? 最初にこの村を見ちゃったら、これがこっちの常識だと思っちゃうんじゃないかしら?」

「セレン殿、その可能性は大だと思う」


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